第26話「フォロワーとの交流(殺伐)」
昼飯を食べながら、目の前の少女を見ているのだが、スマホを必死に見て通知音が鳴る度に操作をしているので忙しそうだ。我が妹としてはたまには俺が作った昼飯を食べて欲しいものだが、やはり白ご飯と卵、それと鰹節と醤油という組み合わせでは写真があまり綺麗ではないからだろうか? 一向にそれを撮ろうとはしなかった。卵かけご飯って美味しいと思うんだけどな。
瀬々里が撮影する気が無いようなので、自分の分はさっさとご飯に卵をのせて、その上に鰹節をトッピングして醤油をかけてかき混ぜた。国によっては生卵が食べられないらしいが、日本ではセーフなので問題無い。割と食に関しては恵まれているなと思う。
俺がご飯をかき込んでいるのだが、それさえも瀬々里は無視をしてスマホに釘付けになっている。あまり細かいことを言いたくはないのだが、ここで言わないと俺以外の人にも同じ態度だとトラブルが起きかねない。たまたま相手が俺だったから許されているようなものだ。
「瀬々里、スマホが気になるのは分かるがいい加減食べたらどうだ」
瀬々里はスマホを裏にして机に置いて卵かけご飯を食べ始めた。俺の料理では文句を言われるかと思ったが、瀬々里は豪快に醤油をかけた卵をご飯にかけてぐちゃぐちゃにかき混ぜて食べ始めた。
さて、本人の問題と切り捨てるのは簡単だが、それを言ったところで何かが解決するはずもない。あまり力になれないかもしれないが、一応話くらい聞いておくか。
「何があったんだ?」
その一言がきっかけになり、瀬々里はあり得ないような速度でご飯を口に流し込み、ほぼ咀嚼もせずに飲み込んだ。そしてドンと茶碗をテーブルに置いて訥々と語った。
「フォロワーさんと少し言い争いをしていまして……」
ああ、これ絶対面倒なやつだ。コイツの『少し』というのは大問題に決まっている。頼むからトラブルを起こすのはやめて欲しい。言ったところで右から左に聞き流すようなやつだが、それでも俺の忠告くらい心に留めて欲しいな。
「そういうときは飛行機飛ばして寝るのがいいぞ。大抵のことは時間が経てば落ち着くものだ」
たとえ相手の言いがかりだとしても言い返せば論争になる。ネット上の情報だけしかお互い相手を知らないので、リアルだと落とし所が見つかるはずが、相手が見えないので論争は延々と続き、炎上はドンドン燃え広がっていく。鎮火したいならさっさと会話を打ち切ってしばらくネットに触れないのが一番だ。熱しやすく冷めやすいネット民は反応のない炎上を長々燃やすほどヒマでは無いしな。
「そんなことしたら連絡が取れなくなるじゃないですか! そんな荒療治は望んでいません」
どうやらこの解決法はお気に召さなかったらしい。逃げるにしかずとは言うが、逃げないにしても見ないくらいのことはしてもいいはずだ。
「じゃあしばらくアプリを削除しておいたらどうだ? アカウントが消えるわけじゃないし、通知音がポンポン鳴るようなこともなくなれば気が楽になるぞ」
この辺はアプリの配信者が従量課金でやっているとものすごく嫌われる行為だが、イソスタやTは大したデータ量でもないし問題無いだろう。
そんなことをしなくても設定から通知をオフにすれば良いだけではあるが、瀬々里の場合だとそれをやったところで通知が『来ているかもしれない』と気になるだろうからな。やはりアプリを残すとどうしても見てしまうものだ。炎上中は火消しに専念した方がいい。
しかし瀬々里は食器を脇に寄せてまたスマホを見始めた。なかなかドツボにハマっているような気がする。
「逃げるのは恥ずかしい事じゃないぞ。炎上なんて何度かあっただろ、なんでそんなに必死になってるんだ?」
いつもの瀬々里にはあり得ないほど論争に時間を費やしている。よくやるよ。
俺は食器を洗いながら、後ろでピコンピコンとなる通知音を無視して食器を棚にしまった。
「クソリプが飛んできたんですよ『おっさんが広いものの画像で美少女受肉したつもりか?』ってね」
「まあ確かにそれは乱暴な物言いだが、そこまでキレるようなことなのか?」
何が瀬々里の逆鱗に触れたと言うのだろう?
「私を誰だと思ってるんですか? 自他共に認める美少女ですよ? 言うに事欠いてコイツはおっさん扱いしてきたんです、そりゃキレるでしょう」
その辺は瀬々里の地雷らしい、俺も瀬々里に話しかけるときには気をつけることにしよう。リスクは日常のどこに潜んでいるか分からない。
瀬々里は必死に反論を送っているが、向こうもよくブロックしないものだ、どちらかがそれをやれば勝負は強制終了で勝ちも負けもないというのに決着を付けることにこだわらなくてもいいだろうに。少なくとも向こうに悪意があるにしても、自分が相手の土俵まで降りて口喧嘩を始めたら終わりだぞ。
それと瀬々里は肝心なことを忘れている。きっとそれを言えばショックを受けるかもしれないが、このままダラダラ延焼させていくともっと酷いことになるからな。
「瀬々里、ひとまず落ち着いて自分のプロフィールページを見てみろ」
怪訝な顔をしながらもその通りに操作してページを開いたところで瀬々里の悲痛な絶叫が起きた。
「減ってる! フォロワーさんが百人以上減ってる!? なんで!? どうして!? お兄ちゃん、何か知っているんですか?」
そこから説明が必要か……
「なあ瀬々里、お前は炎上系じゃないだろ? 普通のアカウントだと思ってフォローしたらタイムラインに罵倒の言葉がいきなり続いていったらどうなると思う?」
「……」
瀬々里は沈黙で返した。つまりはそういうことだ。争いが好きにしてもやり方というものがあるだろう。そして瀬々里はあまり褒められた方法ではないことをした、それを望まないフォロワーがフォローを外した、ただそれだけのことだ。ついでに言うなら炎上しているようなやつをフォローしていて自分まで延焼してきたらかなわないと思って外した人もいるだろう。
結局、炎上させることで耳目を集めるのが目的以外の人は炎上なんてさせないにこしたことはない。
俺がソファに座ってテレビで配信サイトを巡回していると瀬々里が近づいてきた、何か用でもあったのかな?
「お兄ちゃん、なんだか起きてると気になって仕方がないので少し横になります」
「それがいいと思うぞ、一晩寝れば大抵のくだらない問題はくだらないことだったって気付くからな」
「それでは失礼して……」
瀬々里はソファの端に腰掛けて俺の膝に頭をおいた。時々こういう事をするんだな、男の膝枕のどこに需要があるのか知らないが、ソファに横になってすぐ瀬々里は目を瞑って静かになった。疲れていたのかもしれないな。
そうしてしばしの間動画サイトを見ながら膝に柔らかい感触を受けていたのだが、始めこそ瀬々里のスマホがポンポン通知音を奏でていたが、即レスがなくなったため、割とすぐにその間隔は延びていき、瀬々里が完全に寝た頃にはスマホが沈黙をした。
目が覚めたらもうこんなくだらないことで悩むなよ、そう思いながら俺は瀬々里に膝枕を続けたのだった。
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