厚労省からの刺客

 この事態を重く見た厚労省の感染対策本部から、白鷺データサイエンス大学付属小学校にある男が派遣される。

 本郷猛ほんごうたける感染対策本部長である。

 副本部長の安藤冴あんどうさえも、長い髪と端正な容姿であるが、非常に地味な紺色のスカートとスーツで同伴していた。

 そこは白鷺データサイエンス大学付属小学校の校長室の応接ルームだった。

 ふたりの前には緑茶と田舎風の耳が固い羊羹ようかんが置かれていた。


「厚労省の意向は分かりましたが、我が白鷺データサイエンス大学付属小学校では科学的データで物事を判断するようになっております。海外でもマスク着用は原則不要という動向になってますので、風邪などの感染症になってない生徒のマスク着用は厚労省でも辞められたらどうでしょうか?」


 白鷺データサイエンス大学付属小学校の学校長の薬師御言やくしみことの顔を見た本郷猛本部長は一瞬、嫌な顔をした。

 薬師御言はかつて『厚労省秘密査察部』に所属していて、子宮頚がんワクチンの薬害被害を暴いて、厚労省を退職していた。

 あの時、厚労大臣のみならず、厚労省キャリア組のトップである事務次官なども巻き添えで退職、良くて左遷されていた。

 本郷も左遷組の一人であった。

 ある意味、本郷猛、厚労省にとっても、薬師御言は天敵であった。

 その天敵である薬師御言はプロテスタントの白黒の生地のシスター姿で彼の前にいた。


「そうは言いましても、私、厚労省感染症対策本部長としては、厚労省のガイドラインに基づいて、白鷺データサイエンス大学付属小学校でもマスクを着用して頂きたいと思います。2m以内の会話時のみでよろしいので、お願い致します」


 一応、型通りの、あくまで低姿勢のお願いをしてみたが、薬師御言の返答はにべもないものだった。


「そのガイドラインには法的根拠はあるのですか? 憲法の基本的人権に違反するのではないですか? さらにマスクによって、感染症が予防出来る科学的データはほぼ皆無であり、このレポートによれば、免疫力を低下させる、7000%以上の高い二酸化炭素濃度による健康被害、死亡事例も存在します。逆に当校ではこのようなレポートを書ける生徒が出たことを誇りに思ってますし、地域の住民の理解も得られているので、マスクを再び着用することはないかと思います」


 本郷猛感染症対策本部長は痛い所を突かれて、正直、ぐうの音も出なかった。

 マスクを義務化する法的根拠はなくて、厳密には憲法違反であり、あくまで、ガイドライン、お願いでしかないのだ。

 科学的データ的にも、感染症の被害を図る目安としての「超過死亡」がマイナス一万人に転じている時点で、T4ブルーファージウィルスの死亡数は統計の改竄かいざんである可能性が高い。

 つまり、今回のパンデミック自体が存在しない可能性が高いのだ。

 そういうことを知り尽くしている本郷猛は、失言しないように注意しながら、一時、撤退の決断をした。

 とりあえず、行政指導的な法的拘束力のない注意喚起までが彼の仕事だったからだ。


「誠に残念ですが、今日の所は帰らせて頂きます」


 本郷猛感染症対策本部長はあっさりと引き下がった。

 副本部長の安藤冴も軽く会釈して、校長室を後にした。

 しばらく廊下を歩きながら、安藤冴が話を切り出した。


「本部長、どうして、今日は大人しく引き下がるのですか? 本部長らしくないですね」


 安藤冴は不審げな表情で本郷猛に視線を送った。


「いや、私のできる事はこれぐらいだよ。ただ、『マスク警察』という今回のパンデミックを信じ込んでる連中が黙っちゃいないだろう。マスコミでこれだけT4ブルーファージウィルスの恐怖を煽っておけば、それを信じる者と信じない者の間に『分断』が起こる。すでに今回のパンデミックの情報戦は始まってるし、全ての者が真実を見抜ける訳ではないからね」


 本郷猛感染症対策本部長は悪人顔で不敵に笑っていた。

 厚労省では自分はなるべく責任を取らず、製薬会社などに恩を売り、定年後などの退職後に如何に天下りするかというスキルを極限まで極めた者のみが生き残ることができる。

 生真面目に国民のために生きる役人は自殺に追い込まれるだけだし、したたかに己の利益のみを追求することが処世術になっていた。


「まあ、私達は高みの見物してるだけで、愚かな国民は互いにいがみ合いはじめるということですか」


「まあ、そういうことだ」


 安藤冴はこの男のそんな面が嫌いでは無かった。

 所詮、この世は弱肉強食であり、それが自然の摂理である。

 今回のパンデミックによる人口削減計画も何十年も前から準備されていた。

 何十年も前のオリバー米国大統領の科学顧問の大統領補佐官はバリバリの人口削減論者であり、現在、80億の人口を10億人まで削減する計画が著書にハッキリと書かれていた。

 世界的な環境会議でも地球環境の浄化手段として、人口削減は筆頭にある手段だった。

 最早、それは公開情報にすぎないのだが、マスコミで陰謀論だと主張すれば一般庶民はこの後登場する予定のmRNA型の遺伝子ワクチンをホイホイと打つだろう。

 それを打ってしまえば、ほぼ5年から10年の間に免疫が徐々に低下して、血栓症、心筋炎、ターボ癌などで死に至る。

 それで、約70億の人類の人口削減が実現するはずだ。

 上手く行かなければ戦争、エネルギー危機、飢餓、あらゆる手段を講じるだけである。

 世界の富裕層で構成される世界政府〔新世界秩序:New World Order 〕は人口削減後は、中国を覇権国とするデジタル監視共産主義に移行する予定である。

 その布石が日本政府がデジタルポイントを還元して普及を促進している『デジタルナンバーカード』である。

 将来的には日本円をデジタル通貨にしてベーシックインカムを導入し、国民のお金の流れを完全管理して奴隷化するのが狙いだと言われてる。

 そういう社会が見えている中で、厚労省の職員の多くは、【生き残る側に残る選択】をしていた。

 この詐欺的パンデミックはもう誰にも止める事は出来ない。

 そして、これは生き残るための戦いのほんの始まりに過ぎなかった。



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