ギャルゲーで好感度を教えてくれる〈友人〉に転生♀しました
ささきって平仮名で書くとかわいい
迷子のメインヒロイン(前編)
目の前に現れた少女の瞳が空よりも青く、海よりも鮮やかな青色であることを認識した瞬間。
私、
ほぼ同時に、この世界が学園RPG(とは名ばかりのギャルゲー)であること、私は<主人公に好感度を教えてくれる「男」友達>に転生した、という事実にも気付いてしまった。
――いや、私、女なんですけど?
だがしかし悠長に前世に思いを馳せてみたり、或いは何故『性別バグ』転生が起きてしまったのか考えてみたりする暇はない。
何故なら青い瞳の少女、彼女こそギャルゲーの<メインヒロイン>であり。
今ここで始まろうとしている出来事は、主人公とヒロインの<過去イベント>だからだ。
私の隣で呑気な顔で枝を握っている、黒髪短髪ついでに半袖短パンの絵に描いたような少年、
これから自らがギャルゲーの主人公になるなどとは、つゆほども知らず。
青い瞳の少女の足元、うごめくアリの行列を見つめているご様子。
……男児か!? いや、男児だった……。
そうだよこの過去イベ、6歳の時のイベントなんだよな……。
「ごめん、ちょっといい?」
泰誠が青い瞳の少女こと
男児でもそこはギャルゲー主人公の器か?
ゲーム内で回想される過去イベント。
その内容は、「主人公とアイラは幼いころに一度、出会っていた。迷子になって困っているアイラを、主人公が助けた」という筋書きだ。
あの時助けてくれた少年に思いを秘めたまま、高校生になったメインヒロイン・アイラは主人公と再会する。
――それがこの世界、「剣王学園黙示録」の始まりだ。
アイラは泰誠の呼びかけに、戸惑いがちに目を伏せた。
金色の前髪が重く目にかかる。
過去のアイラはおどおどした引っ込み思案。
こちらから話しかけないとイベントは進まない。
ひとまずここは泰誠のギャルゲー主人公スキルに期待するか……
「ありのぎょうれつ、みたいんだけど」
……駄目だ!
幼馴染だからこそ知ってた、分かってた。
泰誠、『ネタ選択肢』ばかり選ぶタイプだ……!
明らかにハズレと誰もが分かる、選択肢を豊富に見せかけるためだけの水増し選択肢を選んでしまうタイプ……!
このままではまずい、ここは私が助け船出してでもなんとかしないと、
なんとかして泰誠とアイラの仲を取り持たないと。
そうしないと、
そうしないと最悪、世界が滅ぶ。
*
「あのっ、ごめんね! 泰誠、空気読めなくて。その、きみ、何か困ってる?」
とにかくすぐにでも挽回したくて、頭で考えるよりも先に言葉が出た。
泰誠が「え?」って顔でこちらを見てくる。
けど、無視。
「あの、その、えっと……」
「……迷子とか?」
アイラの頷きに合わせてツインテールが揺れる。
アイラルートはクリアしたからカンニング状態だ。
剣王学園黙示録、結局全ルートクリアできなかったな……。
ま、攻略対象の女の子にはそんなに未練ないけど。
でも、我が推し!
主人公役だった推し声優・田中賢一、愛称タナケンの収録ボイスを全部聞けずじまいだったのは、惜しい……!
っと、そんな場合じゃないんだった。
アイラをちゃんと家まで送り届けなきゃね。でもその前に。
「じゃあさ、神社に行こうよ。ここからなら一番近いし。神主さんに言えば警察に連絡してくれるって。ね?」
「あ、じゃあおれは、ありのぎょーれつみてる」
バカ!!!!
「泰誠も行くんだってば! バカ泰誠!」
思わずバカって言っちゃった。心の中だけにとどめておけなかった。
「泰誠、何のために剣道習ってるのさ!」
「え、わからん」
「人を助けるためだよ!」
「そうなのか……」
適当言った私の言葉を、意外にも泰誠は真剣に受け止めたようだった。
そんな真面目な眼差しになられても……。
泰誠は少し考え込むような表情をしながら、「んー……」と首をひとひねり。
「なるほどなぁ、悠宇はやっぱりすごいな」
……よく分からんが結論は出たらしい。
ならまあ、いいか……。
しかし6歳児の笑顔、眩しい。
太陽みたいに笑う男の子だ。
「じゃあほら、行こ」
「え、どこに?」
「神社!!」
「じんじゃかぁ」
なるほど、と言いながら泰誠が歩き始めた。
「道、逆!」
「あれ」
私達、いつの間にか漫才始めましたか!?
……あ。アイラが青い目を細めて笑った。
さすがメインヒロイン、幼少期の笑顔も可愛い。
短髪ぼさぼさ髪の私とは大違いだ。
私の髪がこんななのは、家で父親が切ってるからだけど……。
仕方ない。
この、ほんのちょっとの笑顔に免じて、結果オーライということにするか。
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