転生ガチャに失敗した俺は、詰んだ世界で愛を叫ぶ
八田さく
プロローグ
「異世界に転生したら、貴方はどんな人生を望みますか?」
◇◆◇◆◇
俺は
変な名前だったせいで子供の頃はよくからかわれた。
30歳の俺は人生を達観していた。
たまにはいいことも起こる。
でもその直後には必ずそれを帳消しにする不幸が訪れる。
ひとつの幸運に有頂天になることも無意味。
ひとつの不幸に絶望するのもまた無意味。
—— 人生とはそんなものである。
*
中学校までは割と勉強できる方だったが、背伸びして挑んだ高校受験で失敗。
結局高校は滑り止めの滑り止め。大学はFランク。
未だに高校受験失敗の影響が俺の人生には色濃く残っている。
それでも学校にはちゃんと通った。
まあグレたり学校を休む度胸もなかったからということもある。
その甲斐もあり、思いがけない優良企業から内定がもらえた。
その会社が内定3日後に不祥事で大ニュースになった。内定を取り消された。
結局就職できたのは 下請けの下請けの下請けのしがないソフトウエア開発会社。
仕事に飽き飽きしながらも、今日までコツコツとさぼりもせずにこの会社で働いている。
始発から終電まで働いても、ブラック企業の我社の山積みされた仕事は一向に終わりが見えず、毎日怒鳴られる日々。
これといった趣味もなく土日は仕事かアニメかゲームをだらだらとやってるだけ。
こんな日々の繰り返しでも30歳になってしまった。
*
俺の人生悪いことばかりではなかった。一瞬だが光り輝くときも確かにあった。
ただ俺の人生ではこの比率がちょっと顕著で、幸運は瞬きする間に終わるほど一瞬であり、不幸の裾野は富士山のように長い。
生まれた時は、父が経営している会社がバブルでウハウハだったらしい。
泡が弾け、俺が生まれた3日後に倒産。父母は離婚して、俺は祖母に預けられた。
高校では、始めてすぐのダーツに大会地方予選で優勝するほどのめり込んだが、大会本戦は遠征費が貧乏な家庭では捻出できず不参加。それ以来やっていない。
大学では、初めて女の子に告白された。友達との罰ゲームだったようで、挙動不審になる俺をこっそり動画で撮られ、SNSで知り合い全員に晒された。
会社に入ってからも一度、ヘッドハントをしているという転職エージェントから声がかかった。お金を騙し取られた。
つい先日も、高校のちょっと気になっていたかわいい同級生からプチ同窓会の誘いがあり、喜んで出かけたらネットワーク商法のお誘いだった。お高い健康食品を買うことになった。
—— こんな人生の繰り返し。
幸運があっても直後にもっと巨大な不幸が押し寄せるのだからと、今はちょっとした幸運にも警戒してしまうようになった。
とは言いながら、そんな俺にも幸運が訪れないかと心の片隅で期待している。
そんな平凡な人間であった。
◇◆◇◆◇
そんないつもの何でもない日の夜。
俺はこれまたいつもの地下鉄の終電に乗った。
珍しく座れたので、疲れ切っていた俺はこれ幸いと仮眠に入る。
終電のこの時間帯、座れないことの方が多いが、今日はラッキーだ。
最寄り駅まで30分ほど。一眠りしよう。
ふと目を覚ます。いつもより本格的に寝込んでしまったのか、感覚的にもどのくらい時間が経ったのか分からなかった。
乗り過ごしたかも! 慌ててスマホを見る。
よかった、まだそれほど時間は経っていない。到着までまだ十分はある。
静かだな…… 顔を上げた。この車両、俺の他に誰もひとがいない。
変だ。こんなことは1度もなかった。終電はいつも疲れたサラリーマンと陽気な大学生で混雑しており、誰もいないなんてことはなかった。
電車は走り続けている。
そういえば、寝ていながらもいつも薄っすらと聞こえている電車内のアナウンスも、各駅の発着のベルの音も聞いていないような……
起きてから五分経った。このあたりは駅の間隔が狭いのでどんなに時間がかかってももうそろそろ駅があるはずだ。
さらに五分経った。もうこれは完全におかしい。
スマホの時計が狂っていて地下鉄路線を過ぎて地上に出てそのまま乗り継ぎの私鉄路線にまで入ってしまったのか?
電車の外は相変わらずの地下のトンネルだ。それはありえない。
その時、車両の向かいの席に女性が座っているのに急に気づいた。
いや、今気づいたのではない。さっき見た時はいなかった。車両に誰もいなかったので見落とすはずがない。
今現れたのだ。
普通の女性ではない。
艷やかでどこまでもストレートロングな黒髪。天衣とでもいうのだろうか? 薄い半透明の衣を何重にも着ている。しかも素足。
腕に絡められたこれまた半透明な長いマフラー状の布が宙にたなびいている。
そして、彼女はわずかに宙に浮かんでいた。
「—— はじめまして、猿田 司馬夫さん」
彼女はにっこりと微笑む。
まるで女神のようだ。いや天女か? この雰囲気は。
綺麗でもあり、儚くもあり、艶もあり、幼げでもある。
一億年にひとりの逸材だな。
リアクションもできず、彼女に見惚れてぼけっとしていた俺に彼女は言った。
「—— 異世界に転生したら、貴方はどんな人生を望みますか?」
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