管理者代行として異世界に出向します
リトルアームサークル
第1話 管理者領域
アパートの自分の部屋でくつろいでいたら、突然目の前が真っ白になった。
これはアレか?最近よく聞く白内障っていう眼の病気の症状か?白内障は目の水晶体が白く濁って視力が低下するんだったな…確か。
現状、視界はゼロなんだが…
年齢を重ねると誰でもなるらしい…眼だけは良かったのにとはよく聞く言い訳だ。
だが、最近はICL(眼内レンズ)による治療も可能だと聞く、芸能人にも手術を受けたとブログに書き込んでいる人がいるくらいだ。
「おいおい、随分と眼の病気について詳しいようじゃが、別にお主の眼が異常なのではないぞ。単にこの管理者領域の空間が真っ白なだけじゃぞ」
真っ白な空間に白い髭の御老体の顔が浮かび上がった。ローマ法王が着ている様な裾の長い白い法衣と白い帽子を頭に乗っけている。
「白い空間で白い法衣ってどうなんですか。自分の眼の異常を疑っちゃってもしょうがないですよね」
「それもそうかの、視覚に頼っておらんから気がつかんかった、申し訳ないの。これならどうじゃ?」
白い法衣の上に赤い肩マントと飾り帯などが現れた。
「おお、やっと空間を認識できました。それで御老体は何者なんですか、私は死んだんでしょうか?」
「いいや、死んでおらんよ。ぴんぴんポックリが理想なんじゃろ」
「それはみんなそうでしょう?死ぬ間際まで痛いのはイヤですからね。自慢じゃないですが、私は痛みに全くといっていいほど耐性がありませんよ。スパイには絶対なれないと断言できます。拷問される前に洗いざらいお話します」
「現在のカラダに未練は無さそうだが、残りの人生に心残りはないのか?」
「ないですね、こんな人生。死ぬまでに今の貯蓄と年金でやっていけるかどうか計算しつつの人生なんて、どこにも意味なんて見出だせません」
「随分と達観しておるのう」
「色々と経験すればそうなりますよ。もっと過酷な状況や環境にあったら、違っていたかも知れないですけど…ストレスとどう付き合って行くかを探すだけのような、神経を擦り減らす生活に生きる価値を見出だすのは難しいですよ」
「そんなものかの?」
「そんなもんなんですよ」
「まぁよいかの。それでお主をこの管理者領域に呼び出した理由なんじゃがな」
御老体が白いあごひげを撫でながら、
「わし、ちょっとお主らが地球と名付けたこの世界から目が離せんでな、代わりに今まで手をかけてきた異世界に管理者代行として出向いてもらいたいんじゃ」
「え~!あんまり面倒くさいことはやりたくないんですけど」
「これは、お願いという体裁を繕った決定事項なんじゃ、お主に選択権はないぞ。基本やってもらいたいのは魔素が変質してしまった瘴気を吸収してくれれば良いだけなんじゃよ」
「ホントにそれだけ~、なんか隠してないですか?」
御老体が少しの間考えると、
「イヤ、別に隠しとらんぞ。瘴気を吸収したら即、魔素と瘴素に分離させるし、魔素の貯蓄量は無限に設定するから、魔素蓄積過剰による暴走はないしの。ただ、この場ですべて説明するのは時間的に難しいんじゃよ」
「それって、実際に向こうの世界に行ってからわかるって事ですよね?」
「そうじゃ、だから向こうに行って困らんように、取り扱い説明書的なモノをお主に付与しておくぞ」
「取り扱い説明書があれば、安心ですね」
「そこは随分と軽いの。気を付けねばならんのは、向こうの世界に着いたばかりのお主は魔素量がゼロな状態ということじゃ!これは弱い、弱すぎるんじゃ!できる限り瘴気が異常発生してる場所の近くに転移させるから、すぐに瘴気の吸収を行うんじゃぞ」
「わかりました。ところでなぜ地球から目を離せないんですか?」
「よくぞ聞いてくれたの!今までもちょこちょこ様子は見に来ていたんじゃが、結構他の管理者領域の世界からチョッカイ出しに来ておってな、ルール違反じゃろうがという事で、そやつらが造った文明はことごとくぶち壊してやっておったんじゃよ」
「それってピラミッドやスフィンクスの古代建造物は、他の世界からの移住者が造ったってことですか?」
「たぶんそうじゃろな、地球の固有の種族は恐竜族だったからのう。残念な事故がなければ、今頃巨大生物の世界が拡がっていたじゃろ」
本来の地球は、ジュラシックパークの世界になってるはずだったのかと驚いていると、
「目についた文明は粗方潰したから、地球はしばらく大丈夫じゃろと思っておったら、むこうの世界の魔素が不安定になってしまって、そちらにかかりっきりになっていたんじゃ」
「それがいまだに、解決出来ていないという事ですか?」
「まぁのう。他にも担当領域があるんじゃから、わしも忙しいんじゃよ。それでじゃ、しばらくぶりに地球の様子を見に来てみたら、エライ事になっておってビックリ仰天なんじゃよ」
「それって今の地球がですか?」
「そうじゃ、これ程の短期間で文明がここまで発達してしまうのは経験した事がないぞ!これを論文にして発表すれば、管理者組織の幹部も夢ではないのじゃ」
「御老体、わりと俗っぽい野望お持ちなんですね」
「まぁのう、わしもまだまだイケジイじゃ!ただ、急発達の反動か今の地球は危ういんじゃ。お主も知っておるじゃろ、温室効果ガスによる温暖化現象の事は」
「ええ、もちろん。異常気象を身近に感じていますから」
「じゃろ!今のままではわしが論文を発表する前に、この文明は地球の自然に淘汰されてしまうじゃろう」
「心配はそこですか?だったら他の世界から、二酸化炭素を無限に吸収出来る人を連れて来ればいいんじゃないですか?」
「それも視野に入れての今回のお主の起用なんじゃよ、スタートケースなんじゃ。お主が向こうの世界で成功したら、地球にも導入を検討するつもりじゃ」
「なんか地球を人質に取られてる気分なんですが…」
「二酸化炭素を吸収出来るというたら、樹人族(トレント)しかおらんのじゃよ。科学文明真っ盛りの地球に樹人族(トレント)を連れて来たら、どうされるかは想像に難くないじゃろ」
「
「それに地球には魔素がないからの、樹人族(トレント)が機能出来るのかもわからんのじゃ。そう言った事情からもお主には期待しておるのじゃよ」
「なるほど、事情は理解しました。地球に未練もないので、行きましょうそちらの世界に」
「おお、決心してくれたのじゃな。よろしく頼むぞ」
「ちなみに、あちらの世界で頑張っちゃっても構わないんですか?」
「そりゃ、もちろん構わんぞ。瘴気の吸収がこちらの願いじゃからな、国を造ろうが壊そうが好きにしてくれて構わんのじゃ」
「わかりました。ケースバイケースで対応しますね」
「うむ、それではさっそくで申し訳ないが、あちらの世界に転移させるのじゃ」
白い空間がねじれると、意識が白い渦の中に巻き込まれて行った。
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