大法螺吹真実の楽しい発明品〜巻き込みバット編〜

高吊本音

【大法螺吹真実の楽しい発明品・巻き込みバット編】

●キャラクター紹介

・大法螺吹真実(オオホラフキ・マナミ):天才の名を全て冠する真の天才。片手間で稀代の発明家でもある。二年前、全てのノーベル賞を含む世界的賞七十九つを同時に受賞した翌日、鋏で自分の喉を切り裂いて自殺した。二つ名は【全否定】

・『僕』:今作の主人公格。天才・大法螺吹真実が唯一側に置いた弟子。また、十二年前の大法螺吹の遺体の第一発見者。自他共に認める才能が無い凡人。『AG探偵事務所』の所長。呼ばれ方は『先生』『助手』など様々。

・上半身裸(ジョウハンシン・ハダカ):『僕』の助手。女性。才能の細工箱。仕事はそこそこできるが口が悪いしだらしない。

・逆巻順当(サカマキ・ジュントウ):刑事。巻き込みバット事件担当。正義に燃える中年。

・佐佐々木真面目(サササキ・マジメ):新米刑事。正義に命を捧げる青年。

・十四足六(ジュウシ・タシロク):ヤクザの若頭。刑事とも仲が悪いが仲が良い。世渡り上手。

・二十重審判(ハタエ・シンパン):ヤクザの組員。馬鹿だが真面目なヤクザ。若頭大好き。

・月下醜悪(ツキモト・シュウアク):『怪盗』。希少品の収集家ではあるが、非合法な手段はいくらでも使うし、それに抵抗は全くない。

・恋林一冊(コバヤシ・イッサ):『犯罪請負人』。神出鬼没な仕事人。


●アイテム紹介

・巻き込みバット:大法螺吹真実が作った百七十八の発明品の内の一つ。これで叩いた衝撃を叩いた対象に関連するモノに対し同時に同等の衝撃を伝えることができる不思議なバット。 関連範囲はある程度設定が可能。





●世界観(プロローグ)

「『正義』の反対とは、なんだと思う?」

「まぁ、そう面倒臭そうな顔をするなよ、助手君。ただの雑談さ。正解は無いし、あってはいけない」

「そうそう、一般的には『悪』と言われるよね」

「しかし、だ。どこかの研究者は言った。『正義』の反対はまた違う『正義』だと」

「あぁ、確かにそうかもしれない。私もその意見に概ね同意している」

「だが、」

「だがだよ。助手くん。ここで一つ疑問が出てくるだろう?そう――」

「――じゃあ、『悪』って何さ?」

 そんなことを僕の師匠、【全否定】こと大法螺吹真実(オオボラフキ・マナミ)は言っていた



 その翌日彼女は人類史上初、全てのノーベル賞を含む世界的賞七十九つを同時に受賞し、


 さらにその翌日に鋏で自分の首を切り落とし自殺した。





その日は、奇しくも僕の二十歳の誕生日だった。


********


 まぁ、死んだ人の話をしたところでどうということはない。単純に、僕の目の前の奴が悪だの何だのと言い張っているので師匠の言葉をふと思い出しただけだ。

もうかれこれ師匠が亡くなって十二年も経つというのに。


「正義にも、悪にもそれぞれルールがある。信用してくれ。問題は?」

「……いいや、無いですよ」

 師匠だったら、悪や正義がルールなどと、と笑い飛ばしているだろうが。

「交渉成立だな。他に必要なもんがあるなら多少は工面してやる。遠慮なく言え」

「ありがたいですね。なら早速」

 僕はタバコを一本取り出し咥えながら答えた。

「火をくれないか?」












*********


●第一章(語り部:僕)

時を遡ること二時間前。

事務所で居眠りをしていた僕を起こしてきたのは二人いる助手のうちの一人、上半身裸(ジョウハンシン・ハダカ)だった。

「先生、お客様ですよ。起きてください」

「んあ」

「十四時から依頼の予約があったのを覚えていますか?もう五分過ぎています」

「ああ……あぁ、そうだったな」

すっかり忘れていた。ソファーから起き上がりながら頭を搔く。寝起きに一服しようとタバコを取り出したが、ライターのオイルが切れていたのを思い出し仕方なくタバコを箱にまたしまった。

「誰だったっけか、今日の客は」

「忘れたんですか。今日はかなり大事なお客様ですよ」

裸は温かいコーヒーを僕の前に差し出してくれる。見事な手際だ。僕を起こす前から準備をしていたのだろう。こういうところが優秀なのだ。自覚はないようだが、彼女は二十歳を少し過ぎた若さでありながら僕なんかよりよっぽど気遣いができるし、観察眼もある。

頭が弱いところがたまにあるが、いやぁ、雇って良かった。

「裸君、客に優劣をつけてはいけない。規定の料金を払えば悪人だろうと大金持ちだろうと差別なく仕事を引き受けるのが僕たち『AG探偵事務所』だろ?」

試しにキメ顔で返事をしてみたが、返ってきたのは舌打ちだった。

「寝言をほざくとはまだ寝てますね?私先生にいつも言ってますよね?客は選んでください。ここは多くの仕事が舞い込んでくるのはとても素敵なんですが、時間は有限であり、体は一つしかないんです。だからちゃんと高い単価の仕事を受けるようお願いします。最近なんて街中の野良猫の死体の片付けとかいう割りに合わない仕事ばっかじゃないですか。私の給与が出なくなったら、私ここ辞めますからね」

「あっはいすいみません」

百倍で言い返してきた。

裸は言葉の暴力によって白目を剥いた僕に一瞥もくれず、冷蔵庫から缶ビールを取り出し一息で飲み干した。

僕の心はズタズタだが、ビジネススーツを着た長身の女性が缶ビールを一気飲みする姿は最高だったので差し引きプラスと考えよう。

しかし、裸に言われたことについてはぐうの根も出ない。確かにここの事務所に仕事は多く舞い込んでくる。だが万屋よろしく単価の低い仕事ばかりなのだ。そんな中少しでもマシな仕事を裸が選別し、僕に依頼として上げてきてくれる。感謝と反省の日々だ。

「プハッ!さて、私も気合が入ったところでお客様を呼びますよ。今日のお客様は――」

彼女は空になった缶を華麗に数メートル先のゴミ箱に放り入れ、長い髪を頭の後ろで束ねながら言葉を紡いだ。

「――警察の方々です」
















*********


●第二章(語り部:僕)

「ご協力をお願いしたい」

いきなり話を切り出してきたのは向かいのソファーに座っていた若い方の男だった。歳は二十歳半ばくらいだろう。髪は短く刈っており、指と同じ太さの眉が特徴的な男だ。面構えはどちらかと言うと強面であり、細身ながらも威圧感を感じさせる容姿と言える。真面目なのか、裸の出したコーヒーには一切手を付けなかった。

今回事務所に訪ねて来たのは二人。正面の強面の男は初対面ではあったが、もう一人一緒について来たのは五十代くらいのベテラン警部だ。面識は何度かある。普段はこのベテラン刑事の方が一人で来るのだが、今日は珍しく部下を連れて来たようだ。

「協力はしません」

僕がどの返事をするより早く、脇に立っていた裸は端的に答えた。

「ひえ?」

 びっくりしすぎて変な声出た。

「お客様、うちは慈善業社じゃないんですよ。報酬の発生しない『協力』はしません。もちろん、『依頼』なら受けます」

 裸の目は座っている。これ、多分本気で言ってるな。この子優秀だけど案外アホでケンカっ早いところがあるんだよなぁ。

「ええ〜?!いや駄目です!駄目ですよ!」

 男は分かりやすく動揺し、焦り出した。

「駄目ではないです。報酬はいくらですか?」

「お金を!?取るんですか?!!我々から????!こっちは警察ですよ?!!」

 いや待て。マジで金払う気無かったんかよ。

「わからないようですね。払う金が無いなら当然、我々は協力はしませんし、仕事も受けませんよ。たとえ、それがあなたご自慢の国家権力であろうとも」

いかん、だんだん裸が不機嫌になってきた。進行を任せたのは失敗だったかな。止めないとそろそろ限界か。

「佐佐々木ぃ、郷に入っては郷に従えって言葉を知らんのか」

僕が裸に一声かける前に一緒に話を聞いていたベテラン刑事の方が若い男を制止した。

逆巻順当(サカマキ・ジュントウ)、十年来の付き合いで僕がこの事務所を開いた頃からの付き合いの刑事だ。身長はそれほど高くなく、体型は肥満気味。くたびれたロングコートとハンチング帽を常に身につけているのは本人曰く「孫娘に褒めてもらったから」とのことだった。言動も見た目も古臭い昭和の刑事ではあるが、その培ってきた経験と勘でいくつもの事件を解決に導いてきた凄腕刑事でもある。ちなみに現在禁煙中で、目の前に置いてある灰皿に視線を何度か送っていたが最終的にそれを脇にどかしていた。

「しかし先輩、」

「お前は優秀だが融通が利かないのが良くないといつも言っているだろう。こいつらはな、『これ』で飯食ってるんだ。自分のであれ、他人のであれ、仕事に敬意を持てない奴はどこに行っても通用しねぇぞ」

「『敬意』ですか」

「覚えとけ、こういうところでの『敬意』は『金』だぞ」

逆巻さん良いこと言う。

僕が一言も発することなく事態が収まってしまった。

逆巻は興奮のあまりソファーから立ち上がりかけていた若い男を再び腰掛けさせ、裸に出されたコーヒーを一口飲んだ。

「さて、先生。うちの若いのが悪かったな。悪気はねぇんだが、どうも正義感が強くてな」

「いえ、十年前の逆巻さんそっくりですよ。懐かしいです。時が経つのはあっというものですね」

 俺は何か言おうとした裸を手で制しながら笑顔で答えた。絶対何か文句を言うつもりだったに違いない。その証拠に、行き場のない感情を飲み込んでしまったことで歪んだ裸の顔が横目で見て取れた。

「全く、お互い様だろ。その隣の彼女の方こそ、出会った頃のお前そっくりじゃねぇか」

「そんなはずはない。彼女は当時の僕なんかよりよっぽど優秀ですよ」

僕はソファーに腰掛けたまま笑って答える。そう言われた裸は少し気を良くしたのか逆巻さんに追加のコーヒーを出していた。逆巻さんの前に四つもコーヒーが並んでいるのは流石に異様な光景である。

「確かに、そうかもしれんな。当時のお前でも相場の五倍の値段はふっかけてこなかった」

逆巻はカップの下に挟まれた請求書を指で弾いて僕に返しながらコーヒーに口をつけていた。

「はは、それもそうですね。まぁでも、逆巻さんならちゃんと払ってくれるから内容を聞いてからでいいですよ」

「そいつぁありがたいね。佐佐々木、お前もちゃんと礼をしろ」

「ぐっ……あ、ありがとうございます!」

少し嫌そうな顔をしていたが、若い方の男が頭を下げてきた。それを見て裸も満足そうな顔をしている。少し時間を使い過ぎたが、無事本題に移れそうだ。


















***********

●第三章(語り部:上半身裸)

「『巻き込みバット』って知っているか?」

 逆巻さんは胸ポケットから取り出した手帳のページをめくりながら先生に尋ねた。

「巻き込みバット?うーんと……あぁ、アレか。ってことはやはり今回も師匠がらみの案件なんですね」

「そうだ。稀代の天才、大法螺吹真実の作った百七十八の発明品のうちの一つ、『巻き込みバット』が人ノ森博物館から盗まれた。四日前のことだ」

 人ノ森博物館といえば、確か大法螺吹真実の発明品が四種ほど保管してあったはずだ。そのどれもがとんでもない代物の筈だが。

「うーん、別にアレなら放っておけばいいんじゃないですか?」

「バカ言うな。もう十六人も犠牲者が出ているんだぞ。俺たち警察は曲がりなりにも市民の味方なんだ。彼らに危害が及ぶものを野放しにはできない。」

「あぁ〜、なるほど、それは、まぁ、確かにそうですね」

 先生は一瞬だけ困ったような顔をしたが、すぐに表情を隠しそれ以上は反論しなかった。

「犯人の目星はついているんですか?」

「なんとなくはな。保管場所から考えるとそこに侵入できる人物はかなり限定される。が、それが絞れれば苦労はねぇ。だからこそあんたらに依頼に来たんだ」

「なるほどね。確かにあの博物館は警察では手出しができないですもんね。治外法権と言えば聞こえはいいが、実態は現代の技術では再現できない超技術の闇市。生半可な人間じゃあ、門をくぐることすら許されないし、国家権力ですらその前には無力だ。まぁ、逆を言うと逆巻さんの言う通りそんなところに侵入できる人物というのはかなり限定されるはずなんだが」

「その通り。だがしかし問題はそこからなんだ」

「何か問題でも?」

「犯行日、そもそもそこに侵入した人物がいない。いや、そもそもその日は建物自体が閉鎖されていたんだ」

「警備員とかの仕業ってことですか?」

「いや、あそこに警備員はいない。必要ないからな。あの建物は閉館になると物理的に侵入不可能になるんだ」

「物理的に?全部の入り口が封鎖される感じですか?」

「半分正解。密閉されるだけでなく、中が毒ガスで満たされる」

「うっわ……悪趣味にもほどがある」

 先生は頭を抱え溜息をついた。

「全くだ。しかしだ、そんな場所でも入れるやつはいる。どういうわけかな」

「……物理的に入れないんじゃないんですか?」

「知るか。結果から見ると入れているんだから仕方ないだろ」

「なるほど」

 いや?何がなるほどなんですか先生?

「まぁ、それもそうですね。密室殺人には必ず犯人がいる、というのと同じことですもんね。結果的に無くなっているのならその過程に誰かの介入があったということだ。となると、その入ったとされる人物とは?」

 先生からの質問に対し逆巻さんは懐から一枚の写真を出してコーヒーの隣に見えるように置いた。

「正直特定まではできてねぇ。だが、容疑者はたった二名だ。一人はお前もよく知っているはず。指定暴力団十四組の若頭、十四足六。数年前から大法螺吹の発明品収集に力を入れ始めて、今では非公式ながら三つ所持している筈だ。それらを使えば、おそらく侵入は可能だろう」

「あらすごい。三つも」

思わず口を挟んでしまった。確かあの人の発明品は安く見積もっても数億はくだらないから……だいたい十億くらいかぁ。さすが関東一の暴力団。大した資金力だ。

「十四組ですか。確かに少し厄介ですね。逆巻さん程度では捜査すらさせてもらえないビッグネームだ」

「まぁ、残念ながらその通りなんだよ。あいつらに関しては俺が変に動けば良くて左遷、悪けりゃ殉職だ。手出しができねぇ」

「だからうちに来た、ということですか?」

「ご明察。不躾な願いとなってしまうが、俺たちの代わりに調査をお願いしたい」

「そんな心配しなくともお仕事してなら当然受けますよ。ところで、さっき言っていたそのもう一人、というのは一体誰なんです?」

「少し言いづらいんだが、残念ながらもう一人は名前がわかっていない。しかしそいつは意外と有名人でな、警察(うち)の間ではこう呼ばれている」


「『怪盗』、と」




















******

●第四章(語り部:上半身裸)

「いいんですか?この依頼を受けるので」

 二人が帰った後、先生はソファーの背にもたれながら天井を仰ぎ、深い、本当に深いため息をついた。

 表情には出していなかったが、この仕事を受けたのは相当悩んだ上での決断だったのだろう。

「正直な話」

 師匠は天井を仰ぎながら言葉を続けた。

「事件自体には全然興味ないんだ、僕は。でもさ、師匠のモノで逆巻さんに何かあるのが嫌だし、それに既に十六人程死人が出ているらしいしね。色々要素がありすぎて受けないわけにもいかなくなった、というのが今の状況かな」

私は「ふーん」と返事しながら二人に出していたコーヒーを片付ける。

あの若い奴め、一口も口をつけなかったな。

今回の依頼報酬はかなり低めだ。逆巻刑事のポケットマネーから出ているらしいので当然と言えば当然だが。しかしそれを受ける先生も先生だ。さっきあれ程高い報酬の依頼を受けるよう釘を刺したのに。この中から諸経費を引くと残りいくらぐらいになってしまうだろうか。考えるだけで二日酔いでもないのに頭が痛くなる。


実のところ、私も『巻き込みバット』自体にはそこまで興味はない。しかし、先生が受け持つ仕事自体には興味がある。稀代の大天才、大法螺吹真実の助手であった先生は凡人ではあるが、決して愚かな人ではない。こんなリスクだらけの依頼を、この程度の額で受けるのは通常ならあり得ない。何かしらの意図はあるのだろうが、私にはそれがわからなかった。

「そんな危険なものなんですか?その『巻き込みバット』というものは」

 本当はその意図を教えて欲しかったが、先生は自分で整理できていないことを言語化するのは苦手なのを知っているのでそこは潔く諦める。さりげなく話題を逸らしながら冷蔵庫からビールを取り出し、一飲み。アルコールを取り込むことで昂った気持ちを少し落ち着かせる。私は仕事に対して少しやる気が出すぎる気がある。昂りすぎて喧嘩腰になったことを何度か先生に窘められたこともある。落ち着け落ち着け。

「いや?そもそもな話だよ、どんな道具でも使い手次第でいくらでも危険になるさ」

「それは屁理屈というものですよ」

「本心さ。今までいくらでも見てきた」

 嘘ではない。はぐらかしているわけでもないのだろう。

先生は師匠の自害現場を見ている。凶器は、何の変哲も無い鋏だった。先生があらゆる道具について危険意識を持つきっかけになる事件だったと聞いたことはある。

声は笑っていたが、果たして先生はどんな表情をしていたのだろうか。背を向けて食器を洗い始めていた私には知る由もなかった。

「先生がそういうなら今はそれ以上その屁理屈については追求しませんが、私も命は惜しいんですよ。見た目や特徴くらいは教えてくださいよ」

 雑念を胸の奥にしまい込み、私は話を元に戻した。

食器洗いを終え、手をタオルで拭く。残り半分ほどとなった缶ビールを持ちながら先生のいる事務所に戻ったが、先生はまだソファーに座り込んだままだった。

声を掛けると、天を仰いでいた先生は顔を起こし、私の方に視線を投げた。

「確かに、それもそうだね」

 空中に指で円を回しながら口を開く。

「ん〜でもまぁ、見た目に特徴というのはあんまなくてね。普通のバットなんだよバット。ただの金属バットさ。確か色は……黒だったかな?」

「見た目は普通のバットですか。それはつまりそこら辺の野球少年が持っていてもわからない、ということですか?」

「まぁ、そうなるね。違いがあるとすれば今の所有者がボールを叩いてるか、人の頭を叩いてるかの違いだね。人の頭を野球ボールと勘違いしているバリー・ボンズ気取りのバカが持っている限りしばらく死傷者は増えるだろうさ」

 困ったことにね、と先生は言葉を続けた。

「ということはやっぱり今回のは危険な依頼になりますね。危険手当も請求しておきましょう」

 私は手帳から請求書を一枚用意して金額を書き込んだ。

「まぁ、ちげぇねぇ。こんなしちめんどくさい仕事なんて放っておいてバカンスにでも行きたいよ。まぁ、犯人にはマリアナ海溝にでもバカンスに行ってもらうとするか」

「あ、残念ながらですが先生のバカンスはまだまだ先ですよ」

「え?」

「今日はもう一組お客様がいますので」

「えぇ……」

 露骨に嫌そうな顔をするな。

「やめておきますか?」

「うーん、うーん、いや、そうもいかんか。ちなみに、どちら様かはわかるかい?」

「少しお待ちください」

私は依頼者の資料に目を通しながらある単語を見つけ、少し言葉に窮した。

「正直、三秒前までは私もあまり興味はなかったのですが、前言撤回させていただきますね」

「へぇ?逆巻さん達より興味を持てる依頼主なんているのか?」

「少なくともお話は聞いておきたくなるかと思いますよ」


「次のお客様は、十四足六様です」








************

●第五章(語り部:僕)


「何度か仕事の依頼はさせてもらっているはずだが、会うのは初めてだったかな?俺のことは知っているかい?」

「えぇ、こう見えてもしっかり仕事をするタイプですので。お客様としても標的としても存じてますよ」

「はは、面白いやつだ。だからこそお前に依頼しにきたんだ」

 満面の笑顔と堂々とした態度で入ってきたのは色眼鏡をつけた真っ赤なスーツの男だった。十四足六。指定暴力団十四組の若頭。二年前に若頭として就任し、解体寸前だった十四組を立て直した敏腕ヤクザとして有名である。その手腕で師匠の発明品を複数手に入れているとの噂だが、どこまでが本当なんだか。

「おっとすまんすまん。幾ら何でも挨拶無しはないよな。ご存知の通り、十四足六(ジュウシ・タシロク)という。職業はまぁ、そうだな、公共の敵をやっている」

洒落た言い方しやがって。

「あーで、こいつは俺の舎弟、名は二十重審判(ハタエ・シンパン)という」

「うっす!よろしくお願いいします!自分、昔から大法螺吹さんのファンでして!その一番弟子であるあなたに会うのを楽しみにしてました!光栄です!」

 二メートル近い身長、二百キロ近い体重。見るからに肉体派だ。おそらく舎弟兼用心棒ということだろう。仁王像の如く直立不動を維持していた。

「依頼の内容は、まぁ、さっきまで話してた相手がいるもんな?わかっているな?」

 促される前にソファーに座り込んだ足六は眼鏡を少しだけずらしながらこちらの顔を覗き込んでくる。こいつ、逆巻さんが来ていたことも知っているのか。

「残念ながらなんのことやら」

「二十重」

 いつの間にか出されていたコーヒーを一飲みし、めんどくさそうに足六は二十重に催促をする。それを聞いた二十重は懐から分厚い封筒を出し、十四の飲んでいたコーヒーカップの下に置いた。

「悪いが、コーヒーのおかわりをお願いできるかい?」

彼は空になったカップを封筒ごと前に出しながら言葉を続けた。

「生憎、俺は甘党でな。砂糖を多めに入れて欲しいんだ。おたくにある砂糖では量が足りないだろうからこいつで買い足してくれ」

さらに封筒がテーブルの上に置かれた。さっきより分厚い。

 見るからに裸が動揺している。しきりに僕の方を見てこれらの封筒をどう扱えばいいか判断を仰いでくる。金の暴力か。

「……わかったよ、おかわりを飲みながら最初から話そうか」

 小さなため息を漏らしつつ、僕は裸に新しいコーヒーを出すよう伝えた。

 それを聞くと裸はスキップをしながら封筒とともにキッチンに消えていった。現金なやつだ。

「さて、だ」

 足六は言葉を紡いだ。

「『巻き込みバット』は、知ってるな?そいつが何者かに盗まれたって話だ。まぁ、それに関して俺個人は特に興味ないんだが、問題はそいつでうちの組員が十六人、殺られているって事だね。『巻き込みバット』の特性上、それはマズい。近いうちにうちの組が全滅する可能性まである」

 確かに、たかだか下っ端の構成員を叩くのを目的として『巻き込みバット』を使うとは考えづらい。

「つまり、あなたが狙われているってことか」

「別に俺を狙うのは構わんさ。こんな商売をしているんだ。それなりの用意もしているしその覚悟もある。最悪俺が消されたところで次のやつが頭をはればいいだけだ、というのが俺の考えだ」

 珍しく柔軟な発想だ。十四組がこの男のおかげで急成長したという噂は嘘ではないようだ。

「だがしかしだ。今回は俺個人ではなく組全体の問題だからな。早急に解決せねばなくなった。で、タチが悪いことにサツの奴らは俺たちが『巻き込みバット』を盗ったと疑ってやがるから下手な動きも取れない」

「今回の件については十四組は関与してないと?」

「ああ、そうだ。なんでうちがあんなポンコツ発明品を盗らないといけないんだ。あれだけ存在する大法螺吹の発明品の中であれを選ぶ奴はどうかしている」

 それもそうかもしれない。

「結局、十四組さんとしては僕らにどこまでやって欲しいんですか?」

「話が早いな。俺たちは『巻き込みバット』自体に興味はねぇ。欲しいのはロビンフッドよろしく俺たちを嵌めやがった犯人の首から上だけだ。報酬は言い値でいいし、なんだったら『巻き込みバット』自体もくれてやる。面子さえ、俺たちにくれればな。正直、現段階では担保として渡せるものは無い。が、正義にも、悪にもそれぞれルールがある。信用してほしい。問題は?」

 いいや全く、とだけ返事し依頼を受諾した。

「誤解しないで欲しいんだが、僕たちはカタギだから殺しなんてしないですからね。犯人の身柄は首から下も含めて譲りますよ。まぁ、その後は知ったこっちゃないがね」

「交渉成立だな。他に必要なもんがあるなら多少は工面してやる。遠慮なく言え」

「ありがたいですね。なら早速」

 僕はタバコを一本取り出し咥えながら答えた。

「火をくれないか?」











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●第六章(語り部:上半身裸)

 二人が退室した後、私はタバコの一本目を吸い終えた先生に声をかけた。

「先生、今更ですがひとつ聞いていいですか?」

「何だ?」

「みんなが言ってる『巻き込みバット』の特性って結局何なんですか?【人類史を変えうる大法螺吹真実の百七十八の発明品】のうちの一つってことは何かこう、とんでもないものなんですよね?」

小声で、まぁ先生の師匠が作ったものですからロクでもないものなんでしょうが、とも付け加えた。

「あぁ、そういえば言ってなかったな。確かに、ロクでもないものには間違いはない」

 やっべ。聞こえてた。

「裸はさ、縁結びとかって信じるタイプか?」

「縁結びですか?いいえ、もちろん信じていませんが」

「だろうね。いや、それが悪いとかそう言うことじゃなくてだね。師匠もさ、全くもってそういう事柄を信じてはいなかったんだ」

「いなかった?」

「その通り。信じていなかったが故に、それの存在を証明したんだ」

あの人の本質は科学者だからね、とも言っていた。

「結果、『縁』を科学的に証明され作られたのが『巻き込みバット』ということになる」

「全然意味がわかりませんが」

「こう、僕もイマイチ原理がわかんないんだけどアレは名前の通り、『関係あるもの全部を巻き込む』という特性があるんだ」

「……どういうことですか?もっとわかりやすく」

「さっき十四が言ってただろ。十六人殺られてるって。多分実際に襲われたのは一人か二人。残りはおそらく直接はやられていないはずだ」

「直接は……?」

「『巻き込みバット』の特性その一、叩いたものに関係あるものに対して同時に作用する。つまり――」

「つまり、一人を殴れば二人殴れる?」

「正解。正確に言えば、それは有機物も無機物も関係なく『縁』のあるものなら何でも巻き込む。もちろんそれらの調整はある程度できるらしいが」

 そうでないと際限なく作用してしまうからな、と付け加えてた。

「つまり、犯人は十四組の関係者一人を狙い、闇討ちすれば実質的に他の組の関係者を全員殴り殺せる、ということですか」

「極論ではあるが、その通りだ。まぁだが、それはあくまで犯人の目的が十四組なら、という話。もし犯人がこの世に恨みを持つような人物だった場合、」

「全人類が殺されかねない」

 少しだけ、背筋に冷や汗をかいた。先生が軽く言う割にはとんでもない発明品じゃないか。

「まぁ、そんなところだ。あくまで理屈上の話ではあるがな。現実にはほぼ不可能だ」

「そういうものですか」

「そもそも、そういうための道具ではないからな。もし師匠がそのつもりで作るならもっととんでもないもの作ってるだろうよ」

「考えるだけでも恐ろしいですね。でも、何でそういうものを作らなかったのでしょう?」

「決まってる。師匠はあぁ見えて人間のことが大好きなんだよ」

 彼女の思想は常に争いから程遠いものものだったよ、と続けながら先生は新しいタバコを取り出し火をつけた。煙を一息吸ってゆっくりと吐き出す。

「言ったろ。どんな道具も使い手次第ってさ」

 いやまぁ、確かにそうですけども。

「ところで、先生。どうやって犯人を探します?心当たりはあるんですか?」

「心配するな。正直、無いわけではない。逆巻さんが『怪盗』って言ってただろう?あまり大っぴらには言えないが面識がある」

「え」

 先生は悪びれもなく答えた。よく平然とあの状況で話せたな。

「この仕事してて綺麗な人間関係だけを持っている訳ないだろ。早く出かける用意しろ」

先生が倉庫内の荷物の整理を終え、コートを羽織り始めた。

「今からですか?」

「そうだよ。間に合わなくなったら困るだろ?」

「え、そんなに遠いんですか?」

「うんにゃ、隣りの喫茶店だよ」

「隣?」

「そこのマスターだ」

















*******

●第七章(語り部:上半身裸)

「『巻き込みバット』を持っているのは私ではないな」

 注文の品を運んで来た男が嫌そうに答えた。

うちの事務所の隣に立つビルの一階に位置する喫茶店『曇った瞳』。そこを訪れた私たちを迎えてくれたのは細身で長身のマスター、月下醜悪(ツキモト・シュウアク)だった。

小さな丸眼鏡を携え、顎の無精髭が特徴の紳士風の男だ。

「やっぱそうですよね?あなたがアレの価値をわからないはずないですよね?」

 先生は注文したコーヒーを受け取りながら話を続けた。入店早々、他の客が一人もいないことをいいことに大声で『怪盗』を呼びつけると、二人分の注文と一緒に『巻き込みバット』の行方を尋ねた。返事はある程度予想はしていたものだったようで、特に驚くそぶりも無い。

「あんなものを欲しがる奴は相当頭がいかれてるか目が曇ってるかのどちらかであろう」

「まぁ確かに。アレは師匠の発明品の中でもかなり異質だからなぁ」

「逆を言うとその程度の価値もわからんやつが盗ったんだ。余程の愚か者か、狂人だろうよ」

「何か知ってることはあります?」

「何故たかだかコーヒー2杯しか注文しないお客にそこまでサービスをしなければいけないのかね?」

「では私はこのデラックスハイシュークリームパフェを」

 よかった。ちょうどお腹が空いていたのだ。

「いやすまないそう言う意味じゃなくてだな。私は君たちと協力関係でもないしこの一件メリットが何もないんだ。つまり、私はこの件には関わらないし関わりたくない」

「事なかれ主義め」

「平和主義と言いたまえ」

「でも警察はあなたを容疑者として挙げていますよ」

「え、なぜだね????」

「あなたは盗るのが上手すぎる。証拠を残さないが故に、疑われるんだ」

「褒めすぎだ」

「褒めてねぇー」

 でももし情報提供してくれれば相応の対価と警察への口利きはしてもいいですよ、と先生は言った。

「そんなものは必要ない。私は私が動きたいように動く。交渉も指図も必要としていない。だがしかし、だ。賞賛の言葉は素直に受け取る器量はあるのでね、仕方ないな、リップサービスには乗ってやろう」

 マスターは手際よく私のデラックスハイシュークリームパフェを出しながら、言葉を続けた。

「今回の犯人についてだが、ヒントならあげてもいい」

「ヒント?」

「そう、ヒントだ。次の事件現場について、だな。大方予想しているとは思うが、犯人の狙いは十四組だ。もちろん若頭である足六君も狙われている。というよりそこが本命な気はするがまぁ、それは置いといて、だ。普通の輩ではバチバチに警戒している十四組の事務所なんかに近づくことはできない。なんだかんだで十四組は武闘派組織だ。例え下っ端であろうとも喧嘩は強いし武器も持っている。じゃあ、犯人が狙う状況はどんな場合か」

犯人が『巻き込みバット』を持っている以上、十四組の組員さえ襲える範囲にいればいい。つまり――

「カタギと十四組が関わりあってもおかしくない場所を、狙うということで合ってますか?」

「お嬢さん、ちゃんと自分で考えるとはえらいじゃないか。その通りだよ。で?ヤクザとカタギが交流を持つ場所とはどこかわかるかな?」

「……シノギの場所?」

「Bravo!ご明察だよお嬢さん。ご褒美にパフェの代金もサービスしてあげよう」

 マスターは満面の笑みで拍手をしてくれた。パフェ代も浮いた。嬉しい。

「さて、冗談はさておきだよ」

 待って。冗談だったんかい。

「明日の十七時頃、七丁目の裏カジノが一ヶ月ぶりに営業する。十四組の息のかかったカジノだ。君がもし犯人なら、どういう行動をするかな?……っと、少し喋り過ぎてしまったな。私の出せるヒントはここまでだ。あとは自分たちで考えたまえ」

 先生は話を聞き終えた後に頭をひねり二、三回唸ってから返事をした。

「それもそうですね。世話になった」

「いえいえ、サービスしたのはパフェ代だけですので」

そう言ってマスターは領収書を私に渡してきた。

「情報の正規料金ですよ」

 コーヒー二杯だけにしては恐ろしい値段だった。よく読むと殴り書きで『情報代』とも書かれ、隣にはアホなような数字が書き込まれている。

「領収書の宛名は『逆巻順当』でお願いします」

私は一切一瞬の躊躇なく逆巻さんにツケ、領収書を受け取って先生とともに店を後にした。















*****

●第?章(語り部:???)


爽快だ。

リスクを犯すことなく悪人を殴ることがこれほど楽しいとは。

最近やっと『これ』に使い方にも慣れてきた。人で練習すると大ごとになってしまうから動物で練習していた成果がやっと出た感じだ。

この街の野良猫はそこらへんでのたれ死んでても誰も何も言うまい。練習し放題だ。

ましてや、本番において街のゴミ共が死んだら逆に喜ばれるだろう。

あぁ、なんて私はえらいんだ。


そして明日はついに運命の日だ。ノコノコとやって来たあいつらの不意を突くことはそこまで難しくはないだろう。一撃で仕留めて、この街のゴミ共を根絶やしにしてくれる。












********

●第八章(語り部:上半身裸)

最悪だ。最悪だ。

もう一度言う。最悪だ。

私たちの事務所のあるビル街から地下鉄で二駅。オフィス街の端の端、地下に降りた階段の先にそのカジノはあった。

端的に言えば、酷い場所だった。扉を開けてすぐむせ返るような金と、暴力と、性の匂い。

 ホールの真ん中の高台ではほぼ全裸の女性が踊り狂い、それに対して呑んだくれた男達がチップを投げる。賭け事をやっている連中も勝負に一喜一憂し、時折泣き叫ぶ輩が黒服の男達に引きずられて扉の向こうに消えて行った。

「ふむ、思った以上にすごい場所だね」

 先生はタバコに火をつけながらホールを見回す。私は近づいて来た女性スタッフにチップを渡しながら飲み物を受け取った。

「裸くんそれ、飲むなよ」

 私が一口飲む前に先生が私を引き止めた。

「微量だが薬が入っているぞ」

 嘘でしょ。怖。

「ここが『裏』と呼ばれるのは公的に届け出てないからって理由だけなわけじゃないことを覚えときなさい」

 タバコは咥えているが吸っているわけではない。先生が少し緊張している証拠だ。

「あら、見ない顔ね」

フロアの中央まで進むと早速艶かしい姿の女性が声をかけてきた。カジノの場に似つかわしい露出が激しく派手な服装で、手にはカードとチップを数枚持っている。そして首には十四組の組員の証、家紋のペンダントを下げていた。

おそらくディーラーの一人ではあるのだろう。しかし、その性的な姿からそれ以外の仕事もしていそうだ。

「おにーさんもやる?」

「結構です。先生はそういうの、やりませんので」

「やだぁ、彼女さんに怒られちゃった」

「彼女ではありません。私と先生はこう、こう、……こう、もっと低俗な関係です」

「お前何言ってるんだ」

「事実ですが何か?」

「黙ってなさい。それより、客の中にいそうか?」

 先生は女性を手で払い、離れたのちに私に確認を取り始めた。渋々ながら答える。

「今見た感じはいなさそうですね。バットの入る大きさの荷物を持っている人物も、敵意を内に秘めてそうな人物も」

 パッと周囲を見渡しながらめぼしい人物に焦点を当てる。どいつもこいつもやばい人物ではあるが、危険な気配は感じない。いや、正確にはその気配を察知できない。完全にこの場の空気に紛れてしまっているのだ。

「となると客じゃなく従業員を疑うべきか……?」

「断定はできませんが、現状ではそうですね。見た感じ、十四組の組員だけでなく雇われバイトのような輩もいますし。木を隠すなら海の中。砕いて潰して魚に食わせれば見つかりません。人も同じです。どんな異質な人物も一つの社会の中に混ぜてしまえば個という単位は消えて無くなったも同然」

「全然よくわからないけど雰囲気は伝わった」

「さすが先生。私の一番の理解者ですね」

「当たり前だろ。僕は君の上司なのだからね。まぁ、だが実際、従業員に紛れてるとなると特定が難しいな。警護用に長物持ってる奴も結構いるしなぁ」

「そうでしょうか?」

「え、わかるの?」

「わかるわけではないですが、全員しらみつぶしに殴っていけばいいんじゃあ、ないですか?」

「いつも思うんだけど君、物騒過ぎない?」

「ドサクサに紛れて襲われる可能性もあるので、先生も一回くらいは殴られる覚悟しておいてくださいね」

「えぇ……」

小さく嘘だろ、と呟く先生でしたが、最後まで『やめろ』とは言わなかった。

*************


●第九章(語り部:僕)

「では早速、そこにいるボーイから行きましょうか」

「おいこら待て待て」

「止めないでください。もう私の手は血の味を求めているんです」

「今自分のお腹は寿司の味なんです、みたいな表現をするんじゃない」

 逸る裸の肩を抑え、耳元に小声で伝える。

「よく考えろ。仮にだ。この中に犯人がいるとしよう。今一番避けたいことはなんだと思う?」

「今一番避けたいこと?」

 裸は少しだけ落ち着きを取り戻し、黙り込んだ。考えているんだろうけど多分イマイチわかってないんだろうなぁ。

「……自分の正体がバレることですか?」

「そうだね。その通りだ。では、なぜバレることを恐れる?」

「……なんでって??????????」

あ、もうダメだ。オーバーヒートした。

「まず、犯人が持っているのは『巻き込みバット』だろ?そして、今までのやり方から考えると、闇討ちができる。そこはわかるね?」

裸は無言で頷く。眉毛がハの字になり必死に考えているのが見て取れた。頑張れ。

「つまり、人に見られずに事件を起こせる以上、人目のあるところで行動するのはただのリスクなんだよ。となると、こんな騒がしいところでは行動をするわけがない。ここで行うことは」

「獲物の物色?」

「その通り。手頃な獲物が一人になりそうな所を物色するわけだ。だがしかし、このホールの中に人一人が孤立しそうな場所はあるかな?」

 裸は少しの間だけホールに目を配り、しばらく考え込んだ。

「トイレ、というのはなさそうですね。おそらく取り立てを逃れようとする輩がいるんでしょう。複数のガードが常に見張っています」

「そうだね。となれば?」

「他に一人になれる場所、となると裏方……ですかね?厨房とかは人が居そうだし、休憩室とか、ですか?」

「なるほど。確かにね」

 僕は裸に合図を送り、喧騒渦巻くホールを一周していく。裸は慌てて僕の後ろからついてきた。

 しばらく移動して、元の位置に戻ってきたが僕は歩みを止めずカジノの出口へ向かった。

「え、あれ、先生?!」

 困惑する裸に対して、黙ってついてこい、とだけ合図し出口の階段をのぼる。

外に出るとすでに日は沈みかけ、暗くなってきた所だった。人通りは少ない。

「さっきの考え方、いいところをついているね。だが、さっき一通りカジノ内を回ってわかっただろう。休憩室なんて足のつきそうな所では騒ぎは起こしたいか?」

「た、確かに嫌ですね」

 裏路地の方へ足を進めながら、僕は裸に解説を続けた。

「そう、犯人は足がつくことを強く嫌っているはずだ。でなければ『巻き込みバット』なんて使わないだろう。ならばこうも考えるだろう。『犯人を絞りにくくすれば捜査の撹乱になるんじゃないか』とも。そうなると、だ。さっきのカジノ内のような特定の属性の人物しか存在しないような場所での犯行は避けるだろう。しかし、それでもどこかで接触はしなければいけない」

最初の一人目を襲うためにね、と付け加えた。

「となると、この周辺でそういう条件が成立する場所が一箇所だけあるのを知っているかい?」

「ど、どこですか?」

 僕は足を止め、咥えていたタバコを地面に吐き捨てて大げさに手を広げた。

「ここだよ」

 この裏路地のゴミ捨て場だ。


 そして僕の予想通り、そこにはフードをかぶって待機していた人物が一人いた。

********

●第十章(語り部:僕)

「そこの人、こんなところで野球の練習かい?」

僕はその人物に声をかけた。フードに隠れ顔は見えない。

「……十四組の関係者か?」

「いいや?嬉しいことにね。あんな連中とは関わらない方が身のためだぞ」

舌打ちが聞こえた。

「十四組じゃなかったら不都合なことがあったのかな?」

「いや、やることが一つ増えただけだ。気にするな」

その人物は短いため息の後、持っていた長ものを布を解いた。中から黒く長い棒らしきものが姿を現す。

『巻き込みバット』だ。

「これも一つの縁だよ」

そう言ってその人物は数メートルあった間合いを一気に詰め、バットを振り抜いた。


しかし当たる直前、僕の視界には地面が瞬時に近づき、目の前で止まった。

頭めがけて振り抜かれたバットを避けるために裸が僕を地面近くまで引き込んでいたのに気付くのには数瞬かかった。

「先生、危ないですよ。出しゃばらないでくださいね」

裸は僕の襟を引っ張り後方に投げやる。盛大に地面の上を一回転しながら僕は致死圏から退避することに成功した。

「人とボールの違いもわからずにバットを振るなんて野球の才能ないんじゃないのか?欲しければボールを恵んでやってもいいぞ?」

僕の安全を確認したのちに、その人物から少し離れた裸は皮肉を言った。

「残念だけどスポーツのルールなんて知らないんだ。ボールも頭も同じだろ?」

 その人物は先ほどのスイングの勢いでフードが外れていた。現れた素顔は意外にも見たことのある顔で、先ほどカジノ内で裸に薬物入りのドリンクを渡してきた女性スタッフだった。彼女はカジノ内で見せていた接客用の笑みとは違う狂気を孕んだ表情で空ぶった『巻き込みバット』を肩に担ぐが、追撃を仕掛けてくることもなくその場でパーカーを脱ぎ全身を露わにしただけだった。

「三流選手のセリフだな」

 裸も彼女に合わせ、外出のためにセットしていた髪を解き、後ろで束ねた。裸が荒事をする合図、所謂戦闘態勢だ。スーツのジャケットも脱ぎ捨て、両手には革製の手袋をはめて握りを確認する。

「いつも足を引っ張るのは選手ですらない奴って相場は決まっているんだ」

 パーカーを脱いだ彼女はバットを裸に向け言った。

「だから邪魔すんなよ」

















***********

●第十一章(語り部:上半身裸)

「悪いが、理由だけでも聞けないかな?」

 私が構えを取った直後、先生は服についた汚れを払い、立ち上がりながら女に問いかけた。

「君は何故十四組を狙っているんだい?いや、少し違うな。何故あんな連中を狙うために『それ』を使っているんだい?君の意思によるものか他人による指図なのかどうか、というところが知りたいんだけどね」

「そんなこと、話すと思っているのか?」

「いいや?だから力ずくでいいよね?という確認だよ」

 先生は笑っていたが、とても不機嫌そうだった。タバコを取り出し火を付ける。深く一息を吸い込み、上を向いて吐き出す。再び彼女の方を見た先生は落ち着きを取り戻してはいたが、額に刻まれた皺は消えることはなかった。

「あぁ、そうだ。忘れてた。先に名乗るべきだったね。僕はAG探偵事務所の所長、三行半三下(ミクダリハン・サンシタ)だ。別に覚えなくていいぞ、どうせ偽名だ。こちらは僕の助手の上半身裸。流石にもうわかっていると思うが、僕たちは君の持つ『それ』を回収しに来た。凡人には過ぎた代物だ。返してもらおう」

「聞いたことない名だな、凡人。結局これはお前にも過ぎた代物ってことだろ?」

「君よりは適正はあるさ」

「私には適正はないかもしれないけど経験はあるんだよ。知ってるか?一番大切なのは実際に使用して経験することなんだぜ?」

「間違った使い方を経験とは言わないよ」

先生の目が座っている。

「ちなみに、お前が私の相手をしてくれるのか?」

「いいや、僕は非戦闘員だ。裸、頼まれてくれるか?」

「言われずとも」

 先生の頼みに対して間髪入れずに返事。いつでも、どこでも先生のためなら私は臨戦態勢になれる。

「へぇ、ボディーガードはお前の方か。まぁ、関係者とわかった以上は関係ないな。まとめて打ち抜いてやるよ」

「調子に乗るな。お前は先生を傷つけることはできないし、そんな心配をしている場合じゃあ、ない」

私は拳を前に構えた。

「お前は今から私とダンスを踊るんだ。曲目は『il vento d'oro』だぞ」

「ふん、聴いた事ないな。さぞかし悲哀に満ちた曲なんだろうな」

「さっきからわからない、わからないと、そればかりじゃないか。学が無いのは見た目通りだ――」

言い終わりを待たず無言で振り下ろされた『巻き込みバット』が目の前に迫った。完全に私の脳天に叩き込むつもりで振り下ろされたものに違いない。

しかし遅い。バットの側面に腕を添え、力を全て受け流す。地面に追突したバットの衝撃で地面にヒビが入った。

「踊るのが上手じゃないか」

「そっちこそ、しっかり踊れよ」

その言葉を女に届けると同時だった。硬く、硬く握りこまれた拳を腹に二発叩き込んでやった。

衝撃で女の体が数瞬宙に浮く。

「おっっごっ!!」

手応えはあったが、不十分。思った以上に頑丈なやつだ。女は血を吐き出しながらも、膝をつかずに後方に下がった。

「っゲェ、流石に腐ってもボディーガードか」

「ちっ。お前も、ただの愉快犯ではないようだな」

自分の左腕を見る。前腕が腫れ上がってしまっていた。先ほど私が殴った際に反撃を入れられていたのだ。悔しいことに油断してた。折れてはいないが流石に少し痛い。念の為左手を開いたり握ったりして動きを確かめる。

「この程度なら問題ない」

「バカだなお前。私が持ってる『これ』のこと知っているんだろ?お前はそうかもしれんが、後ろの男はどうかな?」

 しまった。

 慌てて後ろを振り返る。そこに先生は立っていた。

その大きく腫れ上がった左腕を抱えながら。

***********

●第十二章(語り部:恋林一冊)

「『巻き込みバット』によって伝達される威力は全く同じ。つまり、お前にとっては少し痛い程度だろうと後ろのあの男にとっては随分と効いたようだな」

とっさの反撃ではあったが、生半可な威力ではなかったはずだ。

「先生!」

黒髪の女が後方の男に駆け寄った。男の左腕は服の上からでもわかるくらい大きく腫れ上がっている。確実に折ってやった。

が、しかし、あの三下とかいう男は、仁王立ちしたまま一歩も動いていなかった。

いやいやおかしいだろ。普通なら痛みで叫び声、もしくは呻き声でも上げているところだ。それを膝すらもつかずに耐えただと?こちとら二発もあの女の拳を受けたのに割りに合わないじゃないか。

「裸、見たな?あれが本物だ。殴った対象に関連あるものを一振りで同時に叩く。そんな自然の摂理から外れた代物が師匠の発明品だ」

男はタバコを咥えたまま笑顔で続けた。

「最高だろ?」

「そうですね!……じゃないです!」

女の方が男の顔面を殴る。男は無言で笑顔のまま仰向けで倒れこんだ。

嘘でしょ。

「邪魔なので少し寝ててください!」

黒髪の女は男が気絶したのを確認すると私に向き直る。

「お前!!よくも先生を!!!!!」

「いや待てや!!やったのはお前だろ!」

「問答無用だ!」

言うや否やその女は襲いかかってきた。武器は拳だけのようだが、動きが速い。そして先程受けてわかったが、一撃が、重い。瞬間的な衝撃は車にでも轢かれた時に等しいとも言えた。

だがしかし、『これ』を持った私の敵ではない。バットを前面に出し、盾として扱う。特性上、この運用法でも相手陣営にダメージはいくはずだ。

「全く、探偵だかなんだか知らないが私の仕事の邪魔しやがっ――!」

左頬に衝撃。うまくバットを避けて殴ってきたか。一瞬目の前が真っ白になったがかろうじて意識を保つ。それにしても痛い。

「くそっ」

バットを振り回し一旦距離をとる。流石に警戒してか女は追撃まではして来なかった。

「……あぁ、思い出した。どこかで見たことある顔だと思ったら『犯罪請負人』の恋林一冊(コバヤシ・イッサ)か」

「……私のこと知ってるのか。有名になったものだな」

ここ最近あまり目立った活動はしていなかったはずだが。

「超有名人だ。お前のせいで犯人がわからず解決に時間がかかる依頼がいくつあったと思っているんだ」

「商売繁盛なんだから褒めてくれよ」

口の中の血だまりを地面に吐き出しながら少し後ずさりをする。予定していた時間を少し過ぎているが、カジノの店員がゴミ捨てに現れる様子がない。チャンスは今日しかないしこのままトンズラってわけにもいかないようだ。本当ならサクッと奇襲して仕事を済ませたかったがまさかこんな状況になるとはね。最悪だ。

「商売繁盛だから怒ってるんだよ。ちなみに、『それ』を私たちに返してくれればお前に用はないんだが、どうだ?」

「私もお前たちに用はないぞ」

「じゃあ、依頼主だけでも教えてくれよ」

「言うわけないだろ」

「だろうね。じゃ、引き続き身体に聞くだけだ」

「やってみろ」

 冷や汗が垂れる。現状はやや不利。しかしここで引くのはまだ得策では無い。

「そんな余裕でいられるのも今のうちだぞ。お前からしたらその『巻き込みバット』は一発逆転の切り札なんだろうが、もう『それ』との戦い方がわかった」

「……確かに避けていれば効かないだろうが、それでは勝負にならんぞ」

 この女の俊敏性は目を見張るものがある。スピード勝負ということか。

「そう言う意味じゃないんだが……。お前、それを使ってる割には全然わかってないのな」

 ハッタリだ。この『巻き込みバット』は能力がシンプル。故に攻略法が困難なのだ。

「それでも仕事を遂行するには困らないんだよ」

私はバットを振りかぶり、再度女に襲いかかった。

今回はその女は避けなかった。バットは頭部への直撃コース。そのまま後ろの男も処理しておしまいだ。

――そう思ったのだが。直前にその女は拾った石を放ってきた。バットと頭の軌道の間。問題はない。気にせず振り抜く。『巻き込みバット』は石を砕き、周辺に落ちている石が大量に粉砕した。『巻き込みバット』の能力が発動した証拠だ。しかし、一緒にバットを叩き込んだ女にはほぼダメージを与えられず、ましてや、後ろでのびている男には一切ダメージが入ってないようだった。

「??!……どういうことだ?」

不審に思った私は一瞬動きが止まってしまう。と同時に腹に衝撃。目の中で星が瞬く。声にならない声が出てしまった。

数歩下がって距離をとる。そして気づいた。 

「まさか」

「気づいたか?『巻き込みバット』は一振りにつき一度しか能力は発動しない。つまり、別のものを先にぶつけてしまえばただのバットだ」

 まさかこの女、最初の一撃の時受け流した腕には影響があったが叩いた地面に能力が発動しなかったことからその結論に至ったのか。どんな戦闘センスしてるんだ。だがこれで合点がいった。

「『巻き込みバット』の対処法がわかった私に対して今のお前が、依頼された十四組の壊滅を遂行できると思うか?」

「あー、まぁ、やれるところまでやってみるさ」

「自信家だな」

「責任感が強いだけだよ。それに、このバットの優位性が無くなったわけではない」

バットを握りなおす。別に不利になったわけではない。そう心に言い聞かせながら体を動かす。しかしこのバット、なぜこんな不思議な仕様なのだろうか。一振りにつき一回しか能力が発動しないのは一種の安全装置なのか?この制約の意味はなんだ?

三振りの間に三つ、石を砕かされた。石を砕くことで威力の減衰した攻撃は、あの女を倒すまでには至らない。しかもその間にもこちらは拳を四発叩き込まれている。

「流石に、キツイな」

 拳四発でこのダメージ。どうする?一度引くべきか。『これ』はまだ使えるのか?

「動揺しているな、動きが雑だぞ」

 距離を保ちながら構えたままの女が挑発してくるがそれに反応する余裕は正直もうない。今引くにしてもこの裏路地の構造上、この女を突破しなければならない。

「……流石に無理かな」

少しだけ考えたが詰みに近いか。私は小さくため息をつき、自分の構えを解いた。

「一つ聞かせてくれ。仮に私がお前らにこのバットを渡したとしたら見逃してくれるかな?」

もうここまできたら一旦この場を切り抜ける事を優先させた方が良さそうだ。引き際を誤まる方がリスクが高い。

「観念したのか?」

「観念した。条件としては私を見逃してくれれば、という点だけれども」

「それなら……」

女も構えを解く。助かった。近接戦闘においては確実にこの女は私より上だ。この女と事を構えながら仕事をするのはもう諦める。

「ほらよっ」

持っていた『巻き込みバット』を女に放る。これを手に入れるために大金をはたいていたそうだが、知ったことか。


こうして、私に依頼された『十四組の壊滅』という仕事はあっさりと失敗に終わった。





************


●第十三章(語り部:僕)

目を覚ましたら、全てのことが解決していた。

というか状況が意味不明だった。裸に殴られて気を失ったのはかろうじて覚えている。それはいい。しかし再度路地裏で裸に起こされた時には、ことを構えていた相手、恋林一冊も一緒に仲良く地面に座り込んでいたのである。

なんでだ。

「腕のことは謝らんぞ。私の仕事を邪魔したのはお前らだ」

恋林は地面に座り込みながらタバコを吸っていた。結局ゴミ捨て場に組員はゴミ出しに来なかったらしい。助かった。

「それは返すよ。もう少し使える武器かと思っていたが、とんだ欠陥品だ。一振りにつき一回しか能力が起動しないなんてどんな縛りだよ」

恋林は『巻き込みバット』をもう持っていなかった。裸が受け取り、懐に抱き抱えている。取り返すことができたのか。一先ず安心できた。

だがしかし。だがしかしである。先ほどの発言、「何故一振りにつき能力が一回しか起動しないのか」なんて。そんなこと当たり前である。当たり前のことなのだ。少し考えればわかるはず。バットとは何をするための道具なのか。そう、野球を遊ぶための道具である。決して人を殴るための武器ではない。そして野球において、投げられるボール一球に対してバットを振れるのは一回まで。ならばバット一振りにつき能力が発動するのは一回のみに決まっている。そんな当たり前なこともわからないとは。

「さて、生憎だが私は一旦ここから消えるぞ。その女がお前が起きるまでは逃すわけにはいかないと言われたから一緒にいたがこれ以上は同席するつもりはない」

仕事も失敗したしな、とも続けていた。

「先生、一旦事件は解決ですかね」

裸が笑顔で『巻き込みバット』を差し出してきた。

「この人、これは返却するから見逃してくれですって!これで一件落着」

「――ではないぞ」

僕は裸からバットを受け取りながら言葉を遮った。もちろん理由はある。

「恋林さんとやら。これ、何回使った?」

 僕は親指で『巻き込みバット』を指しながら聞いた。

「何回?……覚えてないな。試しも含めて少なくとも十回くらいは使っているが」

「……そうか」

 小さくため息。

「流石にもう手遅れだね。引き返せない」

「どういうことだ?」「どういうことですか?」

裸と恋林は訝しげな表情をしながら聞き返してきた。

僕はタバコを一本取り出し、一息吸って心を落ち着かせてから答えた。

「別に『巻き込みバット』は魔法の道具じゃあ、ないんだ。今まで使ってておかしいと思わなかったのか?一つの対象を叩くことで同時に複数の対象にその衝撃を伝えることができることに。まさかとは思うが銃みたいに自分の手を汚さずに悪いことをするための道具などと思ってたんじゃないのか?師匠が、大法螺吹真実がそんな低俗的なものを作ると思っていたのか?」

 裸も恋林も何も答えなかった。

「いや、失礼。君たちがそこまで知る由も無いか」

師匠の言葉が頭をよぎる。「道具は道具。大切なのはそれを使う意思ではなく背景だが、道具を使う人にそれを言ったらおしまいだよ」

「作用があれば反作用もある」

 僕はポケットからボールを取り出す。僕が倉庫から持ってきた、保有している数少ない師匠の発明品だ。そしてこれは本来『巻き込みバット』とセットで運用されるものであった。

「今までそれを使ったのは何回だ?巻き込み深度はいくつだった?今まで関係する複数の対象に届いた衝撃、その『反動』はどこに消えたと思う?」

 僕は手にしたボール、『真芯ボール』を二人に見せた。

「答えは『ここ』だ」

「先生、つまりそのボールが全ての反動を請け負っているということですか?」

「そうだ」

「ふん、くだらない。私は道具を道具として使っただけだ。使い方にとやかく言われる筋合いはないね」

「わかってないな。道具は道具だが、正しい使い方ができないやつに安全は保障されてない、ということだぞ」

「安全だと?」

「そう、この『反動』が『巻き込みバット』の本質なんだよ。『巻き込みバット』はこれを体験するためにある」

「……?それが安全となんの関係があるんだ」

「まぁ聞け。本来、この『真芯ボール』は『巻き込みバット』とセットで運用されるものなんだ。使い方は簡単。『巻き込みバット』で『真芯ボール』を打つだけ。この『真芯ボール』は本来『巻き込みバット』が衝撃を伝達する複数の対象というのを自身に集約し溜め込む事ができる。つまり、一振りで何度もボールを打つという経験が得られる、それがこの発明品の本質だ。しかし一方でその反動を請け負うこの『真芯ボール』には容量の限界がある」

 目の前にバットとボールを並べる。

「そもそも、だ。なんで『巻き込みバット』があんなところに保管されていたと思う?展示するためなんかじゃない。すでに一度、『巻き込みバット』を使ってお前みたいなことをした奴がいるんだよ」

 まぁ、そいつは大法螺吹真実って言うんだけど。師匠がその時行ったのはただの動作確認ではあったのだが、その一回が致命だった。

「そう、『真芯ボール』を使わずに『巻き込みバット』を使ったんだよ。その時、地球上におけるある種の動物が全て叩き潰された。一匹残らずだ。端的に言うと、絶滅した。『巻き込みバット』はその能力を遺憾なく発揮したんだ。それを危険視した政府に『巻き込みバット』を没収されることとなる。で、あそこに保管されたわけ」

 師匠はそれらをもみ消すのに結構苦心したとも聞いたが、まぁ、それは黙っておこう。

「だからこのボールの中にはその時の大量の反動と、お前の使った分、約十回分の反動が残っている。そしてこのボールはあくまでそれらを溜め込んでいるだけで、無くしてしまっているわけではない。つまりどこかでこの容量がいっぱいになってしまった中身を解放しなければならない。しかし問題が一点。このボールは本来全ての反動を請け負って弾けるという使い捨てのためのものなのだが、正しい用途で使っていない場合は一部の反動が最後の使用者に還ってしまう」

僕はボールの中心にあるボタンを押した。

「このように、だ」

瞬間、恋林一冊の両腕から背部にかけてが一気に五倍近くまで膨れ上がり、耐えきれずに大きく弾けた。路地裏の至る所に血や肉片が飛びちり、付近に血の匂いが充満する。

一瞬すぎて恋林は声を上げることもなく絶命していた。

「言ったろ。道具は正しく使わないと安全は保障されていないと」



「先生、今回の件、結局真犯人にはどうやってたどり着けば良いのでしょう」

しばらくして放心から復活した裸が僕に尋ねてきた。

「恋林はあくまで『犯罪請負人』。恋林に十四組の壊滅を指示していた人物がいるはずです。更に言えば『巻き込みバット』を盗った人物も」

「いや、残念ながら僕にもわからないよ」

 僕は正直に答えた。

「え」

「でも問題はない。犯人はわからないが事件の解決はできる」

「え」

「わからないか?」

 争い事の才能はあるんだけどこういう頭使うところが弱すぎなんだよな、裸は。

「今回僕らが手に入れた成果物はなんだと思う?」

「え?え?ま『巻き込みバット』?ですか?」

「その通り」

 僕は手に持っていたバットを握りしめ、数回素振りをした後に、

「つまりこれで、解決だ」

フルスイングで恋林一冊の死体の頭を打ち抜いた。

************

●エピローグ(語り部:僕)


全てを終え事務所に戻ってきたのち、裸は僕に尋ねてきた。

「先生はあのバット、欲しかったんですか?」

「……いいや、いらないな」

「意外ですね。先生はてっきり師匠である大法螺吹さんのことをこう、神格化している節があるので師匠のものは全て独占したいタイプだと思っていました」

 裸は冷蔵庫から缶ビールを二本取り出し、僕に一本放ってきた。二人で同時に缶を開けながら一気に液体を喉に流し込む。タバコのお供に酒はとても美味いのだが、下戸である僕は飲むとすぐ眠くなってしまうんだよなぁ。まぁ、仕事も終わったし別にいいか。

「……神格化か」

確かにそうかもしれない。神格化しているというのは正しい。実際、師匠は神にも等しい存在だった。人類では到底到達できない領域に一足飛びで踏み込み、過去の人類史を蹂躙していく。悩み悩む人類を一瞥もせずに脇を駆け抜け、気が向いたときだけ振り返る。

後ろに、僕がちゃんとついて来ることができているかどうかだけのために。

当時の僕にとってあの人の後ろをついていく事が全てだった。今だってそうかもしれない。あの大法螺吹真実が、唯一一緒に走ることを求めた人物。これほど名誉なことはあるだろうか。

「まぁ、でもあんなもの手元にあってもな。前にも言っただろ、あんなロクでもないもの欲しがる奴の方がどうかしているんだ」

 今回、『巻き込みバット』は逆巻さんに渡すことにした。なんでも逆巻さんは現在、一緒にいた佐佐々木が倒れてしまい、業務に追われているとのことだった。出勤しないからおかしいと思ったら自宅で頭部から血を流して倒れていたそうだ。打撃痕があり、容体としてはかなり悪いらしい。

……まさかな。

『巻き込みバット』に関わる事件については、全て十四組内の抗争として処理されており、世間に公表されること無く闇に葬られた。職業柄今まで何件もこのような案件は見てきたが、毎度のことながら複雑な気持ちになる。十四足六の奴も「まぁ、順当だな」の一言で済ませていた。報復は別の形で行うそうだ。おぉこわ。

「ところであの『巻き込みバット』と『真芯ボール』。あれ、本来の用途ってなんだったんですか?」

「あー、確かに言ってなかったかもな。師匠は元々スポーツが好きなんだが大の苦手でさ。やれもしないのに野球の真似事をしようとしてたんだ。ただ、師匠には野球をする相手となる友人がいなかった。当時はまだ僕も弟子入りしていなかったしな。だから一人で、なんとかして上手くなろうと思ったらしい。そのためにかけられる師匠が決めた時間はたったの二週間。それを実現するためには効率的に経験値を積むことが最適解と考え、師匠が作ったのが『巻き込みバット』と『真芯ボール』だ。一振りで何回もボールを打つという経験を得られるシステムなんだよ、本来あれは」

 裸はすごい複雑そうな顔をしていた。多分全然共感できないし、理解もできていないのだろう。そりゃそうだ。僕も本人から聞かされた時は同じようなリアクションをした。

「全く、全然、天才が考えることは意味不明ですね……。先生は、私と同じ凡人なんですからゆめゆめ勘違いしてはダメですよ」

 凡人、か。僕はともなく、君はどちらかというとしっかり才能がある側なんだがな。

「残念ながらあの人はどこまで行っても孤独なんですよ。だからたまに自分の走っている道を見たくなってしまう。でも、そこに凡人の姿はありません。絶対に、ありえないんです。振り返ってもあの人の視界に先生はいなかったはずです」

「わかってるよ」

「先生の悪い所ですよ。頭で理解して心を蔑ろにする所」

「それも、わかってるよ」

「私だって理解してます。私が言っている事は先生の救いにはならないことくらい。でもいつまでも故人を追う先生を見ているのは辛いんです」

「……ありがとう」

「だから、いい加減大法螺吹真実を探すの、やめてくださいね」

「やなこった」

おっと本音が。

それを聞いた裸は深い溜め息をつきつつ、持っていた空き缶を握りつぶしていた。

「いえ、そう言うとは思っていました。先生が何故故人を探し続けるのかはよくわかりませんが、ここに所属する以上は私はそれを手伝います。その代わり、先生は大法螺吹みたいに勝手に死なないでくださいよ」

 彼女のこの言葉に対してなんと返事しただろう。何か返事をした気はするが、それを記憶する前に僕は睡魔に襲われ夢の世界に旅立ってしまった。




















**********

●終章(語り部:僕)

 永遠に広がる真っ白い空間。僕はその中心になっていた。周りには何もない。

唯一、そこに立っているのは僕ともう一人だけ。十二年ぶりの再会だ。白髪隻眼の女性。服装も最期に見たあの時と全く同じだった。

「お久しぶりです、師匠」

 目の前にいたのは、かつて自殺してこの世を去った僕の師匠、大法螺吹真実その人だった。

「やぁやぁ、久しぶりだね。どれくらいぶりなんだい?」

「十年以上経ってますよ。夢の中とは言え、まさか再会にこんなに時間かかるとは思わなかったです」

 師匠に近づき、久方ぶりの握手をする。夢の中だというのに、不思議と師匠の体温を感じられた。

「次回も僕が生きているうちに顔だしてくださいよ。僕の時間は有限なのですから」

「あーはいはい、でも『人間にとって時間は有限であり身体は一つしかない』、なんて考えは凡人の発想だぞ?多少の発想の転換で時間はいくらでも作れるし、人の身体などいくつでも用意できる。そう、今の私みたいにね」

「相変わらず何言ってるのかよくわからないですけど、つまり師匠はまだ生きているという事ですか?」

「そうだよ」

 師匠はモデルのようなポーズをとりながら笑顔で答えた。

「いや、でも今の私は生命体ではなく情報体だからね、生きているとは言い難いか。現に今の助手君と会話するのにも君がわかるように言語を人類に最適化している状態だ」

「うーん、やっぱ師匠の言ってることって意味がわかりませんね」

「簡単に言うとだな、個という概念を形成する要素を自分だけでなく他人で補完する、というのが今の私の在り方なんだ。本来肉体という器が縛りとなっている個を他人の持つ情報で補完する。そうすると肉体という縛りを失った個は同時に全となる。簡単だろ?」

「いや全然わかんねっす」

「ははは、正直なところは君らしいな」

 そこが君の一番いいところなんだけどな、とも続けた。

「そもそも理屈がおかしいでしょ。個が全になれるわけがない。全は個に成り得るが個は全に成り得ない。仮に成れたとしてもそれは全に飲み込まれるのがオチでしょう」

「それは生命体の場合だよ、助手君。私が自死する前に何をしたか覚えているかい?」

「えーと……あっ」

「そう、天才たる私はこの世界のあらゆる賞を独占した。あのクソみたいな価値のない賞をな。まぁだがしかし控えめに言ってもあれは偉業と言えるだろう。全人類の記憶に私の存在が記憶され、同時に記録されたことは間違いない。その刻み込まれた私の情報、を収束、統合することによって情報体である私を誕生させたのだ。どうだ、簡単だろう?」

「簡単なんですか?」

「簡単だよ。人々の記憶に深く自分の存在を刻みつければいいだけなのだから。その手法の善悪問わずな。一番簡単な方法は大量虐殺とかじゃないのかな?最も、私はこう見えて比較的良識のある人間だから別の方法をとったわけだが。情報体への転換のやり方さえ知っていれば歴史上の人物は全員やっていただろうよ」

「でも皆が知っているのは『偉業を成し遂げた大法螺吹真実』であって『大法螺吹真実』ではないのでは?」

いい質問だね、と師匠は嬉しそうに答える。

「そこを補完してくれたのが『君』だよ。助手君。誰よりも大法螺吹真実の側で誰よりも大法螺吹真実を知り、誰よりも大法螺吹真実を愛した『君』のおかげさね」

 彼女はその長く美しい髪をかきあげ、笑った。

「助手君がいなかったら私は『進化』できなかった」

 笑顔で言っているが、自己進化のために命を捨てるのは狂気の沙汰だ。こういう所が本当に意味がわからん。







「……ところでさっきから誰に、説明しているのかな?助手君のそばにいたあの娘か?それとももっと別の存在かな?どちらにせよ興味はあるな」

 ……なんのことだ?

「いや、助手君自身も気づいていないのか。だとすると私にもどうしようもできないか……」

「よくわかんないけど、師匠にもわからない事があるんですね」

「当たり前だろ。全知全能なんてあらゆる事象の中で最も忌むべきものさね」

「そういうところを聞くと安心しますよ。師匠は天才だけど、やっぱ人間なんですね」

「ははは、そこが助手君の優しさだね。この肉体を失った私を人間と呼ぶとは」

 話し終えたあたりから師匠の姿が薄くなってきた。まるで霧に包まれるかのように。そろそろ時間か。

「また、会えますか?」

「どうだろうね。でも、」


「助手君が私の発明品を追い続ける限り、私はどこかで現れるだろうね」









【大法螺吹真実の楽しい発明品・巻き込みバット編 完】

***********************


●キャラクター紹介(ネタバレ版)

・大法螺吹真実(オオホラフキ・マナミ): 狂気を含む人類愛。人類の一つ先の人類。肉体を捨てて現在は情報体として生きている。今の自分より高次元の存在をギリギリ認知できており、そこに到達するのが現在の目標。なお、この高次元の存在とは、『読者』と事であり、今この物語を読んでいる『君』のことである。お前だお前。

・『僕』・『助手』・『先生』: 天才のすぐそばにいた凡人。『巻き込みバット』を人を殴るものだと認識していないので絶対に「叩く」「使う」など、一貫して道具扱いしている。また、流れで三行半三下と名乗っているが本名ではない。

・上半身裸(ジョウハンシン・ハダカ):基本的にはポンコツ。自分が知的だと誤解しているが、ゴリゴリの肉体派。素の身体能力で真実の発明道具相当の動きができる。『僕』の助手という立場ではあるが、実質的には護衛。『僕』に対して上司以上の感情はあるには、ある。自覚はあまりないため、なんか犬みたいな行動になってしまう。最たる才能は「健康」。

ただし大法螺吹真実という「本物」を知っているため、自分は偽物の天才である、という自覚がある。またそれが強いコンプレックスにつながっている。そのコンプレックスを埋めてくれるのが『先生』ではあるのだが、大法螺吹真実の亡霊に連れて行かれてしまうのを心底恐怖している。

・逆巻順当(サカマキ・ジュントウ):ただのいい人。刑事としては優秀だが、職場では結構上司に嫌われている。

・佐佐々木真面目(サササキ・マジメ):『巻き込みバット』事件の真犯人。やりたかったのは世直し。押収された巻き込みバットで世直しがしたかったが叶わず。そのため、『怪盗』に依頼し盗み出してきてもらった。かといって自分の手は汚したくないので実行は『犯罪請負人』に依頼する小心者。結局、『犯罪請負人』が巻き込みバットで殴られたため一緒に亡くなる事となった。事件の真相を知る者は居ない。

・十四足六(ジュウシ・タシロク):十四組の若頭。頭は回るし、柔軟な対応もできるタイプ。今回の『巻き込みバット』事件について警察とは公表しない代わりに裏カジノを黙認してもらった。

・二十重審判(ハタエ・シンパン): 憧れの『僕』に会えて興奮気味。

・月下醜悪(ツキモト・シュウアク):『怪盗』。自分が面白いと思うことの手助けをする。嘘はつかないが、真実は言わないタイプ。佐佐々木は面白い人物と思い、端た金だったが巻き込みバットの窃盗を請け負った。手元にないとは言ったが行方を知らないとは言っていない。月下美人の花言葉は快楽。恋林・佐佐々木同様巻き込みバットで殴られ人知れず死亡している。

・恋林一冊:『犯罪請負人』。今回の犯人役。佐佐々木に依頼され、犯行に及んでいた。女性。事件の最中に『巻き込みバット』の反動を受け取る事となり、ショック死する事となる。なお死体もバットで殴られ、事件解決のタネにされる。


●設定(ネタバレ版)

・『巻き込みバット』

それで叩くと設定した範囲の関係者まで衝撃が届く。直接叩いた相手以外はそれにより完全犯罪が可能。使用方法を間違えると反動が全て使用者に戻ってくるため正しくないしよう方法は自殺に等しい。

設定範囲は『巻き込み深度1〜7』があり、7までいくと全人類に衝撃が届く。人類みな友達。

動作確認テストとしてと開発者がとある虫を潰したのだが、最大深度で叩いてしまったため絶滅させてしまい色々な生態系を狂わせてしまった過去あり。

本来はただの野球上達用の道具である。


・『真芯球』(マシンボール)

巻き込みバットとセットのアイテム。バットの設定範囲を無視して全ての衝撃をこのボールが受信する。そのため、まきこみバットを使用した本人は(設定範囲の広さによっては)一振りで何百発ものボールを真芯に捉えて打つという感覚を得ることができる。開発者である大法螺吹真実はそれを計算して作っており、これら二つのアイテムで自分の野球経験値を増やそうとしていた。結果としてその目論見は失敗に終わる。なんなら大法螺吹真実はすぐに野球が嫌いになった。







●【あとがき】

脱稿できません!(切実)


初めての方、初めまして。私を知る方、お久しぶりでございます。

高吊本音です。

この度はお手に取っていただきありがとうございます。


この作品難産でした。というか難産じゃなかった事ないんですけどね?

もう作りながらあれです。初めて領域展開をした伏黒恵君の気持ちになりました。

「不完全!不細工もいいとこだ!」

不細工なままでしたが完成させるのがやっとでした。

わいに、わいにもっと技量があれば……!


この作品作ってて思ったのは皆社会人やりながら作品作りするのすごすぎない?の一択。


自分は仕事のある日はほぼ何もできなかったし休みも疲労困憊で作品作りに対する余力がない日が多かったです(それもしかしてブラッ……)

健康診断もゴリゴリに悪かったです!

皆様も作品作りは計画的に!


次回もコミケ参加できたらしたいと考えています!


※裸が犯人をボコボコにする時の曲目はジョジョ5部の処刑用BGMです。



2023/8/12 written by 高吊本音 / ねこ飯


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大法螺吹真実の楽しい発明品〜巻き込みバット編〜 高吊本音 @takaturihonne

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