第1話
今はスマートフォン全盛の時代で、いわゆるガラケー(「ガラパゴス携帯」と呼ばれる日本独自で進化した携帯電話)もほとんど絶滅してしまいました。
しかし今からほんの20~30年くらい前までは、画面がとても小さく、物理キーが沢山付いた「携帯電話」や「PHS」と呼ばれる電話機しか存在しなかったのです。
連絡手段は通話がメインでした。
インターネットも携帯電話からは全く、あるいはほとんど使えず、今では当たり前なスタンプは勿論、文字や絵文字によるコミュニケーションも発展途上で使いにくいものだったのです。
連絡したい相手の携帯電話会社が違えば、簡単には送受信できなかったり、文字数に極端に制限があったり、絵文字が統一されていなかったり、一通送受信する毎にお金が掛かったりしていました。
また多数の人に連絡したり連絡相手のグループを作るのも面倒で制限があり、送った相手が既読なのかどうかなどの状態も把握出来ませんでした。
電話番号宛に直接メッセージを送るSMSか、せいぜいメールアドレス宛てにメールを送るような使い方しか出来なかったのです。
このお話はそんな時代の物語。
当時の私はPHS(俗に「ピッチ」と呼ばれていたサービス)を使っていました。
これは携帯電話に比べると電波の届く範囲がとても狭く、少しでも人口の少ない場所や障害物がある場所では、たちどころに圏外になってしまうような代物でした。
しかしその代わりにディスプレイが若干大きめで漢字を初めとした文字の表示が携帯電話よりもやや優れており、バッテリー持ちが良く、音声がとてもクリアで、月々の契約料や通話料がとても安かったのです。
また、相手の電話番号に向けて直接メッセージを送るSMSについては携帯電話よりも文字数制限が緩く、また同じPHS同士であれば送受信料が無料だったので、学生などにはとても人気がありました。
PHSはそれ以外の点についてはほとんど携帯電話よりも劣っており、当時SNSや掲示板的なコンテンツが多数用意されていた携帯電話に比べて、そうした交流を楽しめるサービスは壊滅的にダメでした。
そこで考え出したのが、自分の電話番号の前後の番号から順に、次々とSMSを送りつけていき、メール友達にならないかと誘う方法でした。
これは今ではスパムと呼ばれる迷惑行為(犯罪行為)となってしまいますが、当時はそうした法整備はされておらず、受ける側も迷惑であれば無視すればよいという程度の物でした。
面白いもので、丁寧に自己紹介をし、メール友達になりたい旨を伝えると、かなり高い確率で返事が返って来たのです。
中には『仕事で貸与された端末なので個人的には使えません』と律儀に返事を書いてくれる人や、『主婦ですが問題ないですか?』などと乗ってきてくれる方も居ました。
こちらとしても本当に交流を楽しみたいと考えていただけなので、好意的な返事をくれた方は、例え遠い地域に住んでいる人でも、男性でも、お年寄りでも、ビジネスマンでも、主婦や学生でも、喜んで交流をしていました。
そしてSMSでメル友になった場合の最大の利点は、電話番号が判っていることです。
こちらからは絶対に『電話をしませんか?』というお誘いはしないという『自分ルール』を設けていましたが、案外「電話でお話をしてみませんか?」と誘っていただけることが有りました。
つまり誠実に楽しくメル友としてメール交換をしていると、中には興味を持ってくれる方も居たのです。
今ではLINEのIDを交換すれば、メッセージのやり取りだけでなく、音声通話や、テレビ通話なども出来てしまいますが、当時はそんな事は出来ないので、これでも素晴らしいアイデアでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます