白銀の騎士と金色の従者①~どん底騎士はわんこな少女を従えて、不条理世界をぶっ潰す!~

狐月 耀藍

第1部 失ったものは戻らない、二度と

第XX話:彼女と共に生きるのだ、俺は!

 断続的に響く拳槍ピストール発法はっぽう音と、崩壊した壁や地面を弾がえぐる音。相手も壊れた扉の前に障害物を積み上げて、こちらを通すまいと必死の様子だった。


「くっ……弾切れだ! あと弾はどれくらいある?」

「ひぃ、ふぅ、みぃ……もう弾倉マガジンは五個だけ! あとは、バラが……ええと、ちょっと!」

「残り180発と少々か……。苦しいな、弾がなければ戦えない世の中ってのは」


 俺は、彼女が差し出してきた弾倉マガジンを受け取ると、空になったモノを抜き取り新しく装填して棹桿コッキングレバーを引く。


 あまり弾を無駄にできないというのが苦しい。

 魔素マナを取り込み、蓄える性質を持つ鉱石──魔煌レディアント銀。その結晶を燃素フロギストンとの併用で燃焼させて「鉛弾をはじき出す」チカラにするという、『魔力の単純利用』。


 この盛大な無駄遣いが生み出した「歩槍ゲヴェア」は、魔素マナの伝達力が高い樫の木の本体に、魔素マナを阻害しにくい銀合金の筒を埋め込んだ武具だ。


 魔煌レディアント銀の結晶を燃焼させ、その圧力によって鉛弾を飛ばす歩槍ゲヴェアの登場は、ただの従兵を必殺の戦士へと変えた代わりに、騎士の騎兵突撃による栄光の時代を終わらせ、戦場を、ただ淡々と命を消費する場に変えた。


 ……はずだった。


「えへへ、そういう・・・・世の中を、ご主人さまが終わらせたんだよね!」

「まだ終わっていない。これから終わらせるんだ。……ま、それを目論んだせいで今、自分が弾切れになりそうだってのも情けない話だが」


 手にした「StG44」──突撃シュトゥルム歩槍ゲヴェア44。これから量産されるはずだった、最新鋭の歩槍ゲヴェアだ。その生産拠点を弾薬の生産拠点ごとぶっ潰したのは、何を隠そう、先日の俺自身。


 彼女の手に握られたヴァルター拳槍ピストール38を見て、弾切れこんなことになるなら、相手の拳槍ピストールの弾を奪って使える「MP40」──機械化マシーネン拳槍ピストール40を持ち出したほうがよっぽど良かったか、と苦笑する。


 ……いや、自分が今後、滅ぼすことになる武具にいつまでも頼ってばかりはいられない。このまま時間を浪費しても、相手の有利になるばかり。機を作って突っ込むしかない。


「……やるしかないな。それに俺には──」


 自分を鼓舞するように笑ってみせると、我が従者にして幸運の女神──金色のふかふかの髪をもつ彼女を抱き寄せる。


「ふあ──ご主人さま?」

「お前の幸運を分けてくれ。いつものことだが」


 そう言って、半人半獣たる姿となっている彼女のふかふかの髪の中から伸びる、犬のような三角の耳──弾の貫通痕が痛々しい右の耳──の中の白い和毛にこげに、ふっと息を吹き込む。


「んにゅうんっ!」


 びくりと肩をすくめて総毛立つ彼女の髪が、ぶわっとふくれるように逆立ち、ふかふかの髪がよりいっそうもふもふになる。これまでも数限りなくやって来たことだが、何度やっても、彼女は慣れないらしい。


 いかにも犬(本人は「狼」を主張しているが)の獣人らしい彼女の、実にふわふわな髪の中に顔をうずめるようにして彼女を抱きしめると、そのにおいを胸いっぱいに吸う。


 ああ、幾度となく、幾夜となく堪能してきた、彼女のにおい──その髪のにおい。

 己を奮い立たせる、このにおい。


「……そんなに、ボク・・もふもふ・・・・が好き?」

「ああ。最高だ」

「もう……。へんなご主人さま」


 彼女は照れくさそうに微笑むと、俺の背に腕を回す。


「……でも、ボク、ご主人さまのこと、大好きだよ?」

「俺もだ。……愛している」

「……だからへんって言ってるんだけどね? 獣人族ベスティリングのボクを、そんな……」


 きゅっと、背中に回された腕に、力が入るのを感じる。

 俺も、彼女を抱きしめる腕に力をこめる。


「……ご主人さま、だいじょうぶ。ご主人さまのこと、ボクが守ってみせるから」


 頼もしい言葉に、俺はその髪をなでた。

 ……ああ。頼もしい従者にして、愛しい君がいれば。


「……そうだな、大丈夫だ」


 時間にして、脈拍数十数回程度といったところか──けれどそのわずかな時間で、俺は覚悟を決める。


「──よし、行くぞ! 制圧射撃と同時に左側面! 思う存分暴れてこい! すぐに俺も突撃する!」

「まかせて!」


 制圧射撃を開始した俺の背後で、彼女の咆哮ほうこうが響く!

 こんなところで足止めなんて食らっていられるものか!

 この不条理で非情な戦いを終わらせて、彼女と共に生きるのだ、俺は!




 婚約者であるミルティを奪われ、生きる意味すら見失った俺が、新たな出会いを得て再び戦いに身を投じ、人を率いて、一つの時代を終わらせようとしている。


 まさか、ただのちっぽけな地方領主貴族の五男坊が、世界の運命を左右するようなことになろうとは。

 『戦争くらいしか、浮かぶ瀬がない』と考えていた俺が、一人の少女のために、その戦争そのものをひっくり返すことになろうとは。


 新たな出会い──彼女と出会うきっかけとなった敗北と、彼女と積み重ねてきた過程を思い出しながら、俺は歩槍ゲヴェアを構えて突撃を敢行する──!



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