第4話 三つの門③
向こうから、大柄で筋肉質な強面の男が歩いて来る。
剃り込みの入ったベリーショートの髪を金髪に染め、ワイシャツの代わりにタンクトップを着た、一目で不良だとわかる男子。
不良系のトップ、織田さんだ。
後ろには、自分の首を抱えた鎧姿の騎士デュラハンを連れている。
デュラハンの戦闘力は400。アマルテイアさんと同等の戦闘力を持ち、アマルテイアさん以上に戦闘特化型のスキル構成をした、校内でもTOP3に入るカードだった。
「あ、ああ……織田さん」
自分たちのリーダーの登場に、一気に挙動不審になる不良たち。
織田さんは、チラリと彼らが何をしているのかを見ると、不機嫌そうに舌打ちした。
「チッ、お前らなぁ――――」
「————そこで、何をしているんだ?」
織田さんが何かを言いかけたその時、新たな声が彼らへと掛けられた。
やって来たのは、長身で眼鏡を掛けた、頭の良さそうな感じの男子。
雑賀さんが、ポツリと呟く。
「あ、最上会長……」
生徒会長である最上さんの登場だった。
隣には、大型犬ほどの小さな赤いドラゴンを連れている。
見た目こそ小さいが、本来の姿は全長20メートルを超え、戦闘力も480という、校内でも最強のカードだった。
最上さんは、チラリと僕たちへと視線を向けると、すぐに織田さんたちへと向き直り、言った。
「何をしてるんだ?」
「あ~? なんだっていいだろ? お前は関係ねーだろ」
先ほどとは打って変わって、妙に喧嘩腰に答える織田さん。
……おかしいな、さっきは不良たちを止めるような雰囲気だったんだけど。
「関係はあるな。生徒会長として、イジメは見過ごせない」
「イジメ? お前イジメられてんのか?」
織田さんに凄まれ、イジメられていた男子がオドオドと呟く。
「あ、えと……イジメられて、ないです」
「だってよ?」
「それがイジメだと言ってるんだ」
狡猾にもいじめられっ子からイジメではないと自ら言わせる織田さんに、生徒会長の最上さんは一歩も引かない姿勢。
「ふん……自分がイジメられてるなんて決めつけられるのも、いじめと同じくらいミジメになると俺は思うがね」
「……………………」
「まぁ、いい。行くぞお前ら」
「ぁ、うす!」
織田さんが不良たちを引き連れ立ち去ると、イジメられていた生徒も、生徒会長さんをチラリと見て礼を言うことも無く去っていく。
生徒会長さんはそれを無言で見送ると、こちらへとやってきた。
「雑賀、ああいう時はすぐ注意するように」
「あっ、はい。すんません……」
「……まあ、子供連れだったから気を使ったのかもしれないが」
そこで生徒会長さんは僕を見ると。
「トイレの清掃中かな? いつも助かってる、ありがとう」
そうお礼を言ってきた。
相変わらずニコリともしない鉄面皮のままだが、その雰囲気はどこか柔らかく、腰をかがめ僕と目線を合わせてくれている。
「あ、いえ」
「何か困ったことがあったら、いつでも生徒会に言ってくれ」
生徒会長はそう言うと去っていった。
それを見送るなり、雑賀さんは僕へと言った。
「いや、俺もちょうど助けに行こうとしてたところだったんだよ? ただ生徒会長の姿が見えたから、そっちの方が良いかなと思ってさ。ホラ、君も連れていたし」
コイツ……。
思わず白い目を向ける僕から目を逸らすように、雑賀さんはイジメられていた人が立ち去った方向を見て言う。
「それにしても、菅原くんも可哀想に。せっかく星2のカードを引き当てたのに、グールじゃねぇ……」
「星2?」
「あ、知らない? 今、カードのランクを大まかに戦闘力で分けて、ソシャゲみたいに星の数でランク分けしてるんだよ。戦闘力100未満が星1、戦闘力100以上200未満が星2、そして生徒会長のドレイクみたいに戦闘力が200越えが星3って感じにね」
「なるほど……」
それだと、アマルテイアは星3ってことになるのか。
星1のカードを持つ割合は、全校生徒の九割ほど。星2が一割以下で、星3を持つのは校内でも数人程度って感じか。
「菅原くんのグールは戦闘力110だから一応星2になるんだけど、校内で冷遇されてるゾンビ系で、星2としても最低クラスの戦闘力だから……」
本来は強い側のグループに入るはずなのにイジメられている、と。
(なんだか、いよいよヤバくなってきたな……)
内心でため息を吐く。
ここに閉じ込められて一週間。いよいよ閉塞感がヤバくなってきた。
当初はあった「なんとかなるだろ」という雰囲気はもはや微塵も無くなり、「もしかしてずっとこのままなんじゃ」という悲観的な空気に満ちている。
そうなると頭にチラつくのが、残りの食べ物だ。
食べ物が無くなってきたら、これまでのトイレ掃除のことなんて忘れて、アマルテイアさん目当てに襲い掛かってくるだろう。
その前に、先生たちや生徒会の人たちには何か手がかりを手に入れてほしいが……調べられるところは調べ尽くし、残るはもうあの三つの門しかない。
結局、初日に門を潜った生徒たちは戻ってくることはなかった。
こうなると、先生に怒られるのが嫌だから籠っているとかじゃなくて、簡単に帰れないか、あるいはもう……という可能性しかないだろう。
見えている地雷であることは誰もが理解しているが、誰かがあの門を調べる必要がある。
問題は、僕を含めて「自分以外の誰かがやってくれ」と誰もが思っていること……。
このままでは飢え死になのはわかっているが、誰も自分からは動かない。
僕らは、まるで鍋の中でゆっくりと茹でられるカエルだった。
――――生徒会主導で、戦闘力100以上のカードを持つマスターたちが集められたのは、その夜のこと。
生徒会長の最上さんは、このままでは節約してもあと一週間程度で食料が尽きることを明かし、自分と共に門の調査に行くメンバーを募った。
ただし、命の危険があるため、決して強制はしない、とも。
考えるとして一晩与えられた結果、翌朝には総勢二十名による立候補があり、昼には調査隊のメンバーが発表された。
その中には、姉の名もあった。
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