第7話 「家」

 市民の人たちも、空き地から開放され、みな商店街の中に戻っていった。

 夏芽は、フリーニャのレイピアを拾い上げ、フリーニャに渡した。

 レイピアの持ち手には、小さなハートのマークが刻まれていた。

 「はい、これ!怪我とか大丈夫だった?思いっきり地面に叩きつけられてたけど」

 夏芽が心配すると、フリーニャは自分の腰を叩いて笑顔でピースを作った。

 「心配してくれてありがとう。なんとか回復呪文で治すことができたわ。でも、回復呪文にも、一日の上限があるから…。ローリアが駆けつけてくれなかったら、私、やられてたかもしれない……まだ未熟よ」

 「よかった〜。フリーニャが無事なら私も安心だよ!」

 夏芽が話し終わった瞬間、夏芽のお腹から、ぎゅるるると音がなり、夏芽は、顔を赤くしてフリーニャの方を見た。

 フリーニャは、その音を聞いてお腹を抱えて笑い出した。

 「朝ご飯、まだ食べてないでしょ?昨日あのまま公園で寝ちゃってたんじゃない?」

 「あ、なんでそれを……」

 「やっぱりか…。今から一緒に「家」に帰りましょ。これからのこととか話し合いながらね。」

 「はーい!」

 二人はそうして、商店街の中に入った。


 さっきまでシャッター街だった商店街も、今はそこそこ店も開いていて、かなり賑わっていた。

 「さっきまで誰もいなかったのに、こんなに混んでるなんて」 

 夏芽が、お店の様子を一軒一軒まじまじと見ながら呟いた。

 「みんな朝の内に買い物を済ませておくの。夜は邪鬼が出やすくなるからね。みんな気をつけているの」

 「じゃあ、さっきの邪鬼は、割と珍しいの?」

 「そうね。朝から出てくる邪鬼は、かなり珍しいといえば、珍しいわね。しかも、あんなにしっかりと鬼の見た目をしているのもめったにないわ。やっぱり、人型とかの一目でバレにくいものが多いからね」

 「へぇ〜。邪鬼は、夜の方が多いんだ。だからみんな夜の街を歩いていなかったのかあ。昨日から変だと思っていたんだよね」

 夜に独りで歩いていて、人とすれ違うことがなかった原因はこれか。と分かり、夏芽は、深く納得した。

 夏芽が来た道の角を曲がろうとすると、フリーニャが夏芽の服を軽くつまんだ。

 「おっと、ちょっと待って。私たちの「家」は、ここだよ。」

 そう言って、フリーニャは角にあった地下に続く階段を指さした。

 その階段がある場所は、アーケードからの太陽の光が照らしていたため、なんとか見えたが、ほとんど暗くて、ほとんどの人が気づかないのではないかと夏芽は思った。

 入口には看板で、「BAR↓」と錆びた字で書かれてあった。

 その看板もボロボロで、今にも外れそうなほど、宙にぶらぶらと付いていた。

 その真っ暗で、ホコリだらけの階段を二人は下り始めた。

 「焦らないで。この階段もうボロボロだから、急ぐと壊れちゃから」

 フリーニャについていく夏芽。

 ギシギシと階段の軋む音が空洞内に広がる。

 奥の方まで行くと、太陽の光が届かず、暗闇の中で、ひたすらに階段を降り続けた。

 夏芽はこけないようにフリーニャの服を軽くつかんだ。

 そして、ゆっくりと一段一段進んでいくと、中からぼんやりと光が漏れている銀色のドアがあった。

 ギギギ……とそのドアを開くと、中は赤茶色の光が灯された静かなバーだった。

 カウンター席には、他に誰もいない。

 ただ静かにマスターがコップを拭いていた。

 「どうして、いきなりこんなところに来たの?」

 「決まっているよ。ここで、あなたと今後のことについて話すためよ。やっぱりこういう静かな場所で話さないと」

 「だからってこんな……真っ昼間から…」

 バーにあるおしゃれな時計は、ちょうど正午になったことを伝えていた。

 カーン、カーン、と高い音が響く。

 「よし、開店したよ。入ろう!」

 フリーニャはカウンターの一番奥の席に座り、夏芽はその横に座った。

 「ローリアもなにか頼めば?私が奢ったげる」

 目の前にカタログが広げられる。

 そこには美味しそうな料理やドリンクがたくさん載せられていた。

 「じ、じゃぁ、これ、買って」

 夏芽はメロンソーダを指さした。

 

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