第13話 独特なダンジョンアタック

リスクを犯してトコナダンジョンを探索する。なぜなら脱出した先のインデア国がスパイス料理のメッカだからだ。


この前買った胡椒をオーク肉にたっぷり振りかけて焼いたら激ウマだった。


インデア国は黒胡椒はもちろん、各種スパイスが低級ダンジョンから取り放題。平民も日常生活で「カーレー」というスパイス料理を食っているらしい。


「なんちゅう、贅沢な食生活の国なんだよ」


島国のインデアの北、西、南の海岸はみんな絶壁。プラス浅瀬と岩礁で大きな船が近づけない。


安全なルートは東のごく一部で、シルビアには海を経て山越え陸路の3000キロとなる。そして国境も2つ越えるから輸送コストが高く、我が国に運ばれて来るスパイスは庶民では手が出ない値段になる。


「壁転移」で直線距離なら海の向こうのわずか100キロ。私だけの経路を拓く。



再び「壁転移」。何も考えずに剣を持ち、2メートルの円を開けてしまった。


壁のすぐそこには、2・2メートルの鱗だらけの顔があった。目があった。手にはショートソードを持っている。トカゲ魔物のリザードンだ。


「うおおおお!」


思わず、後ろに転がった。敵の推定レベルは65。私は133と倍近い。


だけど私はヒト型はゴブリンしか、普通に剣で戦かったことがない。ドラゴンも人間も、仕留めたのは「壁ギロチン」だ。


「クローズ、ああっ」


壁を閉じる前に、素早く同じダンジョン側に入られていた。


「ちくしょう。こっちがレベルは上だ」


攻防は30分。


剣を振る。蹴る。つかみに行く。何をしても軽くかわされる。


逆に肘、ローキックを当てられる。


10分。レベル差の恩恵でダメージは少ないが、私の方が余裕がない。「壁ゴーレム」を使いたいのに、壁から遠ざかってきた。よそ見をしたとき、リザードンは隙を見逃さなかった。


ざんっ。「いぎっ」


利き腕を斬られて剣を落とした。傷は浅いが、出血がある。


20分。そこからは予備の剣を出して防戦一方。

「もう剣を受け続けてるだけ。手が痛い」


「戦闘」をナメていた。過去に壁ギロチンが成功して、いい気になっていた。防具も軽装だ。


30分。劣勢から覆せない。

「やばい、つらい、やばい」


もう無理、と思ったときに、突如として戦闘が終わった。


パタン。リザードンが頭を押さえて倒れている。


「はあっ、はあっ。頭痛持ちのリザードン?」

10分で動かなくなった。


「・・・もしかして、ダンジョン固有空気って奴かな」


ダンジョンの魔物は地上にはびこらない。


ダンジョンの魔物はランクとレベルが高くなるほど、「ダンジョン固有」の濃い空気成分が必要となる。魔物が地上に出ると酸素不足のような現象を起こし、短時間で死ぬ。


同じダンジョンでも片や特級で、こちら側は地上に空気が近い初級。リザードンに必要な空気成分が薄すぎて、頭痛を起こして死んだようだ。


そう思うことにしたが、核心に近いと思う。


命拾いした・・


◆◆◆

6日後、やっとトコナダンジョンを昇って1階から地上に出た。


例によって「ランダム壁移動」からの探索は難度が上がる。ここは、その典型のような迷路型。


まず自分が5階のどこにいるか分からない。だから壁を右にしてクネクネ。


魔物と遭遇。戦闘技量の差を痛感したから訓練。武器なしの敵が出ると殴り合いを挑んだ。武器ありなら「壁ゴーレム」で粉砕。またさ迷う。


私の魔力総量は1330と上位魔法使い並み。


だけど使用50の「壁コーレム」を多用するから、肉と素材は半分がゴミで、MPも1日で尽きる。そしてゴブダンジョンで1日休む。


それも全て、レベル任せで何とかなると思った自分の甘さだ。


獲物はミノタウロス30匹。それに「壁粉砕」の時に拾った5センチのミスリル玉が200個ほど。かなり放置した。



地上に出て港町インデシティまで2キロを走り、出入口で守衛さんと話して愕然とした。


「ここは言語圏が違うのかよ!」


ギルド、スパイスの言葉だけは共通のようで、辛うじて商業ギルドらしいところを教えられた。


「外国のカタですよね。ようこそでしたねえ。タヒラですよう」

「良かった。話せる人がいた。フランです。さっき外国から来て、色んなスパイスが欲しいんです。それと近隣のダンジョンガイドを」


褐色ボッキュンボンの受付嬢が、同じ言葉を話せた。


「ほほう、戦闘職か、特殊スキル持ちのカタですね」

「なんで?」


今年はインデン国に唯一つながる東のルートが、他国同士の紛争で危険地帯になっているとか。1ヶ月ほどドンパチが続き、外部から人が来ることはないそうだ。


私は反則をして密入国した。


「スパイスもお売りしや~すが、今は外からの物が品薄でえす。何かインデアに無いものをお持ちなら、買い取りもいたしやすよ」



いいことを思い出して、ミスリル玉を出した。この国にはミスリル鉱山がないのだった。


「おおお、鑑定装置を持ってきてもいいかなんですか」

「ど、どうぞ」


貯めた5センチの純度100パーセント玉を100個出した。


「これは、素晴らしかとです」

「使い途は、ありますかね」

「錆びなくて強力で、魔法伝達率がいい金属。船底のコーティング、海での武器で使う貴重品ですよ。純度も高いし1個20000ゴールドでいかがでしょうか」


OKと言おうとして、閃いた。


「あの、対価はスパイスで欲しいんですが。ミスリル玉1個でスパイス3キロでどうでしょうか」


「え?ミスリル玉と交換なら五種のスパイス計5キロはいけますよ。精製前の黒胡椒だけなら8キロでずだわよ」


その代わり、安定的な供給を頼んだ。いきなりではなく、オーダーして、その量を用意してもらう形だ。次回は2ヶ月後に500キロだ。


今日はミスリル100個で300キロのスパイスを手に入れた。内容は五種。


スパイスだらけの初級ダンジョンを巡るより、「壁破壊」で得たミスリルを売った方が私は効率がいい。



タヒラさんを商業ギルドからお借りして、ご飯に誘った。ギルドからしたら、私は上客になる可能性が高いから、二つ返事だった。


お勧めのレストランでミノタウロスの肉を提供して、店長の腕を振るってもらった。


「激ウマ。なにこの刺激的な深い味・・」

弱虫フランに変身しているのに、すんなり感想が言えた。


「フランさん、これがカーリー味ですだよ。肉も高ランクだすだら、なおさら美味しいのだね」

「タヒラさん、こんなの西の方の国じゃ金持ちしか食べられない。うらやましい」



ミノタウロス一匹をタヒラさんにあげたら、代わりにダンジョンガイドの分からないところを訳してくれた。


色んな意味で満足した。


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