第5話 地上の私は弱虫フラン

スキルが進化したのを機に、拠点をダンジョンが利用しやすそうなサクラの街に移す。そして旅に出る。


その前に、拠点にしているシルビアに行く。


私を殺そうとした奴が、そのことを誰かに言っているか確認するためだ。その状況によっては、新たな敵が現れる。



これで2日は帰ってないが、ギルドのお姉さんも気にしない。


私の足でゴブダンジョンから出てシルビア冒険者ギルドに到着するまで3時間。普段はここで2泊して、鉱物が少したまったら帰っている。


次の朝、起きて1時間かからずシルビアギルドに到着した。レベルアップの恩恵はすごい。


入って広いホールの左に受付カウンター。真ん中に依頼票。右が酒場兼食堂だ。合計5ヵ所の冒険者ギルドを覗いているが、作りは同じだ。


「フランさん、おはようございます」

「どうもアンリさん。ミスリル玉20個の換金お願いします」


300000ゴールド。一気にミスリル玉の数が増えて驚かれた。後ろで凝視しているやつもいる。彼は継母の手の者だ。


どうせシルビアの街を出る。元家族にスキルの大進化を匂わせておく。悔しがってくれれば幸いだ。


受付嬢に申請した。


「アンリさん私しばらく、旅に出ます」

「あら、急ですね」

「スキルで今より稼げるダンジョンがないか探してみます。とりあえずサクラを目指します」


そしてサクラを起点に、探してみたい人がいる。私を「友達」と言ってくれた、世界に1人だけの男の子だ。



カウンターを離れて飲食スペースを見ると、お目当ての4人組がいた。「オーガキラー」の子分だ。


「私はいまやレベル50越え。レベル30くらいのやつにビビる必要もない」


4人の席に近づこうとして、足が止まった。今までと同じで怖い。なぜだろう。


すると向こうから声が上がった。

「よしっ、フランが帰ってきた。俺の勝ちだ」

「ちくしょう、セバスティアンさん達に狙われて「生還」はねえと思ったのに」


内容を聞かなくても分かった。「オーガキラー」はふざけた賭けのために私を死なすきだった。

そしてこいつらは、話を聞いていて、私が死ぬかどうかで賭けをしていた。


「フラン、お前いつ帰ってきた」

「・・ついさっき」


「ゴブダンジョンにいたのかよ」

「今回・・今回だけは別の場所で「壁削り」を使ってた・・」


「そんで「オーガキラー」の人達と会わなかったのかっ!」


ガンッ。「ぐっ」


テーブルを蹴った音に怯む自分がいる。

昨日は運もあるけどレベル70以上の冒険者3人と何匹かのオークを仕留めた。


スキルレベルが上がり、心臓に毛が生えたかと思った。

なのに今日は、いつもの少し気が弱い私に戻っている。


「・・フラン」

「・・え?」


「聞いてねえな、シカトかよ!」


私が「死ぬ」の方に賭けてたやつが私の左肩をつかもうとした。反射的に手を振り払った。体はレベル通りに頑丈になっている。


ばちっ。「ぐやっ」。手首を押さえている。


「バタヤに何すんだ、このやろう」

「ま、不味い」


辛うじて後ろを向いてギルドのドアの方に走れた。

バタヤも復活し、4人が私を追い始めた。



冒険者ギルドは200年前にできた。ダンジョンができた数年後、当時の高レベルな平民が集まり、作り上げた。


ダンジョンから取れる素材の流通、簡易な警察機関の役割を持つ。そして悪徳有力者への牽制もある。


理不尽を牽制ができるだけの武力もあり、その中核は8人の枠外ギルド員、通称「枠外の8人」が担っているらしい。彼らが出てくる案件は決まっており、必ず死者が出るという。


冒険者ギルドで個人のトラブルにも対応してくれるが、限界がある。


今がまさにそれだ。



何人も目撃者がいて、この街を出る理由ができた。だけどそれ以上にピンチだ。


街を出て後ろを見ると、4人揃って追ってくる。

「ここで戦うべきか、いや、あそこに行こう」


最初は私の方が速かったが、2時間の移動後。疲れてきた。


だけど、行き先は決まっている。

街から2キロのシロプ中級ダンジョン。迷路型。


「はあっ、はあっ、先に入れた。どこでもいいから「壁粉砕」を使って別のダンジョンへ。はあっ、はあっ・・」


深呼吸して、「ダンジョンの空気」を肺いっぱいに吸った。空気がおいしい。



ドクン。興奮する。漏らしてないのに、股間がムズムズする。



そして、腹が立つ。


何で私の方が逃げる。


そんな理不尽があるか。



100メートルの通路をひとつ曲がって立ち止まった。別の冒険者は誰もいない。


「あいつら、殺してやる」


分かった。


私の性根は変わっていない。継母とその息子達に能無しとさげすまれ、それでトラウマを植え付けられた弱虫のまんまだ。



「おっ、こんなとこに立ち止まってるぞ」

「さっきはバタヤを怪我させてくれたな。慰謝料出せや」

「魔物が出る前にさらうか、殺るかしようぜ」



弱虫の癖に、ここに来ると力が沸いてくる。

私はすでにダンジョンの壁を背にして、レンガ模様の壁に手を付いている。


「壁粉砕」ぼこっ。

高さ1メートル地点から上3メートル、横5メートルに穴を開け、誰もいないゴブダンジョンに繋げた。


そして後ろに倒れ、ゴブダンジョンの草原に寝転がった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る