せっかくラスボスに転生したのでゴリゴリにラスボスムーブしようと思います
あきの
プロローグ『冥王の再臨』
1.『冥王の覚醒』
気づけば黒い場所にいた。
瞬きをして、そのまま二度と目が開かなかったような感覚。
俺を包むのは闇と静寂だ。
「え? なに?」
口をついて疑問が溢れる。
とりあえず声が出ることを確認。自分が生きていることを再認識し、一安心する。
いや、マジで下手したら死んでるんじゃないかってくらい真っ暗だし。
と同時に、妙な違和感に苛まれる。
俺の声ってこんなだったっけ?
「あー、あー、てすてす……うわっ!」
声色の調子を伺っていると、いきなり音を立てて視界が開ける。
ずらりと並ぶ燭台に火が灯り、薄ぼんやりと部屋が照らされた。
広い部屋だ。
たぶん学校の体育館と同じくらい。
入口と見られる扉は高く、禍々しい紋様が刻まれている。
そして俺は、部屋の最奥にある巨大な椅子に腰掛けているらしいことに気づく。
うーん。
あの紋様、どことなく見覚えがある。
でもこんないかにも厨二デコレーションなインテリア、現代日本じゃなかなか見受けられないしなぁ。
そもそもここどこ。
さっきまでの俺は間違いなく築四十年の六畳一間で横になってたはずなんだけど。
そんなクエスチョンマークに支配されていると、正面の分厚いドアがいきなり引き摺られるように開いた。
そりゃもう、ズガガガって感じで。
なんか埃とか舞ってるし。掃除しろよ。
ちなみに俺はハウスダストにアレルギーがある。
「くしゅん」
ほらみろ。
かわいらしいくしゃみが出た。
おかしいな。
俺のくしゃみはもっとこう、「ぶぇーっくしょん! ちくしょう!」って感じだったと思うんだけど。
なんて割とどうでもいい部分を訝しく思っていると、扉の奥からまっすぐ歩いてくる人影に気づく。
人影……というにはちょっと装飾が多いというか、なんか翼とか生えてるし、頭の上に角みたいな突起も見えるし、少なくとも日本人ではなさそうだけど、まぁたぶん人だ。
うん、アレはおおむね人だろう。
でも怖いから近寄らないでほしいな。なんでこっちくるの?
「――ふたつ」
その(おおむね)人は何かをつぶやくと、迷わず一目散に俺の目の前までやってきて、数歩先で立ち止まり、おもむろに跪きこちらを見上げて言った。
「――陛下。お迎えにあがりました」
■
『冥王』ソフィア・サタンハルト。
このいかにもな悪魔っぽい名前の人物は、俺がひと昔前にもっぱら遊んだゲームのキャラクターだ。
吸い込まれるような白髪を胸下まで垂らし、黄金の双眸で対峙した相手の内面まで見透かす。
残酷非道で冷酷な性格でありながら、常に儚げな無表情を崩さない妖しさと、奇跡のような容姿の美しさの持ち主。
行動理念は一貫していて、印象に残る名言も数多く残している。
敵キャラでありながら人気キャラランキングで一位を獲得するのも納得だ。
敵キャラ。
敵キャラなのだ。
なんならラスボスなのだ。
そりゃ、俺も好きだったさ。
当時は世のオタクたちと一緒にソフィアちゃんソフィアちゃん言ってたさ。
ラスボス戦では涙を飲んで戦いを挑んださ。
でも所詮は敵キャラ。
どうあがいても破滅が確定している不憫な子なのだ。
まぁそういう可哀想なところも萌えポイントではあったのだが……。
「閣下。共に参りましょう」
「……はぁ」
「閣下――ソフィア・サタンハルト冥王閣下。時は満ちました。今こそ、人族を力と恐怖のもとに支配する時でございます」
聞いてないって。
……聞いてないよ!
自分がそのラスボスに転生するなんて、全くこれっぽっちも想定したことなかったよ!
そういえば、こいつもなんか見覚えがあると思ったら、アレだ。
『冥王の傀儡』マスティマ。
ソフィアの右腕的な存在で、プレイヤーからしたら目の上のたんこぶ。
こいつのせいで何度ソフィアとの決戦が先延ばしになったか……。
でもこいつみたいな優秀な参謀を持っていても、ソフィアは死ぬのだ。
愛とか友情みたいな曖昧なパワーで超絶強化された主人公に、無惨にも殺されるのだ。
……嫌だ。
死にたくない。
『ソフィアは儚く散るからこそ美しい』みたいなアブない思想を持ってるプレイヤーもいるにはいたし、俺もほんの少し共感したこともあるけど、あれはゲームの中の物語で、俺たちが傍観者だったからこそ言える言葉だ。
自分がその立場になったら、そりゃ死にたくないと思う。
誰だって死ぬのは怖いのだ。
たとえ俺が、世界を混沌と恐怖に陥れる大悪党だったとしても。
しかし……。
「……マスティマ」
「――はっ。ここに」
俺の座っている場所の数歩先。
階段を数段下った先に跪く『配下』を見下ろして、思う。
――俺は、ソフィアに転生してしまったらしい。
あのゲームは相当やり込んだし、楽しませてもらった。
しかし、不満がないわけではない。
たとえば、そう、シナリオ。
あの結末は、俺は好きじゃない。
極端なシナリオだったから万人受けはしないけど、むしろそれを気に入ってるプレイヤーも多いだろう。
でも、俺は好きじゃない。
もし俺がシナリオライターだったら、もっとこうする。
あの場面で、ソフィアにあんな選択はさせない。
六畳の狭い世界で、何度もそんな自己満足の妄想を繰り返してきた。
どれだけ構想を練っても、妄想を垂れ流しても、いちプレイヤーである俺にシナリオを変える力なんて当然なかった。
ソフィアは無惨な結末を迎える。
それは確定事項だ。
しかし、もし俺がソフィアだったら。
変えられる、かもしれない。
俺が納得して、満足する、最高のエンディングに。
今なら、手が届くかもしれない。
そんなのは夢だ。
自分の都合のいいように、好きな作品の結末を変えるなんて、誰もが望む夢だ。
しかしいつの世も夢は夢のままで、現実になることはない。
そのはずだった。
「――でも、手が届くなら」
見たいエンディングがある。
ソフィアの結末を、自分自身で決めたい思いがある。
もし、それができるんだったら――、
「行こう。本当の結末を見に」
「仰せのままに、閣下」
――いざ、ロールプレイだ。
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