第3話 ポストアポカリプス世界⑥


『はい。というよりも、すでに取り込んでおります』


 え? そうなの?

 思わぬアイギスの言葉に、僕はカードを呼び出すとステータスを見た。



【種族】電子精霊★

【戦闘力】0+120

【先天技能】

 ・電子精霊★:霊体、並列思考、高速思考を内包する。

 ・分霊作成★


【後天技能】

 ・従順

 ・秘書

 ・精密動作

 ・サイバー戦★


「おお~、戦闘力が増えてる!」


 姉ちゃんのリビングアーマーみたいに、戦闘力にプラスがついている。

 これは、取り込んだAEMアニマ・エクス・マキナの分だろうか?


「AEMを取り込めたってことは、AEMはカードのシステム的には物寄りってことかな?」

「そうですね、そう見てもよろしいかと」


 僕の言葉に、ティアさんも頷く。

 ということは……だ。


「もし強いAEMと遭遇しても、ブランクカードさえあれば、戦わずにしまっちゃうこともできる?」


 どんなに強くとも、物扱いならブランクカードでカード化できるだろう。 

 これは、AEMに限らず、強力な兵器とかでも同じはず。


「それは……その発想は、ありませんでしたね。試してみる価値はあるかと」


 僕のアイディアに、ティアさんも感心したように頷いてくれた。

 ちょっと嬉しい。


「アイギス、次にAEMと遭遇した際は、一体だけ掌握せずに残しておいてください」

『承知いたしました。また、こちらからも一つ報告があります』 

「報告?」


 なんだろう? と首を傾げる僕に、アイギスは少しだけ高揚したような口調で答える。


『AEMをカードに取り込んだ結果、弱くではありますが、DEMデウス・エクス・マキナと同様の力場を獲得しました』


 デウス・エクス・マキナの?


「取り込んだAEMにDEMの力場は?」

『もちろん、ありませんでした』


 AEMを取り込む前と後でアイギスにあった変化は一つ。


「つまり、DEMの力場は、戦闘力ってこと?」

「その可能性は高いかと」


 僕の言葉に、ティアさんとアイギスが頷く。

 戦闘力がゼロだった頃のアイギスには、DEMの力場は無かった。アイギスが取り込んだAEMにも、DEMの力場は無い。なのに、AEMを取り込んだアイギスにはDEMの力場が発生した。

 これは、カードのシステムがAEMの強さに合わせた力場を与えたということを意味する。

 アイギス曰く、DEMの力場は、物理法則を歪める力があるらしい。

 となると、戦闘力とは単純に身体能力の高さとかだけじゃなく、物理法則を歪める力そのものということなのだろうか?


「……考えてもわからないか。とりあえず、アイギスがAEMを取り込めば、DEMにもダメージを与えられるようになるってことで」

「ですね。また同種のAEMでも、アイギスが取り込んだAEMの方が優位に戦える可能性も高いです」


 ティアさんの補足に「なるほど」と頷く。

 DEMの力場がある分、同じスペックでも、アイギスが取り込んだAEMの方が結果的に頑丈になるのか。


「ところで、アイギスは戦闘力を得たようですが、バリアの方はどうなっていますか?」

「バリア?」


 ティアさんに言われ、自分の中のラインの力の流れを確認してみると。


「あれ? アイギスからは力の流れを感じないな」


 ライン自体は繋がってるみたいだが、彼女から流れ来るものを感じない。

 水の流れてない用水路って感じだ。

 なぜだろう? プラス部分はAEMによる加算で、アイギス本体はゼロのままだからだろうか?


「なるほど……もしバリアがあると力の半分がショウへと流れることになって、むしろAEMとしてのスペックが下がるのでは、と思いましたが杞憂でしたね」

「ああ、なるほど……」


 確かに、バリアの仕様を考えるとその可能性はあった。

 となると、アイギスからのバリアが無いのは、むしろ好都合なのかもしれない。

 と、そこで僕のウェアラブル端末が着信を告げた。ブーディア姫からだ!

 すぐさま出る。


「はい!」

『ショウさま? 動きが止まったようですが、何かありましたか?』


 なるほど、僕らの位置情報を確認して心配して連絡してきたのか。


「ああ、ごめんなさい、ちょっと敵と遭遇して」

『……敵と? 大丈夫でしたか?』

「もう倒したので大丈夫です。そちらは大丈夫ですか?」

『はい、こちらはそれらしいものとは遭遇しておりません』

「良かった。……敵については、合流してからで」


 ウェアラブル端末を見ると、ブーディア姫を示す光点はかなり近くなっていた。

 落ち着いてから説明した方が良いだろう。


『承知いたしました』


 ブーディア姫との通話を切り、キャンピングカーに乗り込みながら考える。

 ……あちらは、遭遇してないか。それは良かったが、僕らは遭遇して、彼女は遭遇せずに済んだ理由が気になる。

 たまたま、というよりは、僕らにAEMを惹きつけてしまった何かがあったと考えるべきだろう。

 考えられるものとしては……。


「このキャンピングカーか?」


 このキャンピングカーの音や、熱源。あるいは、金属そのものに反応したということも考えられるか。


「ねえ、アイギス。もしかして、AEMって金属に引き寄せられるとかってある?」


 僕の問いかけに、アイギスは少し考え込むような仕草を見せると。


『……人の管理化にあった頃はそのような性質はありませんでしたが、野生化した現在はあり得るかと。AEMは繁殖のために、金属を必要としますので』


 やっぱりか。

 となると、キャンピングカーでの移動は止した方が良いか?

 クソ、ようやくファンタジー世界と違って移動に使えるようになると思ったのに。

 なかなか上手く行かないな。

 とりあえず、ブーディア姫をシェルターに移送するまでは使うとして、それからはマジで学校に置いてきた方が良いかもしれない。

 どうせ、こっちで活動する間は、寝泊まりはシェルターですることになるだろうし。

 しかし、その場合、移動の脚はどうしようか。

 毎回、ティアさんに献身の盾で痛い思いをして守ってもらうのも胸が痛むしな……。

 こっちの世界の車を手に入れるとか、頑丈な金属で補強できたりしないだろうか?

 そこで、ふと閃く。

 補強、補強か。

 車をアイギスに取り込んでもらって、そこからブーディア姫の湖の乙女の装備化をアイギスにすれば、車も頑丈になったりしないだろうか?

 AEMたちの銃撃を受けてもティアさんが打撲で済んだように、多少の傷なら姉ちゃんが蹴破ったドアを今ティアさんが家事魔法で修復しているように直すことが出来るだろう(どうやら、キャンピングカーは家事魔法的に『家』の範疇に含まれるようだ)。


「試してみる価値はあるかな?」


 そうと決まれば、さっさとブーディア姫と合流してしまおう。

 そうして車を走らせること数分。

 AEMと遭遇することなく、僕らは無事にブーディア姫と合流したのだった。

 

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