手がかり
目玉から体を貫かれた化け物は力なく倒れると、ボロボロと身体を崩壊させていく。
「ミクちゃん、ダイジョーブ?」
どうやら向こうも倒せたようで、モータルが駆け寄ってきた。
『すっげー! あっという間にやっつけたぜ』
『オレたちだけじゃどうしようもなかったのに、さすがは人間だ!』
『これなら何匹きても心配ないな!』
喝采の声を上げる猫たち。確かに危なげなく倒せたように思えるが……。
突然、ミクロアは両膝を着く。見れば彼女の鼻からつぅ、と血が滴っていた。
「魔力を使いすぎたのねぇ。歩けそう?」
「うん、大丈夫。モータルさんは?」
「お腹がちょっと痛むけど」
お互いの状況を確認し合っている間に俺たちも安否を確認しておく。
猫たちは多少の打ち身や傷はあっても、歩けなくなるほどの傷を負っている猫はいなかった。安心していると、仲間の一匹が何かを咥えているのに気が付く。
『お前、口のはなんだ?』
『こへか? はいつがもっへはみはいで』
『ちょいちょい、咥えながら喋るな……ってそれ!』
彼が咥えているのは猫型のパンだった。
『どこにあったんだ?』
『さっきの化け物が消えた場所に落ちてたんだ。アリィのパンだろ?』
化け物が消えた場所に……ということは、あいつがアリィを攫った奴だったのか。
『それ、ちょっと貸してくれるか? アリィを助けるのに使えるかも』
『え……まあそういうことなら。あとで返せよ?』
猫パンを譲り受けて、俺はミクロアたちの元へと駆け寄った。
「ん? どうしたのぉ」
「あれ、そのパンって……確か攫われた子供はパン屋の子だったはず」
「これを使えば、探知魔法で攫われた子供を追えるねぇ」
「ま、まだ続けるの? また襲われたら、今度こそやられちゃうよ……。いったん、戻らない?」
「じゃぁ、魔法を発動してみて、奥なら諦める。戻る方向なら行ける所まで行ってみる。ってことにしない? 一応、さっきの場所には目印を残してあるかいつでも戻れるし」
「ま、まあ、それなら……」
渋々、と言った様子で了承するミクロア。答えを聞いて、さっそくモータルは探知魔法用の棒にパンの切れ端を入れて魔法を発動させた。
青い魔法の粒子は人型の化け物が来た方向――つまりは戻る道へと流れていく。
「こっち……ってことは、どこかで道を間違えたんだ……」
「まぁ、もともと敵さんの落としていった物を辿ってたからねぇ。戻りがてら、辿ってみよう。そろそろ他の人たちとも合流できるかも」
「ヨゾラ、なにか近づいてきたら、すぐに教えてね……隠れないとだから」
「にゃあ」と肯定の返事をして、俺たちは再び歩き出した。
敵はあの二体だけとは思えない。それに、あれだけ暴れたのだから音を聞きつけて他の敵たちが集まってきている可能性は大いにあった。これまで以上に警戒して進まなければ。
幸いなのは頭上の肉塊が無反応なことだろう。意思を持って襲ってくるようなことはないだろうが、下手に刺激して天井から剥がれ落ちでもしたら一貫の終わりだ。出来るならあまり騒がず、抜け出したい。
そもそもいったい、どうやってこんな巨大な生命体を駆除すればいいのか予想もつかなかった。先の化け物たちのように、生命活動を止めれば塵と消えるのだろうか。そうじゃなければ困るが。
それにしても、囚われていたエルフたちはどうしていきなり謎の呪文を唱え始めたのだろう。何者かに操られていたのだと思うが、なんにせよ救出は急がないとダメだろうな。
「あ、別れ道……」
それなりに引き返した所で、探知魔法は帰路から逸れた道を示していた。帰り道が分かるように壁に刻んでいた目印を見るに、元の下水道までは残り半分と言ったところだろうか。
「どうしようか……さすがに、こっちに行くと帰れないよね?」
「そうだねぇ。方向的にも正反対だしぃ。真っ直ぐ戻ってもまだ距離のある所だから、諦めるしかないかぁ」
帰る、という方向で話がまとまりかけたとき、俺の耳が何かを捉えた。
暗闇の奥から、微かにだが音がする。
地響きのような音と、一定のリズムで響く音。後者は足音だろうか、こちらに向かって来ているような気がする。
さらに傾聴した所で「ニャォォォン――」と若干しゃがれた猫の声が鼓膜を震わせた。
シャム猫だ! それが分かった瞬間に駆け出した。
「えっ!? ちょっと、ヨゾラ!」
ミクロアの焦ったような声が飛んでくるが、構わず走り続ける。後ろからは仲間の猫たちが付いてきてくれていた。
『おい! 今のって』
『ああ! アイツだ。アリィと一緒に連れて行かれてた』
『なら、この先にみんながいるってことだよな!』
走りながら猫たちが会話するのが聞こえてくる。確かに連れて行かれた時は一緒だったが、今もそうとは限らない。
ラムダもいるのである程度はなんとかしてくれるだろうが、何せ調子が悪そうだったしどこまで頼れるかは分からない。
とにかく、急ごう。
ミクロアたちは着いては来てくれているようだが、猫の走力に敵うわけもなく距離は少しずつ離されているようで、視界は徐々に暗くなっていく。
しばらくすると視界は完全な暗闇に包まれるが、音を頼りに走り続けた。
すると、ぼんやりとした灯りが目の前に現れる。音も激しさを増しているようだった。近づくにつれて、それが戦闘音だと分かってくる。
辛うじて周囲が見える程度だった光は増していき、足元が困らない程度の明るさになった所で広い空間に出る。
そこでは、ほぼ全てが肉塊に沈んでいて、天井から垂れ下がる巨大な生物とラムダが戦闘を繰り広げていた。
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