第4話 三つの門④

「僕も絶対着いてくから!」

「ダメって言ってるでしょ!!」


 昼のグラウンド、三つの門の前で、僕ら姉弟の怒声が響き渡る。

 僕らは今、絶賛喧嘩中だった。

 原因はもちろん、姉ちゃんが勝手に調査隊の参加を決めたことだ。

 アマルテイアさんがいれば、最低限僕と姉、他数人程度なら飢え死にすることはない。

 何も姉ちゃんが危険な調査隊に参加する必要はないはずだった。

 僕はあの手この手で今からでも辞退するよう説得しようとしたが、これで結構ガンコなところがある姉ちゃんは、聞く耳を持たなかった。

 それなら仕方ないと、僕は逆に自分も着いて行くことにしたのだが、姉ちゃんはそれすらも拒否した。

 というか、むしろそちらの方に怒っていた。逆ギレである。


「僕も着いてく! 着いてく! 着いてく!」

「あーもう、しつこい! これ以上言うなら本気でブツよ!」


 姉ちゃんが、凄まじい目つきで僕を睨む。上唇が捲り上がり、食いしばった歯が垣間見えるその形相は、姉がマジ切れしている証であったが、僕は一歩も引かずに睨み返した。


「……ま、まあまあ、気持ちはわかるけど、その辺で、ね?」


 そこで婦警さんが、僕らの間に割って入った。


「ねぇ、ショウくん。お姉さんも意地悪で言ってるわけじゃないの。ショウくんが心配だから言ってるの。お姉さんが、危険な調査隊に参加したのだってショウくんのためなのよ?」

「……………………」


 そんなことわかってる、と僕は俯いた。

 姉ちゃんが、僕をこの事態に巻き込んだことに強い罪悪感を抱いていることは当然気付いていた。それが日が経つにつれて強まっていることも。

 だが、そんなこと姉ちゃんのせいでもなんでもない。だから罪悪感を持つ必要なんてないのだ。

 むしろ悪いと思っているのなら、一緒にこの校舎で調査隊が戻るのを待つか、僕も一緒に連れていってほしかった。


「ショウくん」


 そこで、生徒会長さんも声をかけてくる。


「君にはトイレ清掃の仕事もあるし、君のアマルテイアは、貴重な食料生産ができるカード。君だけじゃなく、食料系のスキルの持ち主には全員残ってもらっている。君がいないと困る人がいるんだ。お姉さんは、僕が命に代えても帰すから、大人しく帰りを待っててくれるかな?」

「私も本当は調査隊に参加したかったけど、治安維持のために残ることになってるし、一緒にお姉さんの帰りを待ちましょう?」


 かがみ込み、僕に目線を合わせて語りかける二人に、僕は思った。

 ああ、この人たち、僕を子供だと思って簡単に言いくるめられると思ってるな……と。

 もはや僕がどれだけ訴えたとしても、聞き入れられることはないだろう。

 少し、アマルテイアさんの力を見せすぎたか……。どうやら、僕らは、学校の維持に欠かせない歯車として組み込まれてしまったようだ。

 僕は、表情が見えないように顔を伏せると、ここは大人しく頷くことにした。


「……わかった」


 僕が渋々とではあるが頷いたことに、周りの人たちもホッとした顔をする。

 唯一、僕のことを良く知る姉ちゃんだけは疑わしそうに僕を見ていたが、慌ただしく動き出した周囲の雰囲気に流されたのか、特に何も言うことは無かった。

 門の前に整列した調査隊の面々と、それを見送りにきた全校生徒を前に、生徒会長が大声で呼びかける。


「事前に言った通り、今回の調査では、まず帰還を最優先目標とする!」


 調査隊のメンバーたちはコクリと頷く。

 たとえ食料など何も持ち帰ることができずとも、門から帰還できることが判明すれば、それだけで大きな成果だった。

 帰る方法さえあるのなら、二度三度の、そして大人数での調査も可能になるだろうからだ。

 なお、今回の調査では右側の門を調査することが決まっていた。

 理由は、特にない。初日に数人の生徒を吸い込んだきりの真ん中の門以外なら、左右のどちらでも良かった。

 真ん中の門に入った生徒たちの安否は気になるところだが、未帰還という前例がある門にまた行くほど、僕らに余裕があるわけではなかった。


「それでは出発する!」


 生徒会長が門へと触れると、再びあの虹色の空間が姿を現した。

 生徒会長は一瞬躊躇するような素振りを見せた後、意を決するように門の先へと飛び込んでいった。それに赤いドラゴンも続く。

 次に、織田さんが飛び込んでいき、それを皮切りにどんどんと門へと調査隊のメンバーが自分のカードと共に飛び込んでいった。


「じゃあ、行ってくるから。大人しく待っててね」


 最後に、姉ちゃんも僕の頭を撫でると門へと飛び込んでいく。


「……アマルテイアさん」

「はい。わかってます」


 小声で呼びかけると、返事が返ってくる。

 それを確認すると、僕は閉じかけた門へと駆け出した。

 

「あっ!?」


 婦警さんの動揺した声を背に、僕はアマルテイアさんと共に門へと飛び込んだのだった。



【Tips】カードのランク

 ソシャゲを参考にカードの戦闘力を星の数で大まかに区別したランク。

 戦闘力100未満を星1、戦闘力100以上200未満を星2、戦闘力200以上を星3としている。

 全体の割合は、星1のカードが九割近くを占め、星2が約一割、戦闘力200以上となる星3は校内でも数人程度。

 現状で、校内で最も高い戦闘力は、生徒会長の最上が持つ『ドレイク』の480。

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