第3話 黄泉竈食(ヨモツヘグイ)③
昼食を終えると、僕は学校の探検をすることにした。
真っ先に向かうのは、やっぱり何と言ってもグラウンドの三つの門だ。
どこかへと生徒たちを連れ去ってそれきりの謎の門は、恐ろしくも、好奇心を刺激する存在であった。
僕が色々調べたいと言うと、一人で行動させるつもりは無いのか、姉ちゃんやアマルテイアさん、それにシズさんと婦警さんもついてきた。
あるいは、みんなも内心では門が気になっていたのかもしれない。
そうして、みんなで門のところへと向かってみれば、そこは大勢の生徒で人だかりとなっていた。
「みんな考えることは同じみたいね」
門の前の人だかりを見て、姉ちゃんが言う。
門の前では、先生や生徒会の腕章をつけた生徒たちがロープを張ったりして、野次馬を近寄らせないようにしていた。
まぁ、さっき入っていった生徒たちも戻ってきてないのだから当然だろう。
仕方ないので、遠目に門を観察してみる。
まず校舎から向かって右側にあるのが、なんだか鳥居のようなマークの文様が描かれた銅色の門。
左側には、なんだか機械的なラインの走る銀色の門があり、そして中央には先ほど生徒たちを飲み込んだままの金色の門がドンと鎮座していた。
「あのマークや門の色には、何か意味があるのかな?」
「さぁ……?」
しばし門を観察してみるも、特に何も起こらないのでその場を離れてみることにする。
今度は、正門……光の壁のある辺りへと向かうことにした。
やはり光の壁の辺りにも生徒たちが集まっていたが、こちらは学校全体を取り囲んでいることもあり、特にロープも張られておらず、先生や生徒会の人たちも近寄るのを止めていなかった(というか、出来ないと言うべきか)。
そんなわけで、幾人かの男子生徒が光の壁に石を投げたり、自分のカードに魔法で攻撃させたりしていた。
不思議なことに、投げた石は光の壁に当たると消え去ってしまう。
カードが放つ光や炎の弾とかも同じだ。
……もし消えてるんじゃなくて光の壁の向こうに行ってるのが見えないだけだったら、壁の向こうに人とかいたら大変なことになっているんじゃないだろうか?
突然こんな光の壁が現れて、学校の外でもきっと騒ぎになっているだろう。
マスコミなんかも取材に来てそうだし、その人たちに石やら魔法やらが当たってたりするんじゃないだろうか?
そんなようなことを考えていると、しびれを切らした不良っぽい男子生徒の一人が、自分のカード……ゴブリンへと言った。
「おい、ちょっとあの光の壁に体当たりして来い! もし向こう側があるなら、すぐに戻ってこい!」
え? そんなことして、大丈夫なの? そのまま蒸発して消えちゃったりしない?
と僕が思っている間に、ゴブリンは頷くと、そのまま光の壁へと走っていって……。
「消えちゃった……」
そのまま姿を消した。
数秒ほど経って、友人らしき男子生徒が、ゴブリンのマスターへと言う。
「おい。戻ってこねーぞ。お前のゴブリン、死んじまったんじゃねぇか?」
「いいよ、別に。あんな雑魚」
「それは、ちょっと酷くね……? お前の言うことも良く聞いてたじゃん」
「うるせーな。つか、そんなことより、この光の壁もヤベーことがわかったな。織田さんに報告しねーと」
……酷いな、いくら気に入らないカードだったからって。
僕は、眉を顰めた。
とはいえ、あのゴブリンの尊い犠牲のおかげで、この光の壁のヤバさがわかったのは、確かだ。
光の壁に触ったら消えるかもしれないというのは、みんなにも知らせるべきだろう。
「あ、おい! アレ!」
と、その時、ふいに誰かが声を上げた。
彼が指さす方向を見てみれば、そこにはこちらへと向かって走ってくるゴブリンが。
あれは……もしかして、光の壁に体当たりして消えたゴブリンか?
「お前、俺のゴブリンか? どこから戻ってきたんだ?」
ゴブリンのマスターが驚いたように問いかけると、ゴブリンは光の壁のちょうど反対側を指さした。
ゴブリンのマスターは、それに少し考えこむ様子を見せると、財布を取りだし、それを光の壁へと投げつけた。
「おう、拾って来い」
ゴブリンは頷き、光の壁の向こうへと消えていく。
そして再びゴブリンは、光の壁の反対方向からやって来た。
その手に、財布を持って……。
「決まりだな。どうやら、この光の壁は、反対方面と繋がってるらしい」
「どういう仕組みだよ、ワープか?」
確かに、光の壁を突き抜けたら反対方面に繋がっているなんて、明らかに物理法則に反している。
……まあ、今更と言われれば今更ではあるけど。
「さぁな……一つ確かなのは、俺たちは当分ここから出られそうにないってこった」
ゴブリンのマスターの、その斜に構えたような言葉は、いやに周囲に響いたのだった。
【Tips】スキル
カードが持つ特殊な能力。
その種族が共通して持つ先天スキルと、そのカード自身が個別に持つ後天スキルが存在する。
先天スキルは不変だが、後天スキルは修練や経験を積むことで新たに取得・変化が可能。
スキルの中には、持ち主にプラスの影響を及ぼすスキルだけでなく、マイナスの影響を及ぼすスキルも存在する。
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