九回目勇者の隣の席には十六回目魔王が座っている

宮前葵

九回目の異世界 1

 異世界召喚を受けたのは、これが九回目だった。


 なんだろうなあれ。異世界転移したくてウズウズしている奴は他にもいる筈なんだから、順番に選べば良いのに。なんで俺を何度も呼ぶんだよ。


 とりあえず俺こと浜路 和樹は、十六歳の普通の高校生だったのに、ある日突然異世界に召喚されて勇者になった。何で全然知らない世界から来た人間をいきなり勇者認定するんだろうな。ファンタジー世界の人間って。これが一回目だ。


 まぁ、説明によると異世界から来た人間は不思議な力を持っている事が多いからだという事だったけど。実際、俺は転移したら妙なスキルを色々授かっていた。魔法とかクリティカル補正だとかな。最初はもちろん低レベルだから、そんなに沢山の事は出来なかったし、使えるスキルも多くなかったんだけど。


 で、俺は勇者認定されたので魔王討伐の旅に出された。強制だ。路銀は出すから。お前なら大丈夫だから。と説得されて、魔王を倒せば褒美は思いのままだと約束されて俺は王城を追い出された。


 参ったけど、魔王城の方に旅して、モンスターやら野盗やらを倒している内に俺も慣れて、段々強くなり、途中で仲間も出来て順調に旅を続けられた。


 そして何年も色々苦闘した末にだけど、魔王を倒すことが出来た。その頃には俺もかなり強くなっていて、装備も整っていたし仲間も強くなっていたから、艦隊決戦もかくやというような壮絶な戦いだったぜ。


 魔王を倒し、魔王の持っていた魔力の核を破壊すると、魔界に落ち掛けていた世界は浄化される。これで俺の任務は完了だ。


 俺たちは王城へと帰還した。王様は跪いて俺に感謝してくれたぜ。で、王国で栄耀栄華を与えるからこのまま暮らしてくれと言われた。


 だけど俺は褒美に、多額の費用が掛かる(高価な魔法石を沢山使うらしい)召喚術を使って、俺を元の世界に送り返してくれるように頼んだ。


 王様も仲間も惜しんだけど、やっぱり元の世界に帰りたかったんだよね。で、召喚術を行ってもらい、俺は現実世界に帰ってきた。


 面白いことに、俺は異世界では何年経っても歳を取らないみたいだった。帰ってきてみると、これがビックリ、一分だって経過していない。召喚された俺の部屋にそのまま帰ってきた。お袋に見つかる前に鎧兜から洋服に着替えたよ。アイテムは魔法で収納出来たしな。


 そう、魔法。俺は異世界から帰ってきたのに、スキルやアイテムはそのまま持っていたのだ。……あの大砲並の魔法も使えるのかな? 怖いから試さなかったけど。


 俺はそのまま日常に復帰した。魔法や便利なスキルを使えると言ってもあんまり日常には役に立たない。あ、でも、自動翻訳のスキルは英語の授業で活躍したな。突然英語がペラペラになった俺に先生が驚いていたっけ。


 で、俺が現実世界に慣れて(水道も電気も無い世界から帰ってきて、俺はそのありがたみを嫌というほど感じたね。それととりあえず飯が泣くほど美味い)、ようやく落ち着きだした二ヶ月後。


 二回目の召喚を受けた。


 おいおい。俺は呆れたけど、今度の世界は魔王が既に世界を征服し掛けていて、人間の領域はもう王城の近辺だけ。絶望的な状況だった。王様に泣いて頼まれて、俺は仕方なく二回目の魔王討伐の旅に出た。


 だけどまぁ、二回目だ。しかもスキルは前回の転生の最高スキル、最高装備のままだ。俺はバッサバッサと魔物を倒しながら進んだけど、今回は何しろ人間がほとんど生き残っていない。仲間はいないし、宿にも食料にも事欠く有様でその面では本当に苦労した。何度か王城まで物資不足での撤退を余儀なくされたほどだ。


 そして魔王城周辺の敵は魔界の気が濃くなっていたからか、前の魔王城の敵よりもずっと強くなっていた。なんとか見付けた仲間と共に、俺は何年も戦い、そして遂に魔王を切り裂き、世界を浄化することに成功したのだった。


 王城に帰り大感謝を受け、そして引き留めを振り切って俺は現実世界に帰還した。


 そして三日後にまた召喚された。


 冗談じゃないよ。俺はちょっと、流石に召喚した魔法使いに怒った。しかしながら魔法使い曰く、強い魔力を持った異世界人を召喚しただけなので、俺を好んで選んだわけではないのだという。そういう設定だと俺が引っ掛かる可能性は高くなるだろうよ。俺は何しろ二回も魔王を倒し、もの凄いレベルになっている。最大級の魔法を放ったら日本列島の半分くらいは消し飛ばせると思う。


 王様に是非に是非にと縋り付いて頼まれて、仕方なく俺はまた魔王と戦った。三回目となるともう苦戦する事もほとんど無かった。面白いのはどの世界でも出てくる魔物はあんまり変わらない事だったな。流石にボスクラスは違うけど。


 そして一年くらいで俺は見事魔王を打ち倒して、現実に帰還した。


 で、次の日にまた召喚された。


 間隔を短くしてくるんじゃねぇよ! と俺は頭を掻きむしったね。もう少し現実世界を楽しませてくれよ。俺はお袋の飯と、漫画とゲームが楽しみで現実に帰還してるんだよ! 一年我慢したのに一日じゃあ何も出来ないじゃねぇか!


 しかし、今回はおっさんの王様だけでなく、美人の姫君までが泣いて俺に魔王を倒してくれと頼んできた。……仕方が無い。俺は仕方なく剣を取った。


 同行してこようとする連中は断った。なにげに、異世界から帰還するときに苦楽を共にした仲間と別れるのは辛いことだったのだ。出来れば仲の良い相手は作らない方が良い。彼女なんてとんでもない。それに多分、今回はそう時間は掛からないだろうよ。


 実際、三回の魔王討伐実績を持つ俺の強さは規格外で、防御力があまりに増した俺はもはや攻撃を避ける必要もなく、真っ直ぐに魔王城を目指してそのまま蹂躙し、魔王もさして苦戦する事もなく撃ち倒した。


 あまりの早さに目が点になっている国王と姫を尻目に、俺はまた現実へと帰還したのだった。


 ……これが四回目。この後四回、俺は数日おきに異世界に召喚されたのだった。そうなるともう慣れてしまって、アルバイト感覚というか、ハイハイまたね、くらいの感慨しか抱けなくなってしまったな。


 いや、異世界の連中は真剣なのよ。命掛かってるんだから当たり前だな。でもなぁ、俺はもうレベルがあまりにも高過ぎて、その辺の雑魚モンスターなら触るだけで消滅だし、空は飛べるし何なら一度移動した所には魔法で簡単に行ける。その魔力も事実上無限大で、核爆弾並みの一撃を世界の端から端まで撃ち込めるだろうから、多分スタート地点の王城から一歩も動くこと無く魔王を滅ぼせるだろうよ。その気になれば。


 こんなんになってしまうと、現実世界で暮らすのも大変なのだ。何せ肩をぶつけてしまっただけで相手が消滅しかねない。舌打ちしただけで辺り一面が火の海になってしまうかも知れない。喧嘩? スポーツ? そんな事したら東京が壊滅しちゃうよ。そーっと、大人しく生きるしか無い。


 だから数日おきに召喚されてむしろホッとするところもあった。異世界なら多少の失敗は勇者だからで許される。再生魔法で物なら何でも治せたし、瀕死くらいなら回復させられるしな。ちなみに蘇生魔法はどこの異世界にも存在しなかった。


 そんな感じなので、俺は現実世界に何か心残りが(明日がゲームの発売日だとか、お袋が俺の好物を作ってくれる予定だとか)無い限りは、異世界で舐めプして数年を過ごすようになっていた。適当に遊びながら戦い、魔王討伐を長引かせる訳だ。勇者だからみんな崇め奉ってくれるし、モテるからな。良い気分で暮らせたんだよ。で、飽きたら魔王を速攻滅ぼして現実世界に帰る。


 そんな生活を繰り返していた俺はある日、九回目の異世界召喚を受けたのだった。

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