第20話 追い詰めすぎた結果

セツザンの周辺には1週間ほどいる。


近隣に4つのダンジョンがあるので、最低でも全部の1階に降りて「壁転位」の座標を作る。


素材売買でトラブルを引き起こす可能性があるから、避難場所を増やしておく。



セツザンの街を起点にすると、「東20キロ・バット初級」「南東15キロ・フラペ上級」「南西5キロ・シクロ初級」「西50キロ・ダイナ特級」の順番に行く。


「セツザンに寄らず東から最短距離を回ってダイナダンジョンから帰ってくるとして、70~80キロあるよ。またマラソン大会だ。転位魔法が、そこまで商売に重用されない訳だ」


普通の転位魔法でも、行ったことがある場所にしか飛べない。


座標作りが大変な上に、長距離移動には膨大なMPコストがかかる。本人だけはMP1で1キロ跳べるが、それは裸の場合。パンツ1枚でも50キロの荷重と同じ扱いで、追加MP1。かなりシビアな計算になる。


バット初級ダンジョンに入ったが、ここまで誰とも出会っていない。


バットは、未発達ダンジョンの1つ。出来て14年。


コウモリしかいない洞窟型の全7階。13階層増えて普通の初級ダンジョンになるまで、あと6年半、合計10年かかる。


初級↓中級↓上級といった進化があるらしいが、条件は分かっていない。


ダンジョンが生まれることがあれば消滅することもあり、世界中に数は「4000」と決まっているらしい。本当だろうか。


とにかくここは、素材どころか、全てがダメダメ。私以外には価値がない場所だ。


私が真っ先にここに来た理由は、各階がまだ一辺100メートルしかない。なのに各階に一辺20メートルのセーフティーゾーンがある。


広めの洞窟風でじめじめしているが、私には使い勝手がいい。


バット初級に入って、1階セーフティーゾーン横に座標登録。早々と次のフラぺダンジョン行った。


回廊型のフラぺに入って、人が来なさそうな袋小路に入ったときだ。



「おいおい。フランちゃんよ。こんなとこで何やってんだよ」

「ここに、秘密の倉庫があんのか?」


ギルドで足を引っかけられて返り討ちにしたガルンの仲間、「竜殺し」の奴らだ。合わせて10人だ。


用は分かるが、一応聞く。

「こんなとこで奇遇ね」


「ん?ギルドとは態度が違うな」

「用事は?」

「ガルンの足首が重傷でよ。治療費と慰謝料をもらいに来たのさ」


「ほい。それ持って帰って」

小銀貨1000ゴールドを弾いて渡した。


「足りねえな。お前、ミノタウロス亜種で儲けただろ」

「強盗が10人現れたみたいね」


「お前、ミノタウロスもカベギロチンって男の代わりに換金しただけだってな」

「お前自身は移動力はあるが、低レベルだな。図星だろ」

「こっちは全員がレベル45~50はあるぜ」


「私、レベル133よ」

「ぎゃははは、見栄はるなよ」

「大きく出たな」


そうか、私は「代理売買」が仕事と言ってある。だけど、ギルマスも言っていたけど、その素材をチマランマ地方に取りに行けるだで高レベル戦闘職。こいつら勉強が足りないから挑んできたようだ。


後ろに下がってダンジョンの壁に手を付いた。

「さて、どこの1階を利用しようか。いいのを開いたばかりだった」


どす黒い感情が浮かんできたが、表情は逆に弱々しくした。


「や、やっぱり謝る。お金を渡すから許して・・」


「なんだ強気の態度は虚勢か」

「もう遅いぞ。いい身体してるしな、ひーひー泣かせてやるよ」

「お前の次は生意気な「ユキヒョウ」の4人だな」



そこまで聞いて、壁をドンと叩いた。まるでそこに隠し部屋のスイッチがあるかのように。


『壁粉砕』ぼこっ。


私は壁に縦3メート、横5メートルの穴を開けて、その中に飛び込んだ。


「なんだ、隠し部屋だぞ」

「やっぱり女のお宝倉庫があったじゃねえか」

「逃がすな!」


10人の盗賊どもが、反射的に「処理場」に飛び込んできた。


ここは開いたばかりのバットダンジョン1階。誰もいない。


盗賊のラスト1人が入口に半分入ったところで「クローズ」を発動させた。


「壁ギロチン」


ざしゅっ。「ヤラク?」


「ちっ、変なとこに誘い込まれた」

「階段はある。女を殺して脱出だ」


昇り階段前で盗賊の退路を断ち、ナイフを2本抜いた。地上ではスキルが使えない。だけど、私は価値あるものをもっている。トラブルから戦いに発展するケースは間違いなく増える。


私はレベル133とはいえ、そのうちの123の上昇は「壁ギロチン」のたまもの。いまだ実力スカスカの133だ。だから何とでも戦う。


「なんだよ、ナイフを構えて。なんちゃってアサシンか?」

「へっぴり腰じゃねえか」


盗賊1が、私の腕を狙ってきた。慣れている。間違いなく無力化して女を蹂躙してきた経験がある。


サク。交わして、太ももを深めに刺した。


次は2人。今度はうまくやれないから、盗賊2の腹を力一杯蹴り、盗賊3を刺した。


「お前ら、腕が鈍ったな。どいてろ」。大剣使いのリーダー風が出てきた。いきなり上からきた。


ギイン!

ナイフを交差して止めたが、次の手が瞬時に出ない。未熟だ。


「けど、大したことない」

「舐めるな!」

結局、ナイフで仕留められず、股間を蹴った。


あとは、レベルアップのパワーを生かして、残りを一人に減らした。


「嘘だろ、くそう!」


降り階段を降りて逃げて行った。

「残念ね。ここは7階までで見通しもいい未成熟ダンジョン。降りてから絶望して」


途中で仕留めようとしたが、意外ど逃げるのがうまい。どんどん下に降りて、7階への階段へ飛んで行った。


「もう逃げ場はないよ。確実に仕留めよう」


7階・・。何か忘れている。


階段を降りたときだ。


『初のダンジョン7階到達です。1度だけ300キロ以内で「ランダム壁移動」が可能です』


「あ、これがあったんだ」



すでに嫌な予感がするが、開けないと勿体ない。


最後の盗賊は不意打ちの「壁ゴーレム」で瞬殺。


「ランダム壁移動」


ぞくぞくぞく。


「あそこ」のダンジョンを開けた時と同じだ。


強制的に開いた3メートルの穴から異様に美味しい空気が流れ込んでくる。


ここはきっと、チマランマ超級ダンジョンだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る