第24話:奇跡。

「ルークだけど・・・分かったって言ってたわよ」


「ごめんね、ルーク・・・」


「いくら魔法使いでもひとつのことを同時にはできないわよね」


そう言いながらパンの様子を見ていたソフィアさんが言った。


「あ、破水したみたい・・・」

「すぐに赤ちゃん生まれるわよ」


「がんばってね・・・・パン・・・がんばって」


プリティスは手を合わせて祈るしかなかった。


「ほら、プリス、少しづつ赤ちゃんが出てきてるわよ」

「ほら、もう少し・・・がんばって」


パンが一声鳴いたと同時に赤ちゃんが出てきた。


ソフィアさんは、すぐにお湯に浸したタオルで赤ちゃんを綺麗に

拭いてあげた。

でも赤ちゃんは産声をあげなかった。

ぐったりしたまま、動かない・・・。


「この子、息してないわ・・・」


ソフィアさんはマウストゥーピースで赤ちゃんに空気を送ったが、

それでも赤ちゃんヤギは息をしなかった。


「どうしよう・・・息をしてよ・・・お願いだから」

「死なないで・・・」


「あの・・・まだ間に合うかもしれません」

「赤ちゃんを私に貸してください」


そう言うとソフィアさんは動かない赤ちゃんをプリティスに渡した。


「どうするの?」


「私の魔法で救えるかもしれません・・・」


そう言うとプリティスは右手を赤ちゃんヤギにかざした。

柔らかい光が赤ちゃんヤギを包みこんだ。


「お願い息をして・・・」


そう言うとプリティスは治癒に集中した。

プリティスの髪が静電気を帯びたみたいに上に跳ね上がった。


「地球さん、私に※マナを少しだけ分けて・・・」


そう言うと周りの空気がキラキラ輝き始めた。

ソフィアさんは目を丸くした。


光とキラキラした輝きがプリティスごと赤ちゃんヤギを包み込んだ。


しばらくすると、なんと赤ちゃんヤギが鳴き声をあげた。


「うそ・・・」


ソフィアさんは言葉がでなかった。

赤ちゃんヤギはプリティスの腕の中で元気良く動きはじめた。


「もう大丈夫と思います」


プリティスはそう言って赤ちゃんヤギをソフィアさんに返した。


「この子、息してるわよ」

「こんなことって・・・?」


ソフィアさんはプリティスの魔法をじかに見て感激した。

あまりの奇跡にソフィアさんの瞳から涙が溢れ出た。

魔法なんて言っても今までプリティスが帰るって言った時以外見たことが

ないソフィアさんだった。


「よかった・・・ほんとによかった」

「奇跡ね・・・あなたほんとにすごいわ、プリス・・・」


「この子、女の子ですね・・・可愛い名前つけてあげなきゃですね」


プリティスは小さな命を救った。


「私、自信はなかったんですけど成功ですね」

「実は治癒系の魔法使ったのは学校の実習で、数度しかないんです」

「普通は使うことなんて滅多にありませんから・・・」


「だから、この子を救えることができてよかったです」


赤ちゃんヤギは早速お母さんヤギのオッパイを飲んでいた。


「プリス、ありがとう・・・ハグさせて・・・」


ソフィアさんは感謝を込めてプリティスを抱きしめた。


「もう大丈夫でしょ・・・さ、家の中にもどりましょ」


安心したソフィアさんとプリティスは家に入って一息ついていた。


そうこうしてるうちにルークがヒーヒー言いながら坂を登って帰って来た。

その後から獣医さんも来てくれた。

獣医さんには黙っていたがプリティスの活躍をソフィアさんはルークに

だけ聞かせた。


何もすることがない獣医さんは赤ちゃんヤギに聴診器だけ当てて、問診だけ

して帰った。


ルークの提案で、結局ヤギの赤ちゃんの名前はプリティスがつけることになった。


「え?私が・・・?・・・じゃ〜この子、女の子だから・・・」

「アリエラってダメかな?」


「アリエラか・・・いいと思うよ・・・まるで天使みたいな名前だね」


つづく。


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