ピー音が聞こえる

 連日。残業続きで寝不足だった僕は、家に帰るとそのままベッドに倒れ込むように眠った。


 …………


 『ピーピー』


 どこからか耳障りな電子音が聞こえてくる。


 『うるさいな~』と思いながらも、疲れていたため音を無視してそのまま眠ることにする。


 『ピーピー』


 その音は1分間に1度。何かを知らせるように鳴り続ける。


 寝返りをうったり、布団を頭から被ったりしてみるが、どう頑張ってもその電子音がどこからか聞こえてくる。


 「あ~クソッ」一度気になりだすと、音が気になってしょうがない。


 明日も朝一から工事現場の仕事が入っており、少しでも疲れを取っておきたい僕は、渋々ピー音の出どころを探すことにした。


 時計を見ると午前3時20分。


 さっさとピー音を消さなければ、現場までの移動時間を考えるとあと3時間位しか眠れない。


 耳を澄まし。再びピー音が鳴るのを待つ。


 『ピーピー』


 ピー音は、キッチンの方から聞こえてくる。


 キッチンに移動してコンロの消し忘れ、電池切れを確認する……問題なし。


 冷蔵庫の閉め忘れを確認する……問題なし。


 電子レンジ。炊飯器。トースター。ポット。空気清浄機。……全て問題なし。


 その間も鳴り続けるピー音。


 音は間違いなくキッチンから鳴っているのだが、どうしても音の出所が分からない。


 頭にきた僕は、キッチンにある電化製品のコンセントを全て抜くことにした。


 これでもう鳴らないだろう、詳しく調べるのは仕事から帰ってからにしよう。


 そう思っていると……『ピーピー』……また鳴った。


 仕方がない……こうなったら家中の電気を全て消してしまおう。僕は玄関にあるブレーカの主電源を落とした。


 これで流石に鳴らないだろう、そう思っていると……『ピーピー』……鳴り続けるピー音。


 電化製品の中には、充電した電気で動く部品もある。


 仕方ない。このまま放置しておけば、充電も切れて、そのうちピー音も鳴らなくなるだろう。


 僕は一睡も出来ないまま工事現場に向かった。


 …………


  あれから何日経過したのか……もう日数を数えるのをやめてしまった…………寝不足で全く頭が回らない。


『ピーピー』1分間に1度。その音は今日も鳴り続けている。


「ピーピーピーピー五月蠅せえんだよ」


 僕は、家中の家電を壊すことにした。


 テレビ。エアコン。扇風機。パソコン。洗濯機。冷蔵庫。レンジ。トースター。空気清浄機。


 全て金属バットで徹底的に叩き壊した。


「これでもう鳴らないだろ」


『ピーピー』


 暗闇の中。ピー音が鳴り響く。


 …………


『ピンポーン ピンポーン』


 チャイムの音が聞こえる。


 玄関の扉を開けると下の階の山田さんが立っていた。


「今、何時だと思ってるんですか!こんな夜中に工事でもしてるんですか!!いい加減にしないと警察を呼びますよ」


 開口一番『ピーピー』と文句を言い続ける山田さん。僕は手に持った金属バットで山田さんの頭を思い切り殴った。


「やめて」「すいません」「すいません」「もうやめて」「誰か……助けて」


 最初は『ピーピー』と泣き言を言っていたが、何度も何度も殴り続けていたら、山田さんは『ピーピー』言わなくなった。


 静かになった山田さんを引きずって、部屋の中に運び込み。隣に住む加藤さんの隣に座らせる。


 加藤さんもいきなり深夜に訪ねて来て『ピーピー』と喚き出したので、金属バットで何度か殴ったら静かになった。


 やはり僕は間違ってなかった。


 音の原因をひとつひとつ消していこう。


 『ピーピー』


 暗闇の中。またピー音が鳴った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る