憑依 ー 三人組の男 ー

 日笠千鶴ひかさちずるが語り始める。


「17歳の夏休み夏期講習の帰りでした、私は少しでも早く家に帰りたくて、人通りの少ない道を通りました」


 日笠千鶴ひかさちずるの話に合わせて ジジジ……ジジジ…… と画面が乱れた後、暗い道を歩いている画面が映る。


「その道の先に車(ハイエース)が1台止まっていて、その車の横を通り過ぎようとした時。車のサイドドアが突然開き、中から3人の男たちが出てきました」


 ノンフィクションのナレーションのような感じで、日笠千鶴ひかさちずるの語りが画面から聞こえてくる。


 サイドドアが開き飛び出してくる男たちが映る、大学生くらいだろうか、見た目は普通の青年たちだ。


「声を上げる間もなく口を押えられ、私は車の中に押し込まれました」


 車の中、馬乗りになって声が出せないよう、口を押さえつけてくる男、両手をおさえる男、両足をおさえる男。が見える。


 画面のブレが酷い……そこで初めて気が付いた。


 この映像は日笠千鶴ひかさちずるの目を通してみた光景なのだ。


「私は無我夢中で男の手に嚙みつきました」


「痛てっ、こいつ噛みつきやがった」


 口を押さえつけていた男の手から、血が出ている。


 手を噛まれた男は「なめやがってよ」と言いながら日笠千鶴ひかさちずるの腹部を思い切り殴る。


「私は殴られた痛みで、声も出せませんでした」


「おい佐藤、あんまやりすぎんな」足を押さえつけている男が声を上げる。


「うっせーな分かってるよ、あと名前呼んでんじゃねえよ松岡。お前はいいからさっさと車を出せ、例の場所だ」


「分かったよ」松岡は運転席に移動し、車を発進させる。


 佐藤は拳を高く振り上げ「次騒いだら、顔面にいくから」と日笠千鶴ひかさちずるに凄んだ。


「私は痛くて……怖くて……『もう痛くしないでください』と佐藤に懇願しました」


「大人しくしてれば、殴らねえよ」佐藤はそう言ったあと。


 腕をつかんでる男に向かって「おい坂口、例の場所に移動するから、コイツが暴れないようにガムテープでしばっとけ」と言った。


「佐藤君、大きな声で僕の名前を呼ぶのはやめてください、仲間と思われるでしょう」


 メガネをかけたインテリ風の男が、嘆息しながらそう言った。


「うっせーよ、お前もやることやるんだろうが、同罪だ」

 

 吐き捨てるように暴言を吐く佐藤。


「……全く、お嬢さんご覧の通り、佐藤君は切れたら何をするか分かりません。

 大人しくしてた方が身の為ですよ」と言いながら、日笠千鶴ひかさちずるの手足をガムテープで拘束する。


「私は『助けてください、絶対誰にも言いませんから助けてください』と何度も懇願しました」


「分かりましたから、大人しくしててくださいね」と言いながら、坂口が日笠千鶴ひかさちずるの目と口にタオルを巻き付けた。


 そこで画面が真っ暗になった。


 …………


 僕は息をのむように、画面を見つめていた。


 先ほどから何故か疼く、お腹をゆっくりと擦りながら。


 …………

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