≪アンノウン≫冒険者達の選択
ものえの
1.黄金の葉
ここは、いわゆる異世界、剣と魔法が支配する西洋のおとぎ話に似た世界だ。ところで今、君がこの文を読む現実世界には様々な不幸が存在する。そしてその不幸は、大半は目に見えないモノ・・・『運』による事が多い。君達の言葉で言うなら【〇〇ガチャ】というヤツだ。しかし、これから語る異世界の物語にはこの『運』が姿かたちを成して不幸を振りまく。この不幸を振り払い、人々から賞賛される存在を君達はウンザリするほど耳にしただろうが、あえて言おう。『冒険者』と。そして今から語る物語は、この異世界で活躍する冒険者達の織り成す物語なのである。
最初に語るのは、ある男性ドワーフの神官の物語だ。彼の名はギーム。義に厚く、何よりも民草の安寧を願うこの冒険者は、ある村のゴブリン退治を引き受ける事になったのだが・・・。
ドワーフは一息付くと、仲間に声をかける。
「この丘を越えれば、目的の村だ。枯れた巨樹が目印だからすぐわかるじゃろう。」
「アンタが一番遅れてるのよ、さっさとその短足動かして追い付きなさいよ!」
蒼い瞳をした、切れ長の目でギームを見下すのは、エルフの女魔法剣士だ。人間の歳に当てはめれば14,5才といったところか。幼くみえるが、侮ってはいけない。長命で知られるエルフは、戦闘の経験もベテランの戦士以上に積んでいる事が多いのだ。
「そう慌てる事もないでしょう、シアナ。予定の会合までにはまだ十分間に合いますから。」
いら立つシアナに、懐中時計を見せてニッコリ微笑む優男。目深にフードを被り、意匠を施された杖を持つところから、彼が魔法使いらしい事が伺える。
「ソルディックのいう通りさ。そもそも途中の駅舎で馬車を返したのシアナじゃん。ホント、ヘンなところでケチなんだから。」
ケラケラと笑いつつ、短剣をジャグリングしながら同行する少年。彼もシアナと同じ年頃に見えるが、こちらの彼は、れっきとした人間だ。
「だぁれがケチですって?!」
少年の言葉に声を荒げるシアナ。しかし少年は動じる事も無く楽し気に笑ってシアナを挑発する。
「そこまで。じゃれ合いの続きは村に着いてから始めるんだな。」
2人の会話に割って入ったのは、ひと際体格のよい、重厚な鎧に身を包んだ男だ。大剣を背負っており、これが主武器なのだろう。彼の、威圧感あふれた静止の言葉にシアナは仕方なく口をつぐむ。
程なくしてギームも合流し、一行は依頼人の待つ村へと向かった。
「これはこれは、一行様。長旅お疲れ様でございました。ささ、こちらへ。」
恭しく出迎えたのは、依頼があった村の長だった。歳の頃は50前後だろうか。やや疲れた表情にも見える。客間に案内されるが、村の規模にしては豪華なのが気掛かりだ。果たして、これを単なるゴブリン退治と考えて良いものか、一行は訝しむ。
「実はこの村の近くに洞窟がありまして。度々ゴブリンのような魔物が棲みついてしまうのです。もし魔物に村を略奪されるような事があれば、我々は生きてはいけません。」
「分かりました、ゴブリンの件は我々で処理をします。ですが、その前に聞かせてもらいたい事が。」
切り出したのは、大剣の男だ。
「先に自己紹介を。俺の名前はケインです。まず一つ。ここにある豪華な装飾品を買う金銭はどこから入手したのです?そしてこのように潤沢な資金があるのであれば、洞窟を岩で封鎖する事も可能だったのでは?」
彼の問いに村長は軽く頷くと、問いに答える。
「疑問の件は至極ごもっともです。ここにある装飾品は、先代の村長が遺した、いわば村の所有物であって私めの私物ではないのです。ですので当然自由に売買は出来ません。次に資金ですが、この様な村に潤沢な資金などございません。ですので、皆さんにお支払いする報酬で精一杯なのです。」
「でもさ、ウチらのパーティを指名依頼してきたじゃん?あれは何でさ?」
間髪入れず、口をはさむシアナ。
「それは、皆様のご活躍を噂に聞いておりまして、はい。」
「フーン・・・。」
ジト目で村長を睨みつけるシアナ。
「ハハッ、イイじゃん、ボクらも有名になったって事で。」
カラっとした笑いで愛嬌を振りまく少年。
「んじゃ、ボクからも質問。この部屋にある覗き穴、四方に4つ、であってる?」
少年の問いかけに、ギョッとした顔をする村長。
「そ、そのような仕掛けなどこの部屋には・・・」
「あ、そ。いいよいいよ、そのリアクションで皆わかっちゃったから。でも気を付けた方がいいよ~。そこのお姉さんに用意した部屋に覗き穴なんてあった日には・・・」
「ちょっとティム!あんた何を・・・」
顔を赤らめ、手をブンブン振るシアナ。
「その貧相な裸体の情報と自らの命を引き換えという何ともお粗末な末路が待ってるからね。」
天を仰ぎ、大きくため息を付く少年改めティム。
と同時に、シアナの目に明確な殺意が宿る。
シアナがティムに飛び掛かろうとする瞬間、ギームの拳がシアナの後頭部を打ち据えた。
「ええ加減にせんか!依頼人の前じゃぞ。」
その間を逃さず、村長はそそくさと席を立つ。
「では、皆さまへの夕餉の準備をさせていただきますので、どうかごゆるりと。」
客間に残された、5人の冒険者達。
「・・・たたた。」
後頭部を擦りつつ、むくりと起き上がるシアナ。
「御託は後からいくらでも聞いてやるわい。で、結局この仕事引き受けるんじゃな?」
ギームは視線をケインに向ける。
「ああ、ゴブリン達は早急に排除すべき事案だ。ただ情報が足りない。」
「ゴブリン達?あいつらなら、この村に近寄る事すら出来ないわよ。」
「どういう事だ?シアナ。」
「≪森の番人≫たるエルフにしか感じない、精霊力ってのがこの世界には存在するのよ。そして、結界といえる精霊力がこの村を護っている。あの枯れた巨木を中心に、ね。」
「!何と。あの木はまだ枯れてはおらんのか。」
驚愕し、思わず立ち上がるギーム。そしてはっ、と口を塞ぐ。
「大丈夫、怪しい所は全部目張りしておいたから。さすがに、今すぐ怪しい行動はしないよ、あの村長さんは。」
一仕事終えたティムが天井からぶら下がりながらギームを諭す。
「(コホン)話を続けていいかしら。」
得意げに咳払いをし、シアナは話を続ける。
「あの巨木自体、精霊の力を秘めた霊樹だったと思われるわ。そしていつしか霊樹の中は精霊たちの遊び場となった。でも精霊たちより先に木の方が寿命を迎えてしまった。
ほとんどの精霊たちが力を失った霊樹から去って行った。ところが、木が死んでも遊び場を失いたくない精霊がいた。私が知る限り、この波動をもつ精霊は・・・」
「・・・ドリアード、です。」
残しておいた取って置きのおかずを取られたかのように、口をあんぐりと開けるシアナ。
その視線の先には、村に入ってから一度も口を開く事の無かった、ソルディックの姿が
あった。
「まぁ、僕も精霊を召喚する事のある身として、知識自体ありますので。」
はにかみ笑いを浮かべつつ、その場を取り繕うソルディック。
(ケッ、この爽やかイケメンが。)
ソルディックに悪態を突きつつ、シアナが問い詰める。
「じゃあ、何で今まで黙ってたのよ!」
「シアナさんの推測に大方同意していたもので・・・はい(笑)」
ソルディックはその端正な顔立ちの顎に手を当て、物思いにふけるように答える。
「ただ気になる事が。僕に対する視線を感じるんですよ。あの巨木の奥に潜む何かから。シアナさんと僕が知るドリアードとは決定的に何かが違う。そんな感じがするのです。」
「(だから何でいちいちボーズ決めるのよ)じゃあ、今日の夜にでも調べましょうよ。」
「いや、手は出さない。」
ケインが2人の会話を遮り続ける。
「俺達の依頼はゴブリン退治だ。そして報酬を受け取り次第、この村を去る。各人不要な厄介事は起こさないでくれ。」
「でも、厄介事に巻き込まれたら?」
ティムがすかさず口をはさむ。
「『いつも通り』、に決まっておろう!」
ギームが豪快に笑い答える。
皆が一斉に笑うと同時にノックの音がする。
「冒険者の方々、お待たせしました。夕餉の支度が整いましたので、食室へご案内を。」
一行は客室を出て食室へ向かう。
「おおぅ!」
彼らから声が出るのも当然だ。移動時は干し肉や乾パンが主食、よって久しぶりに新鮮で温かい料理にありつける事は、暖かい寝床と同じく彼ら冒険者にとって何よりのリフレッシュなのだ。彼らは席に付くやいなや、早速エール酒とワインについての講釈をギームとシアナが語り出す。一説では、エルフが人間の生活圏に下りてくるのは、ワインの魅力に取りつかれてしまったから、とか何とか。そんな中、祝宴が始まるのだが料理自体はいわば田舎料理に近いながらもとても味が良く、村長曰くある街で食した店のコックを口説き落としてスカウトしたらしい。皆一同に“なるほど”と納得し、酩酊状態になったシアナを男たちが抱えるいつものパターンで用意された寝床に付くのであった。
その夜。
「・・・そろそろかな。」
寝床から飛び起きるティム。そして毛布を包み、寝床に自分の姿に似せた形を作り置くと頬を両手でピシャリと一叩きする。
「さて、お仕事すっかぁ。」
窓から壁に張り付き、仲間の部屋を様子見するティム。
(事前に内部屋拒否して全員窓部屋に指定してくれたケイン、流石リーダーだね。)
そろり、そろりと各部屋の確認をするティム。
(ありゃ、ケインもぐっすり寝てる。食事にも入ってたな、この様子じゃ)
ティムは、宴会の間、一切の食事に手を付けていなかった。体よく、酒を注ぐ側に回って時間を稼いでいたのだった。
鉤爪を使い、屋根の上に上がるティム。そして例の巨木が見える位置で座ると、懐から乾パンを取り出し齧り出す。
(ま、盗賊稼業のボクには、これで十分)
すると、何やら白いフードを全身に羽織った村人が続々と巨木に集まって行くのをティムは見る。
(え?なになに?てか、ここじゃ何言ってるのか分かんないや。危険だけど近づくしかないか~)
ティムは素早く自室に戻ると、シーツを使ってお手製の白いフードを作り、集会の場へ向かう。彼らは口々にこう、祈りの言葉を巨木に捧げる。
『黄金の霊樹よ、我らに黄金の葉を!黄金の霊樹よ、我らに黄金の葉を!』
(黄金の霊樹?黄金の葉??いや、今はこいつらの言動に注視だ)
恐らくは木箱で作られたであろう、白の壇上には村長が立つ。
「喜べ、我が村の民よ!今宵、私は女神が求めし声を聞いた。“わらわの目に叶いし麗しき君との引き換えであれば、女神は黄金の霊樹を再び黄金の葉で満たそう”、と。」
熱狂する村人たち。その最中、ティムはうずくまり思考する。
(あの覗き穴、ひょっとしてドリアードが覗く為の儀式的な穴だった?冒険者を品定めするのに必要、とか。いや、今はそんな事より選ばれたのは誰だったか、って事だよ。ボ、ボクじゃないよね?)
「その男の名はソルディック=ブルーノーカー。皆も見た通り麗しい美男だ。私の目に狂いはなかった。」
(あーそーゆーことね、スカウトの理由って。)
ホッと、安堵の息をするティム。
「村長万歳!村長万歳!」
喝采の声が闇夜の村に響き渡る。
「静かに。冒険者殿の安息の邪魔だ。後は、ゴブリン討伐後、彼らに霊樹に触れてもらえばよい。後は女神がソルディック殿を楽園へ誘ってくれよう。・・・そういう事だ、ティム君。」
ギョッとして立ち上がるティム。
「カンのいい君の事だ。食事に手を付けていなかった事も知っていたよ。そして私がここで全てを明かした事も理解しただろう。今の君に手立ては無い。私を滅したところで、
また新たな村長が現れるだけだ。むしろ、私は君のその実力を高く評価している。このまま黙って見過ごしてもらえたら、君にも特別に黄金の葉をプレゼントしよう。ゴブリン討伐の報酬とは比較にならない、遊んで暮らせるだけの金額になるはずだ。」
「うっ・・・ボクは、仲間をゼッタイに売るもんかぁ!」
シーツを脱ぎ捨て、その場を走り去るティム。
「村長、追いますか?」
村人の一人が問う。
「その必要は無い。あヤツは最後に我欲に負けた。何も出来ぬよ。」
再び村人達の前に立つ村長。
「これにて前夜祭は終わりだ。明日に備えしっかり休息を取るようにな。」
翌朝。
村長宅で、眠る事無くそのまま一夜を過ごしたティム。
「ボクは・・・どうしたら・・・」
「おい、朝食の時間だぞ。」
見上げると、軽装姿のケインが立っていた。
「夜、何があった?」
「・・・」
「言わなくていい。ここに食事を持ってくる。」
「ゴメン、リーダー。」
「普段からそのくらい素直だと、俺も楽なんだけどな(笑)」
「へへっ。」
~~~
次にティムが気が付いた時、そこはゴブリンの棲むという洞窟の前だった。
「あっれぇぇ?!」
「起きて早々、何大声出してんのよ。はい、アンタの分の朝食。手づかみで食べれるようにわざわざ作り直してくれたんだから、村に戻った時にお礼言っておきなさいよ。」
シアナが不機嫌そうにティムに朝食を渡す。それを猛烈な勢いで食いつくティム。
「それとケインにも。ここまでずっと背負って来てくれたのよ。」
「・・・ありがとう、ケイン。」
「気にするな、仲間の為だ。」
「仲間、ナカマ・・・」
「ど、どうしたのよ急に。敵はもう目の前なのよ?」
「言うよ。昨日の夜の事。全部。戦いの前に迷いは無くしたい。」
ティムは前夜祭の件を包み隠さず、仲間に話した。
「パーティを指名したのは、そういう理由か。」
「過ぎたる欲は身を滅ぼす。霊樹の加護は魔物からの守護に留めておけばよいものを。」
「女神様からのご指名は光栄至極なのですが、現状、僕はこの世界の方が居心地が良く感じております故、辞退の方向で話を進めて頂きたく(笑)」
「いいじゃない、逸話通りなら、帰ってきてもアタシには会えるかもよ?」
「逸話って何?」
ティム、ケイン、ギームが揃ってシアナの方を向く。
「あ、知らないのか。ドライアードの世界に行くと時間の流れが変わってしまうの。向こうの1日がこっちの世界の数百年と同じ、みたいな。」
「ですので、皆さんを含めた家族友人との別れは、まだご遠慮したい訳です。ちなみに僕は彼女に現在も熱烈ロックオンされていますから、『ソルディックは死んだ』は残念ながら通用しませんね。」
全員が黙ってしまった中、沈黙を破ったのはケインだった。
「まずは目の前にある問題から解決する。突入するぞ。」
「あ、リーダー待った待った。」
即座に静止するティム。
「規模は大きくない洞窟のようだし、まずは生木を燃やしていぶり出そう。」
こうしてダンジョンアタック名物、“ダンジョン入口でいぶり出し”が始まった。
① 入口にロープを張り、相手が転ぶように仕掛ける。
② 生木を燃やし、煙が奥に流れるようにする。
③ 耐えきれず出てきた敵が転んだら素早く始末する。
④ 数が増えたら、範囲魔法で一掃しよう。
倒した敵の総数、計10体
「どうやら1家族のようだな。何処からか逃げてきて流れ着いたか。」
兜を外し、汗をぬぐうケイン。
「けどこの数だったらアタシ達に依頼が来て正解だったわ。シロウト集団だったら返り討ちにされていたかも。てか少し休みなさいよ、ケイン。」
一方、汗一つ流す事無く涼やかな表情を浮かべるシアナ。
「・・・! 全員洞窟から離れて!!まだ何かいるよ!」
「ゴブリンの耳はワシが切り取った。いつでも離脱できるぞ。」
ギームが2人に後方へ来るよう手招きをする。
洞窟が視認可能な草むらに伏せ状況を伺う一行。
「出てきた・・・」
シアナが呟く。
「あれ、トロールじゃない?」
呟いたのはティムだ。
「そういう事ですか。何度駆逐してもゴブリンがここを住処にしてきたのは、このトロールが洞窟最奥に陣取っていたからなんですね。ゴブリンにしてみれば言わば“ご神体”といったところだったのでしょうね。」
ソルディックは、冷静に起きた状況を分析しつつ、ケインを見やる。
「どうします?ケイン。」
無言で兜をかぶり直すケイン。
「無論、ここで起きた禍根を絶つ。」
「でしょうねぇ。僕としては退いて欲しかった、が本音ですが。」
嘆息しつつも、臨戦態勢に入るソルディック。
「ならば、我らの戦いに戦神の加護を。」
ギームは呪文を唱えると仲間達全員が一瞬白く輝く。
「ケイン、知ってると思うけど念の為。トロールは、炎以外の攻撃だと徐々に傷口が回復してしまう。だから、貴方の剣に“炎の付呪”を唱えて、後方で支援魔法を使う。攻撃が貴方に集中してしまうけど、何とか耐えて。」
視線はトロールから逸らさず、ケインに助言するシアナ。
「いつもの事だろう?俺は何よりも、お前が傷つくのを見る方が辛い。」
シアナは、静かに“炎の付呪”を唱える。それに伴い、ケインの大剣が見る見るうちに朱色に染まる。
「じゃあ行こうか。」
ケインの言葉に全員が頷く。
「陣形の指示、見落とすなよ!突撃!」
トロールとの一戦が始まった。
名は知ってはいても、実戦での遭遇は初めてだった一行は、敵の想像以上の体力、そしてケインがクリティカルヒットを受けた事で行動不能となり状況が悪化する。その後シアナとギームでトロールを挟み込む事で何とかケインが致命傷を負う事は防ぐも、攻撃力不足が続き、あわやとなったその時、救ったのはティムの繰り出した背後からのクリティカルヒットだった。
「た、倒したぁ!」
倒れたトロールの上で飛び跳ねて喜ぶティム。
「喜ぶにはまだ早いわよ。さっさと油を蒔いて、このデカブツ燃やすのよ。もし復活されたら、今のアタシ達に勝ち目は無いわ。」
彼女自身もトロールの打撃を完全にかわし切れた訳では無く、その打撲痕が激戦の様子を強く表していた。
「ホレ、お前さんにも治癒の魔法じゃ。ケインは状態は峠を越えた。直に目を覚ます。大役実に見事じゃったぞ。」
「こっちこそ感謝よ。ケインはアンタのお陰で助かったんだから。・・・全く、柄にも無いセリフ吐いて変なフラグ立てるから。」
沈み込むシアナに対し、ソルディックが優しく声を掛ける。
「しかし誰を失うことなく、僕達は勝ちました。ここは素直に喜ぶべきことでしょう?」
しかしなお不満な表情を隠さないシアナは不満をソルディックにぶつける。
「アンタ、全力で魔力開放しなかったよね?魔力温存した?」
「この後の事も考えての事です。村には戻らないと報酬は受け取れませんし。この終始感じる視線にも早めにお別れしておきたいところですので。」
「その件なんじゃが。」
2人の会話に割って入るギーム。
「霊樹の件、ワシに任せてくれぬか。泥は全て被る。」
~~~
ケインの回復を待って、村へ帰還する一行。今回は村人総出で、一行を出迎えてくれる。
村人達から感じるその異様な視線は、何やらカルトじみた雰囲気すら一行に感じさせた。
「依頼の件、確認させてよろしいでしょうか、ケイン様。」
村長が前に立ち、ゴブリンの耳見分を求める。
「これでいいですか。計10体。そして今後奴らが棲みつく事は減るでしょう。」
「・・・と、言いますと?」
「洞窟最奥に別の怪物が潜んでいたんですよ。駆け出しの冒険者であれば、まず勝てない相手がね。逆に熟練の冒険者であれば、報酬にならない危険は回避する。そう言った意味では、俺達は中途半端な冒険者だった。」
「・・・」
「村長。知ってたな、洞窟最奥の怪物の事。怪物が居座る限り、慕ってやってきたゴブリンが棲みついて洞窟に再チャージされる。俺達は確かに雇われ者だ。が、他人の金儲けの為の消耗品じゃねぇぞ。その善人ヅラの奥にどれだけ邪悪を飼ってやがんだ、オイ!」
激高するケインに対し、ギームが静かに諭す。
「ケイン、それをこの場で証明する事は出来ん。思い込みで相手を恫喝するのはお前自身の汚点となる、常日頃言っておったはずじゃがな。」
「お恥ずかしながら、その怪物の情報は私めには届いておらず、情報不足であった事に対しては深くお詫びさせていただく所存でございます。」
改めて、村長は一人につき金貨100枚(日本円で約10万円)の報酬を一行に渡す。
「ひゃぁ、思っていた以上の額だよ、コレ。」
思わぬ大金に思わず顔がにやけるティム。
「では、最後のお別れに。霊樹からの皆さまへの祝福を受け取りください。」
村長はティムの方を見ると優しく微笑み、霊樹の方へと促す。
「霊樹に優しく触れてください。」
恐る恐るティムは霊樹に触れる。すると霊樹から樹洞が姿を見せ、心地よい風が吹き彼を包みこむ。ティムが薄目を開けて樹洞を見ると、すでにぽっかり空いていたはずの穴は無く、煌びやかな薄絹を纏う美しき妙齢の女性の姿があった。
「汝に祝福を。」
奏でるような心地の良い声音はティムを含めた周囲の村人達も同様に感嘆させる。そして彼女が去った時、ティムの小さな手のひらでは片手だとやや余るほどの大きさの黄金の葉が1枚残されていた。
「これが黄金の・・葉?」
震える手で葉を掴み、恍惚とした表情で見つめるティム。しかしギームがその葉を取り上げてしまう。
「何するのさ、ギーム!」
「お前さん、葉に魅入られておったぞ。普段のお前ならワシからモノを奪われるなどありえないじゃろう?」
思わずゴクリと息を呑むティム。
「・・・ドリアードの顕現、時間は分かるか?」
小声でソルディックに語りかけるケイン。
「約一分、ってところでしょうか。大魔法で全部焼き払ってしまえば早いのですけどね。」
「あンた、爽やかな笑顔で時々エゲツない事言うわよね。割と本気で考えてない?」
ソルディックの容赦ない言動にやや引き気味につっこむシアナ。
「それはもう、自分の人生が掛かっていますから(笑)でも今はギームの考えを信じてここで見守りましょう。」
~~~
「では、次の方。ギーム殿でよろしかったですかな。」
村長の問いかけにギームが答える。
「うむ。じゃが一つ準備をさせてもらう。」
「準備、ですか。」
ギームが持ち出したのは、勢いよく燃え盛る一本の松明だった。ギームの奇異な行動に動揺する村人達。
「静まれぇい!」
ギームの一喝が村人を沈黙へ引き戻す。
「お主等も、この葉に魅入られたのであろう。いや、葉がもたらす黄金の富に。」
「当たり前だ!俺達は、この時の為に何年も待ったんだ!」
そうだ、そうだ、という村人の同意の声が場の空気を支配する。
「村長よ、今まで何人の冒険者を女神に差し出した?」
「答える義務はございませんな。黄金の葉をご所望でないのであれば、次の方に順番をお譲りいただけると幸いにございます。」
「なるほど。ならワシの行う事を咎める権利もお主には無いな。」
「さて・・・?」
余裕の表情を見せる村長を尻目に、ギームは高らかに宣言する。
「欲にまみれ、未来ある若人を黄金の葉と引き換えに異界へと送った罪、戦神に代りこのギーム=バルドランが制裁を与えん!しかと見届けよ!」
ギームは、ゆっくりと松明を霊樹へと向ける。
「その様な手段で燃えるようであれば、とうの昔に他の冒険者が行っております。少々お戯れの時間が・・・」
次の言葉を村長は告げる事は出来なかった。今までどのような手段でも傷つく事が無かった霊樹が轟々と燃え盛り始めたのだ。
「何故、なぜ燃える?何をしたドワーフ!」
怒りに震える村長に対し、ギームは答える。
「この松明の火は、戦神の神官が唱える呪文の一つ、“弔いの炎”によって灯されておってな。この炎は主に疫病の蔓延を防ぐために死者のみを速やかに灰にするんじゃ。」
そういうと、ギームは自らの手で松明の火に触れて見せる。
「この巨木は死んでおる。本来は朽ちて大地へ還るべきはずだった。だからワシが灰として還してやったまでじゃ。」
「あ、ああ。女王の、女王の楽園の扉が・・・閉じる。」
茫然自失となり、膝から崩れ落ちる村長。
「この最後の一枚は・・・村人達よ、お主等にくれてやる!」
ギームは黄金の葉を群衆の中に投げ入れる。獲物に襲い掛かるゾンビの如く、黄金の葉に群がる村人達を後にし、ギームは仲間達の元へ戻る。
「お疲れ。報酬も入った事だ、俺達の街に戻ろう。」
ケインがギームの肩を叩き、労をねぎらう。
「まさか燃やしちゃうとはねぇ。でもドライアードの世界と、この世界とのリンク切れちゃったから、今後はゴブリン襲い放題よ、ココ。」
「仕事の案件は増えそうですが、しばらくは引き受ける気はしませんねぇ。でも僕はようやくあの視線から解放されて、ギーム殿には感謝しかありませんよ。」
「うん、ボクも黄金の葉よりソルディックやみんなと一緒の方がずっと良いよ!」
仲間達のギームを想ってのねぎらいの言葉に、ギームは大きく頷く。
「そうじゃな、ワシの選択が間違っていなかった、と今は信じる様にしよう。」
ふと、シアナが意地悪げな顔で皆を見渡す。
「ところで、今日の打ち上げのオゴリ役なんだけど~・・・先の駅舎に一番遅く到着した人って事でヨロシクゥ!」
ただ一人ギョッとするギーム。ケイン、ティム、ソルディックの3名はギームに一礼し、一同、「ゴチになりまーす!」と足取り軽く駅舎へ向かうのだった。
さて、いかがだったかな。元来民草を救う事を信条とするドワーフが村人を断罪する選択をしたこの物語。感じ方は人それぞれ違うと思うが、彼らは悩みつつも選択して先に進んでいるのだ。これは、冒険者達の選択の物語なのである。長々と語ってしまったが、今日のところはここで幕を閉じるとしよう。ああ、紹介が遅れてしまったね。
私の名は≪アンノウン≫。誰も知らない物語を語る、語り部だ。
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