ハイパー天才のホッチキス高校推薦入学

ちびまるフォイ

天才による世界を変える発想

俺はよくいう天才というやつだ。


生後2ヶ月で言葉を覚えたし、

学校じゃいつも満点で神童ともてはやされた。


俺のような人間が、頭の悪い人間がのさばるこの世界をまとめていくのだろう。


そう、俺はこの人間の未来を作る選ばれた存在なんだ。


「さて、合格番号は……と」


合格発表日の当日。


とくに特別な勉強もせずに受けた受験が

まるで落ちる気もしていない。


そして、読者にドキドキを提供するまもなく受験番号は当たり前に見つかった。


「フッ……。困っちまうぜ。自分の優秀さに……」


きっと、この合格した学校でもあっという間に覇権を取るだろう。

飛び級システムがないことだけが悔やまれる。


いや、むしろいいのか。

飛び級なんかしたら周りのみんなが劣等感にさいなまれて自殺する。


周囲との差を意識する協調意識の高い日本人にとって

「俺」という天才の存在はむしろ毒かもしれない。


「まあせいぜい、学校というモラトリアムを過ごすとするか……」


手に持っていた受験番号の紙を捨てて、学校が始まるのをまった。


入学式が終わり授業がはじまる。

俺は固まってしまった。


「では1時間目。ホッチキスの授業をはじめます」


机にはホッチキスだけが置かれている。

教科書もなければノートも、ましてPCやタブレットもない。


あるのは針が抜かれたホッチキスだけ。


「はい、1!」


クラスメート全員が声に合わせてホッチキスを挟む。


「そこ! ホッチキスがちゃんとキッスしてないよ!!!」


うまいことかみ合わせが悪くなりそうな挟み方をしていると、

もれなく先生のゲキが飛んでくる。


「はい、2!!」



カッチャン!!



「はい、3!!」



カッチャン!!



たまらず俺は挙手してこの異常なホッチキス空間に水を入れた。


「ちょ、先生! これはなんですか!?」


「なに、というと?」


「ここはこの国で一番合格率が低い、めっちゃ賢い人しか集まらない学校でしょう!?」


「そうだが?」


「なんでホッチキスいじってるんですか!!」


「それはうちがホッチキス高等学校ホッチキス学科ということが、なぜか? という質問か?」


「ふえええ!?」


賢すぎる俺は学校名なんか見ちゃいなかった。

大富豪が値札を見て買い物をしないのと一緒だ。


俺にはどこにでも入れる学力があるのなら、

とりあえず頂点難しい学校を選ぶのがスジだろうと脳死で受験票に書いてしまった。


「さあ、みんな手が止まってるぞ!!

 そんなんで紙を貫けるのか!!」


「「 はい!! 」」


「ホッチキスの針が曲がるようなやつは信念も曲がる!!」


「「 はい!! 」」



「いくぞ!! ホッチキーーッス!!」



先生の号令に合わせて生徒はみんなホッチキスを噛ませる。

こんなんが時間割を埋め尽くしていることに絶望した。


授業が終わるや、俺はまっさきに図書館へ駆け込んだ。


「なにがホッチキスだ。ふざけるな。

 俺のような天才の頭脳をこんな場所で腐らせてたまるか!」


学校で何かを教わる、というスタンスは諦めた。

どうせここで学んでいてもホッチキスしか覚えない。


だったら自分で学んで、自分の価値を世界にアピールする。


世界から声がかかれば退学なんて後味悪いエンディングではなく、

世界からのヘッドハンティングという勇退エンドができる。


「俺は絶対にホッチキスなんかやらないぞ!!

 こんなくだらないもの全部ぶっこわしてやる!!」



天才の俺はひとより努力することは少なかった。

少ない努力で他の奴らをあっという間に蹴散らすことができたから。


でも、今はじめて努力している。それも死にものぐるいで。


1時間目から6時間目までホッチキスの授業。


そんなこの世の終わりのようで頭のおかしくなるカリキュラムから脱し、

俺の研究をもってこの学校がいかに無価値かを世界に突きつける。


俺という頭脳を飼い殺しするこの学校は、俺の手でとどめを差してやる。

その逆境心が俺をはじめての努力へと向かわせる原動力となった。


そしてーー。



「おお、〇〇。貴様、ここ最近学校を休んで何をしていたんだ」


「先生には関係ないでしょう」


「いいか。ホッチキス1針空きざれば刮目せよ、という言葉があるようにーー」


「ふふ。ホッチキス?」


「なんだ。なにがおかしい!」


「ホッチキスなんて、そんな前時代的なオーパーツまだ使っているんですか?」


「き、貴様!! ホッチキスを侮辱する気か!!」


「ええ、ええ。侮辱しますよ。こんなもの使っているから世界に取り残されるんです」


「なんだと!?」


「先生、教えてあげますよ。なんで俺が学校をこなかったのか。

 それはね。こんなホッチキスなんかと関わりたくなかったからです!」


「なに!?」


「俺のような天才の頭脳をこんなしょうもないことで消費するのは世界への反逆です。人類成長への冒涜です」


「ホッチキスをしょうもないことだと!!」


「もうこんなものはいらないんですよ。

 そうなるように俺は今日、ここで研究成果を持ってきたんです」


「研究成果だと……!?」


「先生にも見せてあげますよ!

 俺がひとりで作り上げた研究の集大成を!!

 ホッチキスなんかで縛ることが許されない天才の発想というものを!!」



俺はクロスを引いて、研究成果を見せつけた。




「これが、電子書類をまとめる新文房具『ハッチキス』です!!」

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