12月32日
海湖水
12月32日
「貴様に12月32日を与えてやろう!!」
目の前のおじいさんが私にそんなことを言ってきた。
私がこのおじいさんに会ったのはわずか数分前だ。それも、電車の席を譲っただけ。特に話しかけられるようなことはしていない。
だが、席を譲った後に事件は起こった。私が立ち去ろうとしたとき、おじいさんが私の手をつかんだのだ。すると、周りがぐるぐると周りだして、気づけば私は変な空間にいた。
「いや、別にいらないですけど。というか、12月32日ってなんですか?12月って31日まで、というか、32日まである月なんてないですよ?」
目の前に立っているおじいさんの服装は、私が電車で席を譲った時とはまるで別物になっていた。なんか、「神様」って感じだ。ヨーロッパの絵とかで見る感じの。
「え?いらないの?12月32日だよ?何かやり残したこととか……」
「いや、別にないので。というか、明日のために料理とか作ってるので、冷蔵庫を圧迫して困るんですよ、12月に32日が増えるのって」
おじいさんはその言葉を聞くと、その場に崩れ落ちた。そして、手で頭を抱えながら、「うそじゃろ?」とか呟き始めた。どうしたのだろうか……。
「とりあえず、元の場所に戻してくれませ」
「何かあるじゃろ⁉やり残したことなんて、人間はたくさんあるはずじゃ!!お願いだから、考えてくれんか?ワシもここに連れてきたからには、とにかく何かを渡したいのじゃ!!」
「そんなこと言われても……」
そこまで言われると、考えるしかないではないか。私はおじいさんに言われた通りに、やり残したことを考えてみることにした。
今年は何があっただろうか?高校に入学してからこれで一年、他の学校から来たクラスの皆とも仲良くなれたし、勉強もできた気がする。冬休みの宿題は終わってるし、部活動も……まあ、大会では負けちゃったけど、別に後悔はしてない。それに、1日増えたところで、どうにかできるものではないはずだ。
「ということで、いらないです。その、12月32日とやらは、他の優しい人にでも」
「いや、なんかないの⁉︎ワシですら、『ネズ●ーランドに行きたかったなぁ』とか、そういうこと思ってるのよ⁉︎なんでやり残したことがないんじゃ⁉︎」
「なんか、一年がすごい充実してたので。というか、おじいさんって神様ですよね?ネ●ミーランドに行くんだ……」
「そ、それはどうでも良いじゃろう‼︎とにかく、神からの命令じゃ‼︎何か考えい‼︎やり残したことがないのも考えものじゃろう?」
そう言われてみればその通りである。後悔がないのも、何か不健全ではないだろうか?それならば、もう少し何かを考えてみようと私はまたしても頭を捻り出した。
「ああ、そういえば」
「な、何か思い出したか⁉︎」
「いや、その12月32日ですけど、代わりに1時間にできませんか?」
「まあ、できんことはないが……。本当にそれで良いのか?」
「本当に増やせるのなら、それで構いませんよ。というか、本当に増やせるんですよね?」
「もちろんじゃ‼︎任せておけい‼︎」
そういうと、おじいさんはどこからか取り出した杖を振り回し始めた。すると、ブンブンと振り回される杖の先に、光りが集まり始めた。そして、どんどん光が強くなっていき、弾けた。
「あれ?ここは……」
気づけば、私は駅のホームに立っていた。周りでは、カップルや家族連れが喋りながら電車が来るのを待っていた。
「1時間、伸びたんだよね…」
周りの人たちは、今年の新年を1時間遅く迎えてしまうのだろう。全国の時計は一斉に狂い、電子機器にはありとあらゆる問題が生じるだろう。世界中で行われた、時間に関する計算は、すべて白紙に戻るだろうし、地球に何か問題が起こるかもしれない。
「まあ、いっか」
そういうと、私は階段を登っていった。
12月32日 海湖水 @1161222
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