パンデミック・チルドレン
坂崎文明
第1話 マスクバトル
黒鉄美里の夏休みの自由研究
「マスクを外す幾つもの理由」
それは小学四年生の
東京都町田市の小高い丘の上にある「白鷺データサイエンス大学付属小学校」の夏休みの課題のひとつである。
その自由研究に「マスクは感染予防にはならない」のみならず、免疫力を低下させるなどの健康被害事例が幾つも書かれていた。
「やっと気づきましたか。先生はこれを待ってましたよ」
と、教壇の上にVR映像として浮かび上がってる
彼女は文字通り掌の上に乗るぐらいの小さな妖精のような容姿をしていた。
ブルーに発光するドレスを身に纏い、エメラルドグリーンの髪で背中に透明な蝶のような美しい
その
ちなみに、このルナ先生の隣りには添え物のように、飛騨亜礼先生という存在感の薄い人物がいるのだが、みんな余り気にして無かった。
「でも、先生、私はあまりにも
黒鉄美里はショートカットの黒髪の小柄な少女だったが、赤い唇を少し噛みしめて後悔していた。
黒鉄美里がこのレポートを書いたの2020年の夏休みだが、2019年末から中国の最先端IT都市
死因が例え交通事故であっても、PCR検査により陽性なら、ブルーファージ死とするという何とも不思議な統計ルール変更であった。
これにより、日本の交通事故死は年間8000人から3000人に激減し、警察は政府から表彰されたが、T4ブルーファージウィルスでの死亡は5000人水増しされた。
それは交通事故に限らず、心臓病などの疾患にも及び、T4ブルーファージウィルス死は年間三万人を超えることになったが、数十年振りに「超過死亡」はマイナス一万人に転じていた。
「超過死亡」とは感染症の被害を図る目安だと言われているが、簡単に言えば例年と比較して今年の死亡者がいくら増加したかの数字になる。
これがマイナスになるということは、感染症の被害が皆無だということを意味していた。
むしろ、死者数が減少し、人々は健康になっていることになる。
要するに、ただの統計データの移転によって、T4ブルーファージウィルス死が構成されてる可能性が高い。
そんな奇妙な感染症が蔓延したために、彼女の所属する白鷺データサイエンス付属小学校の生徒も2019年から常にマスクをつけていた。
「このブツブツ何とかならないかな。全く」
そう、彼女の悩みはマスクの下の皮膚のブツブツだった。
色んな薬を試したが、なかなか良くならないし、これはマスクを外すしかないという結論に達したのだ。
まさかそんな理由でマスクを外す訳にもいかないので、色々と研究論文を当たって、マスクの有害性を主張することにしたのだ。
実際、マスクは感染症予防効果は皆無に近く、マスクの網目をサッカーゴールのネットに例えると、T4ブルーファージウィルスはピンポン球ぐらいの大きさであり、ほとんどマスクを通過してしまい、感染し放題であった。
文部科学省でも「無症状の状態の人がマスクで、感染予防に効果があるという根拠はありません」と回答している。
のみならず、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、枯草菌の数値は、
トイレの便座 179
マスクの内側 8393
マスクの外側 6707
となっており、おそらく、美里の皮膚病もこれらが原因だと思われる。
マスクを長時間付ける事により歯周病菌が増え、アルツハイマーの原因になる可能性が有ります。
特に子どもでは脳の酸素濃度が低下し、脳の発育が 20~30% 落ちる可能性もある。
免疫力も低下し、二酸化炭素量は7,000%にも増加し、さらに運動をしている時は12,000%にまで増え、逆に酸素濃度は20%落ちるというデータがあります。
マスクで運動中に学生のみならず、自衛隊員、米軍の兵士までが亡くなってる事例があった。
結論としてはマスクはウイルス対策効果は皆無で、害しかないというものになります。
黒鉄美里の夏休みの自由研究の内容は概ね、このような物だった。
「それで、ルナ先生、このレポートを公開して、全校生徒にマスクを外すか否かという決議を
黒鉄美里は顔のブツブツを解消したいという個人的願望を科学理論で武装して、マスクを外すという断固とした決意をしていた。
まさか、このちょっとした決断が後に、この学校にとんでもない災厄を招くことなど、この時点では予想だにしていなかった。
まあ、予言者でもなければ、それは予測不可能のはずだったが、量子コンピュータを実装している世界最強の
「では、そうしましょうか。生徒会を開きましょう」
ルナ先生はにっこり笑って、黒鉄美里の提案を了承した。
黒鉄美里の夏休みのレポートは生徒会で全面的に了承され、学校側もそれを受け入れた。
だが、PTAからも事情説明を求められ、生徒会がそれに丁寧に答えるという展開にもなった。
幸い、PTA側もその説明に対して、かなり好意的な態度で話し合い、最終的には生徒会側の要求を全面的に受け入れた。
そこまでは良かったのだが、東京都内の他校の生徒会がそれを聞きつけて、黒鉄美里のレポートのデータを転用して、同じ戦略でマスクを外す学校が徐々に増えて行った。
当時の厚労省の方針では、野外ではマスク不要で、2m程度の距離での会話にはマスク着用が原則で、2歳以下の乳幼児はマスク不要で非推奨となっていた。
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