世界最強の後衛 ~迷宮国の新人探索者~
とーわ
プロローグ 転生者の行列
気がつくと、長く暗いトンネルの途中で、老若男女の行列に並んでいた。
俺は確か、会社で企画された夜行バスでのスキー旅行に参加することにして、バスに乗り込んだあとは朝まで眠ろうとして目を閉じたはずだった。バスから降りる過程が記憶になく、いきなり別の場所にいるこの状況――どうも、芳しくない。
列に並んでいる誰かの声が聴こえる。「マジかよ」「どうにかして生き返らせろよ」とか何とか。それに対応しているのは、前方に見える、列を案内している女性だ。慣れているようで、流れ作業のようにして列を進めている。
(バスが事故ったってことか……? この列にいるやつはみんな死んだのか)
この行列の先は天国なのだろうか。死後の世界が本当にあるというなら、問答無用で死イコール消滅ではないということで、喜ばしくはある。俺もまだ死ぬと思っていなかったし、未練は結構あるからだ。
しかしこのトンネルの先は地獄かもしれないので、油断はできない。
夢オチという可能性もあるし、そこまでシリアスなことを考えるには早いかもしれないのだが、列には一緒に来た同僚の姿が見当たらない。
もうすぐ俺結婚するんだとフラグを立てていたが、生き残ったのならば、死亡フラグというのもさして効力がないということだろう。喜ばしいことだが、雪山で事故を起こしたとしたら、救助されるまではどう考えても過酷だろう。
旅行に参加した他の社員のうち何人かは、俺と同じくこの行列に並んでしまっている。列を離れて移動しようとしてもなぜか足が動かず、前に進むことしかできないので、誰がいるかを確かめることはできないのだが。
俺に対してきつく当たっていた女課長らしき背中が、結構先に見えている。俺にとっては提出した書類に何度もダメ出しをして判子をくれなかったり、終電必至の仕事を終業間際に投げてくるパワハラ上司だったが、そんな彼女もこの状況には抗えないらしく、おとなしく並んでいるようだった。背中からも感じる威圧感というか、優等種の誇りというか、そういうのは消えていないが。
詮無きことを考えてるうちに、目の前に並んでいた女子高生くらいの女の子が、先に案内人らしき人物から何かを受取り、前方の光が指す方向へと歩いていった。
その女の子はバスに乗るときに容姿が見えたのだが、黒髪ぱっつんでなかなか見ないくらいに大和撫子という言葉が似合う姿をしていた。彼女も友人と一緒にバスに乗っていたが、もう一人はギャルっぽい雰囲気で――と、今は思い出している場合ではない。
目の前には、ゲームに出てきそうなファンタジーっぽい服装をした女性が立っている。肩に届くくらいの長さの髪は紫色でどうも地毛らしく、半袖のシャツにキュロットというラフな格好だが、デザインがまず日本で見るようなものではない。ベレー帽のような帽子を被っているが、それもよく見ると複雑な紋様が描かれていて、いかにも魔法使いらしく見える。
彼女は行列に並んでいる人々に何かを渡して、この先に送り出していた。たれ目でおっとりしていそうに見えるが、話し方ははきはきとしていて小気味がいい。
「次の方どうぞ。はい、これを持っていってください。向こうに行ったら、まずギルドに行って職業を決定してくださいね。寄り道してもいいことはないですよ」
「ギルド? 待ってくれ、この先って一体どうなってるんだ」
「この先は『迷宮国』です。あなたたちの魂は、迷宮国に引き取られて転生することになりました。他の転生先は選べませんので、あしからず」
他にも聞きたいことはあったが、今はそれ以上説明してもらえないらしい。
「私も転生案内をする時以外は、あちらの町に住んでいますので。もし縁があれば、もう一度お会いすることもあるかもしれませんね」
神様とか天使とか、そういうものでもないのだろうか。何か特別な力は持っていそうだが、それも含めて今はお預けだ。
俺は案内嬢から、紙幣よりも一回り大きく、革のような素材でできた頑丈そうな札をもらい、前方の光を目指して進んでいった。
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