憑依 ー 日笠千鶴《ひかさちずる》 ー

 その後、工事現場で死体を発見した事を警察に通報。


 現場検証の流れとなった。


 遺体の足元に本人直筆の遺書があった事から、自殺という事で解決しそうな雰囲気だ。


 警察の取り調べには、リフォームの現地調査依頼で部屋に入り、そのタイミングで死体を発見、通報に至ったこと説明。


 依頼元からも、間違いなくリフォームの依頼をしたと報告があったようで、問題なく裏付けも取れ。


 僕は無事解放された。


 作業カバンの中身を確認されなくて、本当に良かった……。


 …………


 会社に戻ると心配した社長がとんできて「大変だったなぁ、今日はもう上がっていいぞ、明日はゆっくり休んでくれ」と僕を労わってくれた。


「ありがとうございます、少し体調がすぐれないので、助かります」そう言いながら、僕は具合が悪いふりをする。


「大丈夫だ、アカバネの仕事は全部山田にやってもらう、わかったな山田?」


「……はい」


 親方は警察の取り調べで、僕に現地調査を押し付け、一人車の中でサボっていた事を正直に話した。


 もちろん、その事は社長の耳にも届いていた……。


 ご愁傷様である。


 これでゆっくりビデオテープの確認ができる、僕の頭の中はビデオテープの事で一杯だった。


 …………


 家に帰り、すぐ風呂に入る。


 遺体からした腐敗臭が、まだ鼻の中に残っているような気がして気持ちが悪い、何度も顔を洗い、鼻うがいを繰り返した。


 風呂から上がり、押し入れにしまいこんでいたビデオデッキを引っ張り出す。


 家電ゴミで片付けようと思っていたが、捨てなくて良かった。


 液晶テレビに配線を繋ぎ電源を入れる、何年も使っていなかったが、ビデオデッキは問題なく動きそうだ。


 僕はビデオテープを入れ、再生ボタンを押した。


 …………


 ザザザ……ザザザ……ザザザ……。


 砂嵐がしばらく続いた後、映像が映し出される、そこには首を吊る前の女性が映っていた。


「映ってますか?大丈夫ですか?」とカメラに手を振る女性。


「問題なさそうですね、それでは始めます」


「初めまして、私は日笠千鶴ひかさちずると言います18歳です」


 若いとは思っていたが、18歳か……早すぎるだろ。


 日笠千鶴ひかさちずると名乗る女性は、綺麗な顔立ちの子だった、透き通るように肌が白く、そして驚くほど痩せている。


 知り合いに拒食症を患った女性がいるのだが、その人と同じような痩せ方をしている、病的な痩せ方だ。


「このテープを見ているという事は、警察関係の方でしょうか……それとも工事で現地調査に来られた方でしょうか……」


「私の復讐にあなたを巻き込んでしまい、本当に申し訳ございません」深々と頭を下げる日笠千鶴ひかさちずる


 復讐?復讐に巻き込んでしまいと言ったな、どういう意味だ……。


「私にはどうしても殺したい相手がいるのです、どうかあなた様の力をお貸しください」再度、深々と頭を下げる日笠千鶴ひかさちずる


 その瞬間、ゾクリと寒気がした。


 背中をスーッと人差し指で触れられた、そんな感覚だった。


 あわてて後ろを振り向くが、誰もいない……。


 全身に鳥肌が立つ、何か嫌な予感がする。


 もうビデオを止めよう、そう思っていると。


「申し訳ございません、あなたはこの映像を見た事により、私とえにしが結ばれました」


「映像を、もう出来ません」


 僕の心の中を言い当てるように、日笠千鶴ひかさちずるが語り続ける。


 僕はそれを無視して停止ボタンを押す。


 『カチッ』


 ……映像が止まらない。


 『カチッ』『カチッ』『カチッ』『カチッ』『カチッ』『カチッ』


 何度も停止ボタンを押すが、やはり映像は止まらない。


「いかがでしょう、信じていただけたでしょうか?」微笑みながら日笠千鶴ひかさちずるが僕に語り掛ける。


 おかしいだろ、どうなってんだ。


 これならどうだ、僕はビデオのコンセントを抜き、テレビと繋がる配線も引き抜いた。


 「いかがでしょう、信じていただけたでしょうか?」微笑みながら同じセリフを語る日笠千鶴ひかさちずる


 僕は恐怖で、言葉も出なかった。

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