第2話 カード③ 



「まず第一に」


 アマルテイアさんがピンと指を立てて言う。


「カードは、自分のマスターに危害を加えることはできません。これは、悪意のないじゃれつきやマスターへの危害をあえて見逃すといった行為も例外ではありません」


 ふむふむ。カードはマスターに危害を加えられない、と。


「次に、カードを召喚している間、マスターにはカードによるバリアが張られ、マスターが受けたすべてのダメージは、カードが肩代わりします。ですので、この後カードを送還する方法を教えますが、今しばらくは送還しないでください」

「う、うん」


 マスターのダメージはカードが肩代わりする……。これが本当なら、カードがマスターに危害を加えられないというのも本当だろう。マスターへの攻撃は自殺行為だからだ。


「とはいえ、カードはマスターに絶対服従の存在というわけではありません。マスターに危害を加えることはできませんが、命令を聞かなかったり、嘘や本当のことを隠したりすることはあり得ます。重々ご注意ください」

「……その、それはアマルテイアさんも?」


 僕がそう問いかけると、アマルテイアさんは良く出来た生徒を褒めるような笑みを浮かべ、頷いた。


「ええ、もちろん。私も当然嘘を吐いたり本当のことを隠したりができます。気をつけてくださいね」


 そう言う彼女だったが、それを正直に言うくらいだし、少なくとも彼女のことは信用しても大丈夫そうだ、と僕は思った。


「最後にカードの召喚と送還方法をお教えします。これはカード……ステータスの書かれたカードを出した状態で、召喚か送還を強く念じるだけです。簡単でしょう?」


 なるほど、と頷き返す。もちろん、先ほど言われた通り、彼女を送還したりしない。

 だが、婦警さんはそれを聞いてさっそくとばかりにカード……送り狼を送還してしまった。

 どうやら一秒でも早く消したくてしょうがなかったようだ。……まあ、威圧感があるからね。警察官というこの状況で頼れそうな大人がいるのに、これまで特に誰も声をかけてこなかったのは、威圧感をまき散らす送り狼がいたのも大きいだろう。

 その証拠に、送り狼を消した途端、ワラワラと婦警さんに女子が集まり、彼女はその対応に追われるようになった。

 それを尻目に、僕は姉ちゃんへと言う。


「ねえ、姉ちゃん。クラスの人にもカードのこととか教えた方が良くないかな。ステータスカードの出し方とか、バリアのこととか」

「あ、そうね。戻した方が良いカードもいるだろうし」


 姉ちゃんは、教室の片隅にそのマスターごと追いやられた見た目(あるいは臭い)悪い系のカードをチラリと見て、頷いた。

 その後、姉ちゃんがクラスメイトたちにステータスカードの出し方等を教えると、誰からともなくステータスカードの見せあいっこが始まった。

 やはり、高校生であっても自分のカードの強さが気になるものなのだろう。

 僕は子供の特権を利用して、クラスの人全員のステータスを見て回った。

 女子は僕が子供ということもあり無条件に快く教えてくれ、男子についても僕が姉小路あねこうじ 風花ふうかの弟ということを知るとやはり教えてくれた。

 姉ちゃんは身内の贔屓目を抜きにしても美人でスタイルも良く、明るい性格をしているので良くモテる。

 姉に気がある年上の男子が、僕にそれとなく親切にしてくれるのは、昔からよくあることだった。

 そうしてクラス全員のカードのステータスを確認した結果判明したのは、それぞれのカードの戦闘力やスキルには大きな差があることだった。

 このクラスの中では、一番低いのでスケルトンの戦闘力10、一番高いのがアマルテイアさんの400で、その半分程度の姉ちゃんのリビングアーマーですらクラスで上位三名に入る。

 また各戦闘力の分布も、戦闘力が低いほど割合が多くなり、以下の通りとなった。


 ・200以上:アマルテイアさんのみ。

 ・100以上200未満:約一割(3名)+婦警さん ≪オーク、グール、リビングアーマー、送り狼≫

 ・50以上100未満:約四割(13名) ≪ピクシー、コボルト、ゾンビなど≫

 ・50未満:約五割(16名) ≪フェアリー、ゴブリン、スケルトンなど≫


 先天スキルに関しても、戦闘力が低いほど数が少なく、アマルテイアさんが四つもあるのに対し、50未満のカードはどれも一つしかなかった。

 その一つしかないスキルも明らかに強そうではなく、どうやら戦闘力50未満はソシャゲで言う星1とかノーマルと考えて良さそうだった。

 それで言うと、アマルテイアさんはSSRあたりだろうか? やはり僕は大当たりを引き当てたようだ。


「おいッ! アレ!」


 そんな風に僕が情報収集に勤しんでいると、突然、窓際から声が上がった。

 見ると、数人の男子が外を指さして騒いでいるようだった。

 何事だろうと、姉ちゃんと共に窓際へと向かう。

 すると、何人かの男女が門へと近づいていくのを見つけた。

 どうやら怖い者知らずの生徒たちが、好奇心に負けて門を調べに向かったようだった。

 先頭の一人が三つの門の内、真ん中の門に触れると、ゴゴゴゴ! と重たげに扉が開いていく。

 門の向こうは、虹色に発行しており、その異様な光景に誰もが息を呑んだ。

 明らかに、通ったら無事に済まなそうな雰囲気だ。

 それを感じ取ったのか、やんちゃな生徒たちも門を前に怖気づいている様子。


「おーい、お前ら! 何をしとるか!」


 そこで、血相を変えた男の先生が校舎から飛び出してきた。

 体育の先生なんだろうか? 陸上選手みたいな綺麗なフォームでグラウンドの生徒たちの元へと走っていく。


「ヤベッ!」「行くぞ!」「あ、ちょっ!? 待て!」


 先生の形相にビビったのか、門へと飛び込んでいく生徒たち。

 先生が門の前に駆けつけた時には、彼らは一人残らず門の向こう側へと行ってしまった。

 途方に暮れたように立ち尽くす先生の前で、門がゆっくりと閉まっていく。



 ……それきり、生徒たちが戻ってくる様子はなかった。






【Tips】カード

 神話や伝承上の存在を呼び出し、使役することのできるカード、および、カードから呼び出された存在。

 カードを召喚している間、そのマスターにはバリアが張られ、すべてのダメージをカードが肩代わりしてくれる。

 そのため、呼び出されたカードは、マスターに危害を加えることは出来ないが、絶対服従の存在ではない。

 部外者であったショウや婦警を含め学校に居た全員に一枚ずつ与えられているが、その種族も能力も大きく差がある模様。

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