第6話 前身を信じて
夏芽が上を向くと、そこには、羽を生やした邪鬼と戦っているフリーニャの姿があった。
昨日見た姿とは違い、宙に舞いながら、カチューシャを付け、白のワンピースに、長い髪の毛をひらひらと揺らしながらレイピアを構えていた。
しかし、その邪鬼は、フリーニャよりも三倍は大きく、顔は、THE・鬼という感じで、赤い槍を持っていた。
「入ってきたら、だめよ!ローリア!ここに一度踏み入れたら、魔の結界で外に出られなくなるわよ!あなたはまだ本来の力を呼び覚ましていない。だから、邪鬼と応戦するなんて無理よ!ここは私一人に任せて逃げて!」
「そ…そんな…私、、、ここでも戦力外なの………」
もう一度自分の右手の剣を見た。
さっきのローリアの声は、幻聴だったのだろうか…。
剣は、ただ夏芽の顔を反射しているだけだった。
そこに写っている姿は、初対面の戦友を助けに行くことのできない気弱な女子だった。
「はやく、アーケードに戻って!今すぐ!ローリア!あなたをもう一度失いたくない!私がなんとかするんだ!あなたを、あなたを、もう失くさないために!!!うっ、うわああああ」
夏芽にそう叫んだフリーニャだったが、叫んでいる途中に邪鬼の槍が、腰に当たり、地面に叩きつけられてしまった。
バンッという鈍い音が響き渡る。
その音は、夏芽の耳にもしっかりと聞こえた。
「あ、あ、あ…………」
フリーニャは、地面に横たわってしまったが、それでもレイピアをついて、立ち上がり、また、飛び上がった。
その白いワンピースには、赤い液体が滲んでいた。
「まだ、これから、私が相手よ!」
しかし、どんどんフリーニャの動きは遅く、緩くなっていく。
地上の鬼も、魔法陣の数を増やし、市民を追い込んでいた。
「私、空も飛べないのに、本当にできるのかな……?」
夏芽は、フリーニャの言ったことを真に受けて、未だに留まったまま、フリーニャの姿を見ているだけだった。
そしてついに、カリーンという音とともに、フリーニャの右腕から、レイピアが落ちた。
そのレイピアは、不運なことに魔法陣の上に落ち、回収が困難になってしまった。
「あ、やばい……フリーニャ、負けちゃう……私に………できるの…?答えてよ!」
夏芽は、涙目になって自分の剣に問いかけた。
すると、また剣が光りだし、ローリアの声が聞こえた。
「安心して!私が保証する!あなたは、フリーニャを助けられる!私の剣を使って負けたら許さないんだから!ふふふ」
フリーニャは、その頃、邪鬼と拳で戦っていた。
血にまみれたその姿を見て、夏芽は決心した。
「ローリア、、、私、、、信じるよ!」
夏芽は、覚悟を決めて、空き地に踏み込んだ。
紫色の結界が空き地内を包む感覚。
そうか、これのせいで出られないのか。
だったら、私が決めてやる!!!
夏芽は、入ってすぐに集中して右腕に力を込めた。
剣に夏芽の魂がこもってゆく。
ドクドクと剣に力が注がれていく。
そして、自分とローリアと結ばれていく感覚。
ローリアの心得た技は、私が受け継ぐ!
そして、その剣を邪鬼のいる方向へと解き放った。
「これでもくらえ!!快星雲!!」
右手を振り切った夏芽は、自分でも緑光の輝きに気づいた。
その緑光の波は、地上にいる邪鬼に向かって、一直線で進んでいく。
バァァァンという音とともに、その邪鬼に波が当たる。
そして、緑色の輝きは、煙となり、邪鬼とともに消えていった。
決めた!私にも出来た!
空では、夏芽の攻撃を見ていたのか、フリーニャも鬼も、固まって下を見ていた。
「次は、あんただ!」
夏芽は、空を飛んでいる鬼に剣の先を向けた。
光が剣の先に灯される。
その攻撃の威力を察したのか、フリーニャは、邪鬼から離れた。
邪鬼もその場から離れようとしたが、体が動かない様子で、釘付けになっている。
次は、白い光が球状になって、剣の先に溜まっていく。
「フリーニャをいじめたお仕置きよ!覚悟しなさい!くらえー!!!!唯光線!」
そして、夏芽は右腕の力を全身から放った。
その光は、邪鬼に直撃する。
ジュュュウという焦げた音が、空き地内に広まり、鬼は、灰になって地面にはらはらと散っていった。
「た、倒した………私の力で!!やったあああ!!」
魔法陣は解け、結界も剥がされていく。
市民の人たちも、くたくたで、地面に倒れ込んでいた。
夏芽が、笑顔で立ってると、フリーニャが地上に降りてきて、微笑みながらこう言った。
「ありがとう、ローリア!おかえり、ローリア!」
認められたんだ。私も。
心が晴れやかになっていく。
ローリアの笑い声が聞こえた気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます