第5話 扉の先①
————そして、時は戻る。
「……ター? ……マスター? 大丈夫ですか?」
「はっ……!?」
アマルテイアさんに優しく呼びかけられ、僕は我に返った。
あまりに衝撃な光景に、意識がどっかに飛んでいたようだ。
改めて燃え盛る街を見下ろす。
これは、本当に現実なんだろうか? 光の壁やらカードの存在も大概ファンタジーだが、これはまた規模が違うというか、ベクトルが違う感じで、とても現実のこととは思えない。
しかし、ガソリンが燃える臭いや、肌で感じる熱気、そして遠くから聞こえる誰かの悲鳴など、五感は確かにこれが現実だと言っていた。
とその時、ふと日本語で書かれたビルの看板が僕の目に留まった。
「ここは、日本、なのか……?」
ここが日本なら、父さんと母さんは、小学生の友達たちは……!
「はい。……ただしマスターたちの生まれた日本とは、別の日本ですが」
「ん?」
アマルテイアさんの言葉に、少し冷静になる。
僕たちの生まれた日本とは、別の日本? どういうことだ?
「マスターは平行世界という言葉はご存知でしょうか?」
「うん。SFとかで出てくる単語っていうか、概念だよね」
平行世界。簡単に言えば、自分が男として生まれた世界と、女として生まれた世界が並行して存在している……かも、という考え方のことだ。
「一言で言えば、ここはマスターたちの世界と良く似た平行世界です。そうですね、何らかの要因によって世界中にゾンビが現れて文明が崩壊しかけている世界、と考えていただければわかりやすいかと。三つの門は、文明レベルや法則は違えど、全てこのように文明が崩壊しかけているか、あるいはすでに文明が崩壊してしまった世界となっております」
「……ずいぶん詳しいね。門の先がどうなっているのか、知らないんじゃなかったの?」
にわかに沸き上がった警戒心と共に僕がそう問いかければ、アマルテイアさんは申し訳なさそうに頭を下げた。
「知らなかったのではなく、門を通るまで言えなかったのです。私たちも所詮は、システムに縛られた存在ですので」
システム、か。マスターのバリアや、マスターに危害が加えられないというカードのルールもシステムによるものなら、門を実際に通るまで門の先についての事について何も言えないというルールがあってもおかしくないのかもしれない。
まあ、今はそれについてはどうでも良い。それよりも……。
「姉ちゃんはどこ? 先に門を通った人たちが見当たらないんだけど……」
「最初に門を通った際は、ランダムに飛ばされることになります。まあ、ランダムと言っても、ちゃんと地面に足が着く場所で、周囲数十キロの範囲で、ですが」
つまり、みんな離れ離れになった、と。
「……高校に戻るには?」
「どこかにある帰還用の門を通れば戻れます。一度、帰還用の門を見つければ、次からはそこからスタートできますので、次からは姉君と共に探索できることも可能かと」
「そう……」
結局、姉ちゃんを探して、帰還用の門を探さなきゃいけないのは変わりないわけか。
「……………………」
ギュッと胸を握りしめる。心臓がバクバクと言っているのがわかる。
足がカクカクと揺れる。呼吸が浅くなる。ズンとお腹の下あたりが重くなる感覚。
背中からじっとりとした汗が浮かんで、Tシャツが身体に張り付く。
(なんだ、これ……なんか急に……)
怖い。息が苦しい。寂しい……!
姉ちゃんと一緒の時は感じなかった不安とか恐怖が、急に襲い掛かってきて、僕は一歩も動けなくなった。
と、その時、ふわりと柔らかいものに頭が包み込まれた。アマルテイアさんに抱きしめられたのだ。まるでミルクのように甘い匂い。
「大丈夫、大丈夫ですよ。私がついています」
「アマルテイアさん……」
「マスターのことは、私が命に代えても守ります。……門の先について何も言えなかった私のことなんて信じられないかもしれませんが」
「ううん、そんなことないよ」
僕は彼女から身体を離すと、まっすぐ見つめて言った。
アマルテイアさんは、これまで片時も離れずに僕を見守って、色々と助けてくれた。
そんな彼女を信じられないようでは、僕はこの先、この世界を生き抜いていくなどできないだろう。
「さあ、行こう。姉ちゃんを探さなきゃ」
年下でも子供でも、僕は男なんだ。姉ちゃんは、僕が守らなければ。
【Tips】初等魔法使い
攻撃・回復・補助・状態異常の四種の魔法を扱うことが出来る複合スキル。家事魔法などの系統外の魔法は含まない。
魔法系のスキルは、初等、中等、高等の三段階に分けられており、初等は最も基礎的かつ効果も低いものとなるが、四種すべての魔法を扱えるとなると、その対応力は決して馬鹿に出来ない。
四大魔法すべての基礎を抑えたことにより、魔法系スキルの習得速度が上がり、消費魔力も若干軽減される。
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