第3話 ポストアポカリプス世界⑦


「なるほど……生きた金属に、機械仕掛けの生命と神ですか」


 ブーディア姫と無事に合流した僕たちは、キャンピングカーに揺られる中、この世界について分かったことを報告していた。

 ちなみに、湖の乙女の装備化によるキャンピングカーの強化は成功しており、頑丈さはもちろんスピードもかなり向上した。

 この分なら、行きの何分の一の時間でシェルターへ戻ることが出来るだろう。

 僕らの話を「ふんふん」と頷きながら聞いていたブーディア姫だったが……すべて聞き終わると「フゥ」と小さく息を吐き、言った。


「申し訳ありませんが、もはや何を言っているかさっぱりですね」


 ですよね、と苦笑する。

 頭の良いブーディア姫だが、さすがに生まれ育った文明レベルが違い過ぎて理解できなかったらしい。


「とりあえず、この世界にもモンスターのような脅威が存在するということで良いのでしょうか?」

「そうだね」


 その考え方で良いだろう。

 それが理解できている時点で、やはりブーディア姫は頭が良い。


「で、これが、この世界のモンスターですか」


 ブーディア姫はそう言うと、床にお行儀良くお座りした狼型のAEM——確かガンハウンドとか言ったか——へと目をやる。


「見た感じ、ゴーレムとかリビングアーマーとかの召喚獣に近いんでしょうか?」


 ゴーレムやリビングアーマーか。

 確かに、金属の鎧が、なぜか動いているという意味では、そっち系統のモンスターに近いかもしれない。

 僕らからするとトンデモ科学の産物であるAEMだが、ブーディア姫からすると意外と身近に感じる存在なのかもしれない。

 ブーディア姫にジロジロと視線を向けられるガンハウンドだったが、微動だにしない。

 中身がないからだ。

 アイギスがこのAEMを掌握した際、元々あったAEMの自我はデリートされている。

 例えるなら、OSの入っていないパソコンと言った感じだろうか。

 このAEMを動かすためには、アイギス本体が取り込むか、新たに作成した分霊を宿らせる必要がある。

 そして、AEMを動かせるだけの分霊を作成するには、それなりの時間と、容量がある記憶媒体が必要らしい。

 記憶媒体は、このAEM自体で良いとして、時間の方はどうしようもない。 

 つまり、アイギスがキャンピングカーを取り込んでいる今、このガンハウンドはただの金属製の置物というわけだ。


「で、このモンスターは、この車みたいな金属に反応するみたいなんだよね」

「え? では、仕舞った方が良いのでは? ……ああ、なるほど、それで装備化ですか」


 自問自答で、すぐに納得するブーディア姫。

 マジで理解が早い。


「うん、貴族級の防御力ならなんとかなりそうだったから」


 なるほど、とブーディア姫が頷いた、その時。


「ショウ、来たよ」


 姉ちゃんが、敵の襲来を告げた。

 窓を覗けば、そこには数頭のガンハウンドの群れが。

 ……この辺は、ガンハウンドの縄張りなのだろうか?


「噂をすれば影だね。アイギス、車を止めて。迎え撃とう。姉ちゃん、一体は生け捕りにして、他は倒して」

「うん」


 姉ちゃんは、車から飛び出すとスピード特化タイプに変身。瞬く間にガンハウンドたちを蹴散らすと、一体を生け捕りにした。


「まぁ……! なんて力強いお姿……!」


 ガンハウンドを捕まえて戻って来た、ミノタウロスモードの姉ちゃんを初めて見たブーディア姫が、感嘆の声を漏らす。

 この姿の姉ちゃんは、ちょっとインパクトがあったようだ。

 まぁ、悪い印象じゃなかったようで良かった。


「さて、じゃあ、掌握してない状態でブランクカードに仕舞えるか確かめようか」


 僕はショップからブランクカードを一枚買うと、それをガンハウンドへと使用した。


「……? あれ?」


 ……が、目の前のガンハウンドがカードに仕舞われることはなく、今も姉ちゃんの腕の中で藻掻き、虚空へと銃弾を放ち続けている。


「掌握してないと、カード化できないってこと……?」

「どうやら、そのようですね……」


 アイギスが掌握したAEMをカードに仕舞えたということは、掌握したAEMが物よりの存在であることに間違いないだろう。

 だが、掌握してないAEMをカード化できないとなると、掌握してないAEMは生物よりということ……なのだろうか?


「アイギス、このガンハウンドを掌握して」

「了解しました」


 姉ちゃんの腕の中で藻掻いていたガンハウンドが、ピタリと動きを止める。


「今は、取り込んでない?」

「はい」


 アイギスが頷くのを見て、僕はガンハウンドを再度カード化する。


「お、仕舞えた」


 ブランクカードに、ガンハウンドのイラストが浮かび上がっていく。

 ティアさんたちのそれと違い、何のステータスも書かれていない。

 つまり、掌握したガンハウンドは、カード化したモンスターカードにはならないと言うことだ。

 逆に言えば……。


「掌握してないAEMをカード化できたら、モンスターカードになる?」

「その可能性はあるかと。カードのシステム上、カード化に同意さえさせてしまえば、モンスターカードにすることは、可能なはずです」


 とティアさんは頷き、「もっとも」と続ける。


「それが実際にできるかは、別の問題ですが」」

「確かに」


 野生のAEMを捕まえても、カード化に同意させてモンスターカードにするのは困難だろう。

 できるとすれば、最初から人間に好意的なAEMを見つけた時くらいか?

 そんなAEMがいるのだろうか?

 いや、あるいは、最初から人間の手で、人間に忠実な存在として作りだせば、ワンチャンあるか?

 少なくとも、野生化する前の、人間の手で管理されていた頃のAEMは、みんなそうだったはず。

 ……その頃のAEMは、自我を抹消されていた、という可能性もあるけれど。


「とりあえず、このガンハウンドはどうしようか」

「それはアイギスに持たせておいたらどうでしょうか? カード化した物質は、カードと一緒に出し入れできるようになりますので」

「そうなんだ……ん? ということは、カードに何か武器とか持たせても、毎回呼び出す時に改めて渡さないといけない感じ?」

「そうですね。今私が着ている耐久スーツも、私を送還したらその場に残されると思います」


 そうだったのか……基本的に召喚しっぱなしだから気付かなかった。

 武器程度ならその場で渡せば良いけど、服とか鎧だと面倒だ。

 ゲーム的に考えると、アイテムをカードに正式に装備させるにはアイテムをカード化しなくてはならない、的な感じか。

 そうじゃないと、送還するたびに装備が外れると。


「でも、カード化したAEMをアイギスが取り込むとどうなるんだろ?」

「試してみましょう。アイギス」

「了解しました」


 カードからガンハウンドを出し、それをアイギスが取り込む。

 さらにその状態で一度アイギスを出し入れしてみた。


「どう? 何か違いはある?」

「……いえ、特には。ただ召喚の際に一緒に出し入れできるようなので、分霊を作成した際には最初から宿らせた状態で呼び出せるかと」

「なるほど、疑似的な眷属召喚のような形で運用できそうですね」


 アイギスの答えを聞き、満足げにティアさんが頷く。


「とはいえ、一体ごとに1000カルマを払うのは勿体ない上に入れ替えもできないので、基本的には収納スキルで保管する形としましょう。小型のAEMは収納スキルで常に入れ替えながら運用し、一点物や大型のAEMはカード化するという形がよろしいかと」

「そうなると、容量を圧迫しそうだね。今回の帰還門でティアさんの収納スキルをランクアップさせるか、アイギスに収納スキルを与えようか」

「そうですね。カルマの消費次第ですが、それもアリかと」


 そうと決まれば、さっさと帰還してしまおう。

 僕らはキャンピングカーへと乗り込むと、またAEMと遭遇しない内にシェルターを目指したのだった。



【Tips】カードの持ち物

 モンスターカードに持たせていた物は、収納スキルに入れた物以外は、送還の際にその場に残される。

 ただし、ブランクカードでカード化した物質(アイテムカード)ならば、そのままモンスターカードと一緒に召喚・送還が可能となる。

 この際、アイテムカードは、モンスターカード自身の意思で出し入れすることが可能であり、またモンスターカード間で受け渡しが可能となる。

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