社畜おっさん配信者、攻略済みダンジョンで封印されし美少女のじゃっ子を拾ったらバズった

しんしん

のじゃっ子を拾ったらバズった

第1話 初めての廃墟配信

でこくん、ダンジョン配信始めるんだって? ついに会社辞めるの?」


 空山そらやま先輩は楽しそうに言った。


 俺の名前は鈴木すずきでこ。社畜としてダンジョン保険の営業をしている。ちなみに、空山先輩はとっくに退職して独立したので、元先輩が正しい。自分より10歳年上の40歳で、数少ないおっさん友達だ。ダンジョンコンサルタントという仕事をしている。


「始めた、です。配信童貞は先週捨てました。あくまで副業なんで、会社も辞める予定はないです」


「相変わらず社畜やるのかあ。ダンジョン保険屋なんて大変じゃん。ノルマノルマでさ。てか、教えてくれれば配信見たのに」


「あくまでテスト配信みたいな感じですからね。Cクラスのダンジョンをちょっと潜っただけです。今週の土曜日の配信から真面目にやりますよ。チャンネル登録よろしくお願いします」


 先輩に俺のチャンネルを送ると、スマホの画面をまじまじと覗き込んだ。


「『おっさんがイク! 廃墟ダンジョン解説チャンネル』……。これ、需要あんの……?」


「たぶん。まあ趣味色が強いですけど、無理しても続かなさそうなんで。あえて『行く』を『イク』に変えてリスナーの目を引くようにはしてみました。それに、1回目の配信で20人くらい登録あったんですよ。昔やってた保険解説動画より断然反応がいいです」


「あれは黒歴史だからな。しかし、これもセンスがないと言うか……。変な人寄ってきそうだし。俺がコンサルしてやろうか? 安くしとくよ。今はエネルギー分野の魔石の発掘が熱い。国から補助金も多いしオススメ。買取業者も多いし。配信業なんて博打はやめとけ。せっかくそこそこのダンジョンに潜れる能力があんのにもったいないぞ」


「趣味の延長ですからねえ。楽しんでやりたいんで。クソつまんなそうな採掘業はお断りです。それをやる位なら、保険屋をもう少し頑張りますよ。先輩、2億ぐらいの死亡保険どうっすか?」


「はははっ! 契約するわけないだろ。おーこわ。ダンジョン内で殺されちまうよ」


 お互い笑い合った。独身同士、奥さんも子供の話題もない気楽な関係だ。


「ですよね。楽しんでもらうための努力はする予定なんで、ぜひ遊びに来てくださいよ」



 *******




「どうもこんにちは~。新米オーチューバーのでこです。廃墟ダンジョン解説配信としては第一回目となります。なんで、どうぞよろしくお願いします」


 俺は、配信用カメラの前で深く頭を下げた。これは、なけなしの貯金を崩して買ったもので、中に魔石が組み込んであるダンジョン配信専用のカメラだ。魔力によってあらゆる視点から自動で撮影をする優れものだ。


 現在のリスナーは10人。思ったよりもいる。少し嬉しい。反応が気になりコメント欄をのぞいてみた。


『ほんとにおっさんだ』


『この前とタイトル違う。レアなおっさん』


『イクとこ見に来た』


『凸くーん』


『Hi』


『廃墟ダンジョンの解説楽しみです』


 とりあえず反応は上々だろう。なぜか外国人が紛れ込んでいるようだが。コミュニケーションをとれるか心配だ。


「皆さん知っての通り、廃墟ダンジョンとは、攻略済みダンジョンでありながら消えることのないダンジョンであり―――」


『とりあえず潜ろうか』


『潜りながら話して』


「分かりました。潜ります……」


 悲しいかなリスナーが1人減っている。とりあえずさっさと潜る必要がありそうだ。ただチャンネルの存在意義でもあるので、ちゃんと解説は続けながら進めていくつもりだ。


「埼玉県昼間市にあるこのダンジョンは、2004年に現れた初期Eランクの不変洞窟型です。内部構造が変わらないため整備がされて潜りやすく、魔物も適当数出現するので、昔は初心者のレベリングによく使われてました」


『なつい。当時の彼女と潜った』


『駅から遠いし、最近は埼玉市で初心者はレベリングする』


『ここスライム型ばっかなのよなあ』


『くわしぃ』


 洞窟の入り口にある電気を付けると同時にステータスが開いた。


 ステータス――

 武器:日本刀


 物理攻撃力 10 E

 物理防御力 10 E

 魔法攻撃力 10 E

 魔法防御力 10 E


 スキル

 倍率ステータス


『よっわ』


『【悲報】おっさんクソ弱い』


『待ってましたあああああレアスキルううううう』


『ちゃんとスキル見ろよ』


『刀見せてー』


 基本ステータスが弱いというのは当然の反応だった。ランク的には最下位だからだ。


 ただ、レアスキルの【倍率ステータス】のおかげで能力値以上に戦える。選ばれるのは、ほとんど4倍くらい。10×4で40のBランク。たまに上振れしてSランクになることもある。もちろん下振れもあるが。


 能力は0~100の数値で、10刻みのE~5Sのランク制だ。ダンジョンのランクとも対応している。


『なんか能力値おかしくない?』


『数字止まんないな』


『わー60超えたね』


 リスナーのコメントで異変に気付いた。ステータスの上昇が止まらない。80も超えていく。おいおいマジかよ。


『cool』


『な に こ れ』


『wwwwwwwwwwwwwwwww』


『カンスト初めて見たwwwwwwww』


『このまま八本木いけwwww5Sダンジョンいけるぞwwww』


 ステータス――

 物理攻撃力 100 5S

 物理防御力 100 5S

 魔法攻撃力 100 5S

 魔法防御力 100 5S


 俺自身、ここまでの上振れは初めてだった。これ以上能力値に上はない。まさに最強。


 けど―――。この最低ランクのダンジョンで引いてしまったことに頭を抱えた。ここを出たらステータスはリセットされてしまう。持ち越すことが出来ないのだ。なんてもったいない。


 現れたスライムが、触りもしないのに消し炭になっていく。オーバーキルにもほどがある。


『YA KE KU SO』


『きたねえ花火だwwwww』


『はえ~5Sってすごいんですねえ』


『刀振ってみて!!!!』


『やめろwwダンジョンが消し飛ぶww』


『ここまでスライムが可哀想だと思ったのは初めてだww』


 盛り上がってるならそれでいいかと思う。とりあえず拡散よろしく、とリスナーに伝えた。


「それじゃあ、ボスの【昼間スライム】がいる最深部までのんびり散策しようと思います」


 中層に向かって歩き始めたその時だった。


 壁の一部がぼんやりと光っていることに気付いた。


『こんな仕掛けあったけ?』


『いや知らん』


『撮影で使ってるライトだろ……だろ……?』


『why……』


 リスナーもその異常事態に気付いたようだった。このダンジョンにこんな仕掛けはない。それは誰でも知っていることだ。なのに―――。


 何かに呼ばれて様な気がする。


 俺は、恐る恐る壁に手を触れた。





==御礼=============

第1話を読んでいただきありがとうございました。

ぜひ2話以降も読んでみてください。

☆、♡、フォロー、感想につきましても心よりお待ちしております。

気軽に楽しんでいただければ幸いです。

今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

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