『物理的に襲撃の難易度を上げて、その上で警備体制の強さ、……何を敵にしているかを、“戦争教導団”に見せつけるのじゃ。その上で挑むなら良し。お主らが制圧せよ。やられたからにはやり返すのじゃ。これはわらわの開いたショー。そう何度も楽に襲撃できると思わせるな』


 水上の浮島と言う立地。そして英雄が配置された障害物競争。


 ――テロリストとしてこれ以上手の出しにくい状況はない。襲撃しようとすれば湖を越える必要がある。そしてそんな風にわかりやすく出場者に近づけば、障害物役のヴァンかサラかルークか、誰かしらが片手間に、排除なり拘束する。


 仮に一人で足りない敵なら他の二人も加勢に来る。


 そんな大人の思惑の元開かれた“どきっ!?美少女だらけの水上障害物競争(ポロリもムフフフフ~)”。


 その最終防衛ラインを務めるヴァンは、反復横跳びで残像を残し続けながら、客席を眺めた。


(師匠だとしても、英雄3人は荷が重いか)


 そんな事を考えたヴァンの目の前で、3人が立ち上がった。


「本当に、それで突破できるのか?」

「正直意味わからないの……」

「まあまあ、ヴァン兄に一番詳しいの私だから。ちょっと、試させてよ?」


 そんな風に言って、3人は顔を見合わせて、そのまままっすぐ、ヴァンの元へと歩み寄ってくる。


(……策が、生まれたのか?俺を突破する策が?)


 そんな手がないからヴァンは“鉄血の覇者”とまで呼ばれる英雄となった。それこそ同じ英雄級の人材をぶつける位しか戦場において解決策のない圧倒的で理不尽な個が、英雄だ。


 それを、突破する。そんなことが可能なのか。いや、やろうと試みるだけで十分……。


(これ以上長引かせても、……襲撃者は釣れないか。負けてやろう)


 そう思いつつ腕組みしたヴァン。そんなヴァンの目の前で、3人同時に歩み寄って来た白ビキニの美少女達は……。


「「「…………」」」


 何も言わず、立ち止まった。


(…………?)


 反復横跳びを止め、ヴァンは目の前にいる少女たちを眺める。

 ロゼとリリがヴァンの目の前にいる。そしてその後ろにサシャが隠れている。何やら陣形でも組んできたらしい。


 それを観察するヴァンの前で、ロゼとリリは言った。


「で?……これからどうするんだ?」

「反復横跳びは、やめてるけど……」


 作戦を全て共有しきっている訳ではないのだろうか。不審げに言っているロゼとリリの背後で、サシャはちょっと悪い笑顔で、呟いた。


「うん。えっと、こっからって言うか……ごめんね?」

「はぁ?」

「え?」


 ロゼとリリは同時に呟いた。同時に、サシャの手が二人の首元へと素早くかつ怪しく動き、何かを引っ張った。


 ……結わえられていたビキニの紐である。首の後ろに結わえられていたその紐が解け、ひらりと垂れるように、ロゼとリリが纏っているビキニがはだけていき――。


「「「おおおおおおおおお!?」」」

「「~~~~~っ!?」」


 観客席から歓声が上がり、二人は声にならない悲鳴を上げた。

 そしてロゼとリリは同時に、はだけそうになった豊満なバストを覆い隠そうと、背を丸める。


 だが、……サシャの策略はそこで留まらないらしかった。


「ここまで来たら勝ちたいし~~」


 そんな呟きと共に、サシャはロゼとリリの背を押す。ザイオン式格闘術を習得しているために完璧に重心が前に行ったタイミングをとらえたその押しに、はだけそうな胸を庇おうと猫背になっていた二人はあっさりバランスを崩し……。

「へ?」

「あ……、」

「……む?」


 呟くヴァンへと、……半裸の少女達が飛び込んできていた。


 反射的に抱き留めたヴァン。その胸に、柔らかな感触が密着している。


「……あ、こんな、」


 ロゼ・アルバロスは普段の凛々しい表情が嘘のような心ぼそげな表情で頬を赤らめていた。水着がはだけ露わになったバスト。倒れ込む拍子にそれをヴァンに押し付けながら。


「……むぅ。嵌められたの、」


 リリ・ルーファンは頬を赤らめつつ、拗ねたように呟いていた。やはりはだけたバストを倒れた拍子にヴァンに押し付け、それによってどうにか隠しながら。


 柔らかな感触がいくつもヴァンに密着している。真下へと視線を向けたヴァンの視線の先にあるのは、二つの谷間。それらが、見られるよりマシと言わんばかりにヴァンへと強めに押し付けられ歪んでいて――、そしてその光景の向こうでこの状況を作ったサシャは言った。


「じゃあ、ヴァン兄。……頑張って生き延びてね?」


 そして次の瞬間。半裸の美少女を二人抱き留め硬直するヴァンの横を、サシャは悠々と歩んでいく。


 それをどこか唖然と眺めたヴァン――その背筋に突如、寒気が走った。


(――殺気!?)


 戦場で培った勘に身を委ねたまま、ヴァンは即座にその場から飛びのいた。


「「あ、」」


 同時に声を上げ、露わになりかけたバストを腕で覆い、ロゼとリリはその場にしゃがみ込む。そんな少女達の眼前。ついさっきまでヴァンがいた場所に、チリと言う稲妻が瞬く。


 そして次の瞬間――抜き身の剣を手にした忠義の男が、その場に姿を現した。


「ヴァン・ヴォルフシュタイン。……お前は越えてはいけない一線を越えた。わかるだろう、ヴァン・ヴォルフシュタイン。……ヴァン・ヴォルシュタインッ!」


 忠義をはき違えた男の何かのリミッターが外れ語彙が消失していた。

 だが、わかる。余りにも如実に背筋を凍り付かせる殺意を前に、


「ルーク、がるっ、」


 呟こうとしたヴァンはけれど次の瞬間――素早くまた飛びのいた。


 そうして間一髪窮地を潜り抜けたヴァン。それが元居たはずの空間――あるいは足場である浮島の一角を、目視できない程に細くも強靭で凶悪な斬撃の群れがバラバラに解体する。


 そして、長い黒髪の嫉妬深そうな英雄が、その場にゆらりと、降り立った。


「この世で一番の幸福を知っていますか、ヴァン・ヴォルフシュタイン。リリのぷにぷにをぷにぷにする事です。アナタはその最上位ぷにぷにをつい数秒前にぷにぷにした。その意味が分かりますか?それ以上の喜びはこの世にもうないのです。だから、アナタ。もう、……死んでも悔いはありませんよね?」


 髪を振り乱したシスコンレズが据わり切った目でヴァンを睨んでいた。


「……サラ・ルーファン」


 苦々し気に呟き身を引きつつ、ヴァンは懐から血の入った瓶を取り出す。

 そんなヴァンへと、ルークとサラはゆっくり歩み寄ってくる。


「姫様を辱めたな、ヴァン・ヴォルフシュタイン……」

「死にたいと口走るまでゆっくりじわじわと爪の先からバラバラにしてあげます……耐えてみせなさい。耐えきれるだけの幸福を味わったのだから!」


 そうして歩み寄ってくる英雄二人を目の前にヴァンは渋面を浮かべつつも、一応言った。


「……言い訳させて貰えないだろうか?」

「「――ヴァン・ヴォルフシュタインっ!」」

「そうか、わかった……。言葉に意味はないようだな」


 激昂する二人の英雄。“雷迅の貴公子”と“新月の悪夢”は、覚悟を決めたらしい“鉄血の覇者”へと、襲い掛かって行った――。


 *


「扱いやすい大人だな~」


 湖の上空で、“雷迅の貴公子”と“新月の悪夢”が、“鉄血の覇者”と争っている。


 鉄線と雷迅が飛び交いそれらを踊り狂う血がどうにか防いでいる。そんなそこだけ戦争時代に戻った湖を背に、サシャは軽い足取りでゴールテープへと進んでいた。


(英雄には英雄ぶつければ良いじゃん。ロゼさんとリリちゃんもまあ、そんな見られなかっただろうし……)


 何よりヴァンと言う障害を取り除きつつ、ロゼとリリの二人の行動も一時的に封じた。


(あんまり勝つ気なかったんだけどね)


 何か血でも騒いだように、悪びれず様子もまるでなくサシャは悠々とゴールラインへと進んで行く。


 だが、次の瞬間。


「――よくも、やってくれたな?サシャ!」

「へ?」


 突如背後から聞こえた声に、そう声を漏らしたサシャ。

 その胸元が、急に涼しく――そして心細くなった。


「「「――おおおおおおおおおっ!?」」」


 大興奮したかのような歓声が、遠く客席から響いて来る。

 それらの全てに、サシャは一気に頬を朱に染め、


「~~~~~~っ!?」


 声にならない悲鳴を上げながら、両手で胸を抑えてしゃがみ込んだ。

 そんなサシャの姿が、巨大な魔導水晶板にドアップで映り込んでいる。


 完全に水着をはぎ取られたトップレス状態で、胸を両手で覆い隠ししゃがみ込んでいるサシャの姿が。


「う、うぅ……。なんて事するのロゼさん」

「それはこっちのセリフだ。先にやったのはお前だろ、サシャ」


 そう言って、水着を直したらしいロゼ。その手にエントリーナンバー27番。サシャの番号のついた白ビキニを握った皇女は、依然頬を赤らめたままサシャを睨みつけていた。

 

「それはそうなんだけど、でも私一応見られはしないようにってちょっと配慮してたんだけど、今のタイミングって完全にさ、」

「知らん!……お前が悪い!」

「うぅ……。もう、わかったからとりあえず水着返して……」


 そう言ってて、身を縮めたまま軽く涙目で片手を差し出したサシャ。そんなサシャへ、ロゼははぎ取った水着を返そうとし……と、そこで、だ。


「――隙ありなのっ!」

「――ッ!?」


 声が響いた瞬間、深読みしたロゼは全力を挙げて自分の水着をガードした。


 そんなロゼ、そしてサシャの横を――一人の少女は完全に無視して通り過ぎていく。


 そしてそのまま、二人の横を通り過ぎた少女は、ゴールテープを越え――。

 瞬間、裏でずっと実況してたらしいルーナの声が、響き渡った。


『ここで決着!波乱と暴走のどきっ!?(以下略)障害物競争!1位でゴールテープを切ったのは……ユニオンの令嬢!リリ・ルーファンだ~~~っ!』


 同時にまた観客席から声が沸き上がり、そんな歓声に手を振りながら、リリはサシャとロゼに視線を止めると、言う。


「……漁夫の利貰ったの。最後に勝った奴が一番偉いの」

「ク……目先の復讐に囚われたか。だが、2位は譲らん!」

「待って、ロゼさん!2位上げるから水着返して?返してよ~~っ!」


 27番の水着を握ったまま駆け出したロゼの後を、サシャは気恥ずかしそうに小走りに追いかけて行った。


 そうして表彰台が埋まった“どきっ!?美少女だらけの水上障害物競争(ポロリもムフフフフ~)のイベント会場。


 そこではいまだに、英雄達が地形を変えそうなレベルで、争い合っていた……。


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