俺とゴリラと好きと嫌いと
弥彦乃詩
短編
突然だが、皆さんはゴリラを知っているだろうか。
霊長類最大の体を持ち、広い胸、重い首、太い手と足で特徴のある体形をして、軽く握った指の第二関節から先を地面につけて歩くゴリラのことである。
このゴリラ以外にゴリラがいるのならば見てみたい気がする。
そしてゴリラはあの見た目から想像できないくらい繊細なのだ。
ストレスから神経性の下痢にかかったり心臓の負担から死にいたったりする。
また知能が発達しているため、痛みを敏感に感じ、ちょっとしたことでも恐怖を覚えてしまう。だからあの巨大な体をもってしてでも臆病なのである。
ゴリラと聞いて思い浮かぶのはまず胸をグーで叩くドラミングだが、実は音が遠くまで届くようにパーでしているのだ。他にもバナナなどあるがゴリラの主食は木の葉、草、樹皮のような繊維性の植物などで決してバナナばかり食べているわけではない。
ゴリラは雄一匹に対して雌が複数引きと言うハーレムを形成するため、ゲイのゴリラがそれなりの数存在し、お互いを慰めあっているのである。
これだけゴリラのことを話しておいてなんだが俺はゴリラが嫌いだ。
ゴリラを好きだなんて物好きな奴が居たら会ってみたい。
自分に言い寄ってくる雌がいないからといって雄と慰めあうなんて俺には考えられない。あんな臭くて五月蠅くて毛深いゴリラのことが好きなんていう物好きがこの世に居るのだろうか。
居るのならば会ってみたい。切実に。
嫌いというからには理由がある。
簡単に説明すると俺はバナナが好きであだ名がゴリ男だった。
これだけではないがゴリラを毛嫌いする理由はこれで察することができるだろう。
なぜこんなことを言い出したのかというと一人暮らしに向けて押入れの整理をしていたら小学校の卒業アルバムを見つけてしまった。
友達の顔写真や卒業文集を懐かしみながら見ていると自分のものを見つけた。
バナナが好きだという情熱のこもった文とともに将来バナナの生産者になりたいという願望が書いてある。
友達からの寄せ書きには「ゴリ男へ」と大きく書いてあり、そう呼ばれるのが嫌だったのを懐かしく思った。
整理が終わり足りないモノがいくつか発覚してしまったので買い足しに行くことにする。
――変わって午後の空模様です。気圧の谷に伴う帯状の雲が東日本から西日本に掛かっています。この雲は午後から北上し全国的に雨の見込みです。河川の増水や土砂災害には十分ご注意ください。また今朝は東京都東部でゴリラ豪雨がありました。不安定な天気模様なのでしっかりと傘や長靴の準備をして出かけましょう。
ああ、ゴリラの話をし過ぎて電気屋の店頭にあるテレビから流れる天気予報までゴリラと言っているように聞こえてしまった。
雨が降るかもしれないのに傘を忘れてしまったが、降りだしそうになったら傘を買えばいいと思いなおした。
それに引越しするにあたって新しい傘を買おうとは思っていたのだ。
多少荷物にはなるが引越し前にちゃんとした傘を買っておこうか。
日常が突然変わってほしい。
そんな風に願うようになったのはいつだろうか。
ドラマや漫画みたいに突然日常が変わり女にモテ始める。
そんな妄想に似た願望が膨らんでいた。
きっと思春期に入ったころからだろう。
誰もが一度は通る道だと思う。
そうでなければそんなものはこの世に生まれないだろう。
だがもう社会人にもなるのだからそんな夢のような出来事が起こるわけがないことは知っている。
だからこそ大人になっても夢を見続けるためにドラマや漫画をやめられないのだと自分に言い訳してみたりする。
――雨降りそうだよ、傘どうする。うーん、雨が降ってから買えばいいかな、でもゴリラ豪雨って言ってたから平気じゃないかなあ。あー……でも雨降ったらヤバいじゃん、濡れたくないよ。あ、こんなところに折り畳み傘が、相合傘しますかあ。やるう、愛してるよ。
制服を着た女子高生の二人組がこれからの予定を話しながら歩いていた。
今日は頭がゴリラで支配されているようだ。
確かにゲリラ豪雨と似てはいるがどうも今日は調子が悪いらしい。
しかし、女子高生二人がああやっているのを見るとなにか落ち着くものがある。
何故かはわからないが。
ハーレムの主であるゴリラも雌同士が仲よくしているのを見て何か感じているのだろうか。
朝から引越しの準備をしていたので少し眠くなってしまった。
お昼も過ぎ暑さもピークになる時間帯なのでどこか休めるとこに行くことにする。
ただ金があれば漫画喫茶で時間を潰せるのだろうが、今は無駄に金を使ってはいい時期ではないので公園に行くことにした。
バスで行くとものすごく近い距離なのだが、節約のため歩くことにした。
ただ気になるのがかなり黒い雲がもうすぐ頭上に来ることだ。
うだるような暑さの中公園にたどり着いた。
木陰のベンチに座ると暑さがだいぶ引いた気がした。
頬をなでる風に誘われるように眠気がやってきた。
ただ、傘をまだ買っていないので雨が降らなければいいなと思いつつ眠りについた。
気が付くと目の前のウホウホしている光景に愕然とした。
空からゴリラが降ってきている。
親指くらいの大きさのゴリラは大きく手を広げ減速すると華麗に着地していた。
いつの間にかゴリラは俺の買ったバナナ周りに群がり、バナナを盗み食いしている。
これだからゴリラは嫌いなのだと現実逃避し、誰かに助けを求めようも誰もがこの光景を気にしない。
むしろバナナを食われている俺を写真で撮っている輩もいる。
きっと「ゴリラがゴリラにバナナ盗られてるなう」とか呟いているのだろう。
道行く人は何もそれを気にしない。
雨や雪が降るようにゴリラが降ってくることを当然だと思っている。
自分は気をおかしくしてしまったのだろうか。
俺は日常が突然変わりモテたいと確かに願ったかもしれないが、誰がゴリラにモテたいと願ったのだ。
しかし、ウホウホと俺の周りで舞い踊りだしたゴリラをよく見ると可愛いと思ってしまった。
小さい体を一生懸命動かして踊っているゴリラたちは皆自分に向けて求愛行動をしているのだろうか。
一匹を手に取ると歓喜したのかさらに狂ったように踊りだした。
そこに一筋の光が射した。
ゴリラたちは雲の切れ間から射したその光に当たると溶けるように消えてしまった。
手の上に居たゴリラの表情も今にも泣きだしそうだ。
俺の周りを照らした光はゴリラを消してしまった。
少しだけゴリラを好きになった瞬間だった。
――あとがき―――――――――――――――――――――――――――――――
たぶん初めて書いた小説。
どっかのフリーダムに歌っている人に影響されて書いた。
目を開けるとウホウホしてるってフレーズが使いたかっただけ……
俺とゴリラと好きと嫌いと 弥彦乃詩 @ynoshi010
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