月の想いが満ち欠ける季節に。
陽奈。
第1話:始まる脅威、終わらない悪夢
私の名前は
高校と言っても普通とは違う。近しく言えば自衛官学校。
自衛官候補生もしくは対電波放送局局員を育成する機関としての学校である。
対電波放送局とは、去年まで脅威となった
私は学生の身ながら局員である。
とある親友のおこぼれ。
親友が犯した校則、軍規違反の結果専属メカニックとしての私は軍属となった。
長い長い戦いの果て、私は親友を2度失った。
1度目は裏スカイツリー事変と呼ばれる虚数世界での戦い。これにより、親友を奪還することに成功した。
2回目は東京事変。
我々人類が便利を求めた地上デジタル放送は
その毒によって女王は理性を失い暴れ回った。
人類にも話の分かる
願いは全
私達はその目標に向かい事変に挑んだ。
結果、女王を打ち倒す事に成功。
奴らは光の粒子となり消えていった。
そして私の親友、
彼女は
私はその事実を、いや、未来が消えてしまうという結果をその時まで知らなかった。
抱き合い泣きあい、消えていった。
こうして私は心に消えることのない傷を残した。
東京事変から今日まで6ヶ月。私を支え、突き動かしてくれたのは未来が残した懐中時計。
これだけを頼りに今を生きている。
蓋裏には二枚のプリクラ。
未来とその親友だった今は無き
そして、夏休みを取ることができない私達を気遣い、局長
4人で撮ったプリクラが貼り付けられている。
未来には太陽。私には月のスタンプ。
未来がいたから私は輝けた。
毎日蓋を開け思い出に浸る。
忘れてはいけない。もう1人。
夏休み後に部隊に編入になった
彼女も未来との思い出に囚われている。
そして餘目曹長は右脚、噛崎1曹は左腕を先の東京事変で失った。
今私は局の地下基地格納庫の最奥。対終末決戦兵器新造参式人型装機の前に体育座りで座っている。
これは先の東京事変で未来が駆っていた機体。
故に唯の人間である私達には過ぎた代物。
その為BPOより、東京事変解決をもって永久凍結処分となり、格納庫最奥に磔にされている。
動かして少しでも有益な情報を引き出せないものか……そう思ってはいたが。未来は起動キー……生徒手帳無しに起動した。
それを機体が覚えており、その他一切の手帳を受け付けず、沈黙するのみとなった。
「ねぇ未来。貴女は何故参式を遺したの?何か意味はあるの?」
質問の答えは返ってこない。虚しい。
事実は小説よりも奇な様だ。
未来と一体化した参式も誰の呼び掛けにも応えない。
ロックボルト。拘束具で磔にされてるからだろうか。
それともAIが、戦いを求めているのに戦えないから拗ねてるのかな。
わからないなぁ。
私は
まぁ、操縦課に転向になってからは突貫メンテ等重要な場面でしか呼ばれない。
かつて5人居た
未来を失い、手脚を失った餘目曹長と噛崎1曹。
局にはこれしか居なかったのに。
今は
だから
私の……未来の訓練機と、副長の汎用機。
はぁ。見つめていても仕方ない。戻ろう。
格納庫ベンチに戻る。
そこには餘目曹長と噛崎1曹が来ていた。
2人は今義手・義足のリハビリ中。
兵士として、まだ
現在最高性能の義肢。オーダーメイド。
6カ月のリハビリを経てかなり動けるようになったらしい。
早くて来月からシミュレーターに復帰するとのことだ。
現在福岡重工では新造実戦肆番機と同伍番機が急造中らしい。
英霊AIはアクタガワに保存済み。完成次第インストール作業に入る。
汎用機とは違う実戦機。特別仕様の
遂には伍番機迄来たか。
何番まで建造すれば戦いは終わるのだろうか。
いや、戦いは終わったんだ。造られる実戦機は災害派遣に充てられる。
汎用機で良かったものだが、
英霊AIという技術を無くさない為建造が始まったらしい。
大地震や、洪水等、
瓦礫を取り除いたり、冠水道路を走ったり。
災害時は大活躍だ。
基本武装は凍結。使用機会がなくなったため。
内蔵武装の頭部チェーンガンは弾を抜き、高周波ナイフは瓦礫撤去等に使うためそのまま装備。
ただし振動の使用は禁止。
対電波放送局は事実上解体である。
私達は
「私達はどうなるんですかねえ。」
乙女①。
「可能ならば兵士として……と言うのはおかしいな。平和が一番だ。」
乙女②のらりくらり。
「ボクもまだ完全じゃない。流石に
平和を噛み締める。
嗚呼、これが日常。こうして課業して、一日を終えるんだ。
忘れていたな。
忘れて……。
「全館通達!
――――――――――――――――――――
錦糸町発令所。
陸上自衛隊に吸収合併される為、発令所では片付け作業が続いていた。
そんな中、アラートが平穏な時間を引き裂いた。
「これは東京スカイツリーではありません!
御園生局長は立ち上がる。
「日本中の電波塔にハッキング。パッシブ・アクティブにて索敵!アクタガワフル稼働、原因究明を最優先に!」
了解、と局員は作業にとりかかる。
「札幌からテレビ塔、感無し!」
「次いで名古屋テレビ塔感無し!」
「さらに福岡タワー、こちらも感なし!」
「……ありました!松江・米子 テレビ・FM放送所より感!東出雲町にて
発見した。宇宙から始まり、日本全国を探し回った。
そして発見。場所は島根県東出雲町。
東京を遠く離れ島根で発生した。
状況はすぐさま上、
「東海林副長ごめん、全館指揮権委譲。後を任せます。私は急ぎBPOへ向かいます。」
「うん、わかった。……して、局長。封印中の参式に反応があったそうだ。稟議してきて欲しい。出すのか否か。」
「参式が?沈黙を守っていたのに?……ええ、分かったわ。すぐ行ってくる。それじゃ。」
局長はドアを開け発令所を出ていった。
東海林副長は局長席を降り、戦術作戦課へと向かう。
そこでは情報収集を、行う戦術作戦課の局員と、それを睨みつける玄月2尉が居た。
そこに砲雷課CICから
「玄月、兼坂。進んでるか?敵はなんだと思う。
眉間に皺を寄せ答える。
「どうでしょう、正直現在の材料では確信には至れません。」
「更にはもし島根で戦闘になればCICはほぼ無力。火力支援は出来ないに等しくなります。」
東京を、遠く離れ山陰島根での反応。
浸蝕短SAMは最大飛距離以遠。東京タワーがギリギリだと言うのに島根まで届くはずがない。
となれば短距離弾道ミサイル……にはなるが。
錦糸町なんて言う街中で打ち上げられる大きさじゃない。
連射も効かない。手詰まりである。
「局長がBPOから戻り次第……にはなるが、現地調査をさせよう。補装具にもなれ通常訓練に戻りつつある。彼女等に行かせよう。しかし、使える機体は汎用機のみ。訓練機は定期オーバーホール。肆、伍番機は未だ急造中。参式は凍結。困るな。」
先の大戦での喪失。そして重なった定期オーバーホール。
巡り重なる悪い運。
「いざとなれば鐘倉君を汎用機に乗せましょう。念の為癖の書き換え作業入れときます。」
そうだな、と副長。
「整備課局員へ通達。汎用機の癖の書き換え作業を大至急。対象は鐘倉3曹。凍結中だが、装備はフルセット。弾薬も込める事。以上。」
そこに最初の放送を聞いた3人の
義足の餘目曹長に合わせて歩いてきたのだろう。
到着。そして開口一番が、
「
まずは落ち着かせる。
現状を事細かに説明する。
納得が得られる迄幾度も丁寧に。
「ではなにか。正体不明の敵、それも出現すら分からない。で、我々に現地調査と?」
「そうだ、だが局長が帰ってから本指示を出す。あくまで有り得る可能性として準備をしているということだ。一応即時待機していてくれ。生命維持装置の観点から全員パイロットスーツ。かつ、20式も装備してくれ。」
「了解した、戻るぞ2人とも。」
そこで食いかかる1人の、少女。
格納庫で起こったことを、確認したいという。
「参式が!起動しました!とても苦しそうに……。あれも凍結のままですか?」
「……そうだ。済まないがあれは我々が決められることでは無い。」
そうですか。と、肩を落とす。
3人はゆっくりと更衣室へ戻って行った。
眉間を抑える。
分かっている。あれほど強力な兵器はない。
だが、城未来なしでは起動しない。
起動しても封印されているからこちらからコンタクトが取れないんだ。
早く帰ってきてくれよ局長。
――――――――――――――――――――
3時間後。
BPOから局長が、帰局。
上の決定を持ち帰った。
「お待たせしました。まず
想定したものほぼそのままだった。
となれば話は早い。準備は終わっている。
「全館通達。汎用機をホイストにて輸送車に固定。
一気に館内が慌ただしくなる。
発令所では在来線、新幹線の駅退避時刻の準備。
格納庫では汎用機の積み込み作業。ドローンも可能な限り詰め込む。予備弾倉含め。
そして乗り込む人員の準備。旅客車両へ乗り込む。
続投の咽喉マイクとイヤホンを装備。
無線が割り込んでくる。
「皆さんお疲れ様です。皆さんはまず東京駅を目指しそこから東海道新幹線で岡山。その後JR伯備線にて、安来まで。更にそこからJR山陰本線にて揖屋を目指します。目的地は古事記にて黄泉の国と繋がるとされる場所
黄泉比良坂……。聞いた事くらいはある。
伊邪那美命が
悲しんだ伊邪那岐命は伊邪那美命に会いに黄泉比良坂へと足を運んだ。
遂に再開した2柱の神。一緒に帰ろうと願う伊邪那岐命に、
「黄泉の国の神々に相談をしてくる。決して私の姿を見ないで欲しい。」
と願い出る。
最初こそ待っていた伊邪那岐命も、なかなか戻らない伊邪那美命の約束を破りしびれを切らし火を灯してしまう。
そこに居たのは醜く腐りきった姿の伊邪那美命。
怒った伊邪那美命は
が、時間稼ぎとして投げた葡萄や筍を食べるのに気を取られ役に立たなかった。
代わりに雷神と鬼の軍団・黄泉軍を送り込むが伊邪那岐命は黄泉比良坂迄逃げ延びそこに生えている桃の木、その実を投げつけ追っ手を退ける。
最後は伊邪那美命自身が追いかけてきたが、伊邪那岐命は千引の岩(動かすのに千人の力が必要な巨石)を黄泉比良坂に置き道を塞ぐ。
怒った伊邪那美命は、
「1日に1000人の人間を殺す。」と言い、
対して伊邪那岐命は、
「1日に1500人の子を産ませる。」と返し2柱は離縁した。
私が覚えてる限りではこれくらい。昔古事記を読んだから少し覚えている。
今回の目的地は他でもない。そうあの黄泉比良坂だ。
何が待っている?あそこは黄泉と顕界の境だぞ。
反応があった、黄泉比良坂に。それが何を意味する?
天道・人間道・修羅道・畜生道・餓鬼道・地獄道。
全てを巡り再びこの世に戻ってきたのか?
考えが纏まらない。
あれは人間の死後の世界の話だ。
果たして奴らに通づるところはあるのか?
謎は深まるばかり。
だとすれば、未来も来ているのだろうか。
会えるのならば……なんて、これは御伽噺だ。
期待するだけ無駄だろう。
全員の乗り込みが完了する。
「それでは江都東京を遠く離れ島根まで実地調査、よろしくお願いします。鉄道輸送開始!」
「了解、輸送開始。各鉄道会社・ホームへのアナウンス開始。」
まずは東京駅まで通常輸送される。
駅から電車に乗れば良い、と思うかもしれないがこちらはフルセット、小銃まで装備している無用な混乱を避ける為専用の旅客車両で輸送される。
銃なんて持った人が車両にいたらそりゃこわいだろう。
東京駅でも東海道新幹線の先頭車両を局が貸し切っている。
車輪のロックが外れ、ゆっくりと加速していく。
「続いて汎用機発進。ロック解除。」
後を追うように汎用機が加速する。
地上駅、JR錦糸町駅を横目にさらに加速する。
一路首都中央東京駅を目指す。
――――――――――――――――――――
秋葉原駅。
総武線5、6番線ホーム中程に停車する。
そのままレールは回転しながら下降、3番線首都環状山手線ホームと切り替わる。
鉄道信号は進行に変更。出発する。
ホームが元に戻り、汎用機を乗せ再度下降する。
そうして私達は東京駅に向かった。
――――――――――――――――――――
首都中央東京駅。
事前の退避放送や地上員の働きで東京駅はほぼ無人。
“あの”東京駅が無人なのだ。
5番線に旅客車両は到着。
ホームにて待ち受けていた地上員の誘導で東海道新幹線ホームへ向かう。
新幹線ホーム18番線に12時12分発のぞみ31号博多行きが停車している。
駆け足で先頭車両へ向かう。
貸切の先頭車両へ乗り込み席へ着く。
定刻。ドアが閉まりゆっくりと加速。
「鉄道のダイヤはかなり緻密。それに合わせる発令所も凄いですね。走る時間も考えてピッタリでした。」
「メインシステム、アクタガワあっての事だろう。あれはスーパーコンピュータ富岳の次点との噂だ。」
「ボクも、聞いたことある。局にはふたつの超人的頭脳が存在する。局長とアクタガワ。局を支える全てだと。」
恐ろしいな。未来も大概だったが、うちの局はそんなにも力を有していたのか。
反乱分子と見なされれば自衛隊は黙っていないだろうな。
水筒に口をつける。緊張で喉が乾く。
JR東日本に通達している為車内販売は来ない。
巡回も訪れない。
本当の貸切だ。
窓に頬杖をつき外を眺める。
未だ都内。高層ビルが建ち並ぶ。
途中在来線ともすれ違う。
普通に談話する女子高生がホームに佇む。
私も学校が違えばあっち側だったかもしれない。
それが今では小銃まで携えて、軍人だ。
父にも、母にも言えてない。
ただ整備士になる学校としか。
言えないよなぁ……。
時折手紙は出している。
調べれば自衛官学校だってすぐ分かる。
きっと分かってて黙ってくれてるんだろう。
ありがとう。
間もなく品川とのアナウンスが入る。
旅行だったら楽しいのにな。
局をあけられない。
仕方ないことだ。また局長がパーティーでも開いてくれるだろう。
そっと懐中時計を取り出す。
蓋を開けシールを眺める。
2枚のプリクラ。
どちらも未来の思い出。
あれから毎日身につけている。
未来から託された想い。
一日たりとも欠かさずに。
「あれ、それボクいないやつじゃん〜。混ざりたかったなぁ。」
「未来は……無理ですが、次はみんなで撮りましょう?ね?」
のらりくらりは気にしているらしい。
配属時期の問題でプリクラに混ざれなかった事を。
「ふふっ、きっと餘目さんも撮ってくれますよ。ダメなら局長命令です!」
通路側に座る餘目曹長も反応する。
「そんな命令無くても撮ってやる。……その、仲間だしな。」
顔が赤い。恥ずかしかったのだろうか。
そういえば、
「私、例の新幹線アイス食べてみたかったんですよね。乗る機会ないし、ダメでしょうかね?」
「だそうだが?発令所。どうする?」
しまった、無線が開きっぱなしなの忘れてた。
聞かれてるじゃないか。
しばしの後返事が来る。
「その仲間の為に買ってきてあげなさい遥。装備を全て席に置き車内販売まで行ってらっしゃい。それくらい構わないわよ。」
了解と、餘目さんは装備を外し始める。
「あの、バニラで!(ボクいちご〜なかったらバニラ〜。)」
パイロットスーツのみになる。これでも充分目立つが。
わかったといい、後方車両へと向かっていった。
巷で有名なアイス。
硬すぎてスプーンが刺さらないらしい。
割と近くに居たのか直ぐに帰ってきた。
アイスと……ジュース?
私にコーラ。
コーラフロートにしろと?
「岡山は遠い、喉も乾くし水筒はこの後歩行でも使う、今はこれを飲め。好みが分からないから適当だが。」
噛崎さんは緑茶。うん剣士らしい。
で、私はコーラ。何故!嫌いじゃないけど何故!
餘目さんは水……。ほんと何故。
「あの、なぜ私だけ炭酸……?」
「なんか、整備課は休憩にポテチとコーラのイメージだったからだ。間違ってるか?」
間違ってるよお……。それ一部の人だけー!
でもせっかくだから頂こう。
炭酸なんて久しぶりだよ。普段飲まないもん。
でもその前に。
アイス!
蓋を開けスプーンを突き立てる。
凄い!本当に刺さらない。
ものすごく硬い。
満足。これがやりたかった。
溶けるのを待つ間にコーラを1口。
冷えてるから炭酸がきつい。でも美味しい。
“鶴見神奈川後にしてゆけば横濱ステヱシヨン。
湊を見れば百船の煙は空を焦がすまで。“
現在新横浜を通過。
こんな歌知ってる人居るのかな。
私は知ってるけど。
東海道新幹線に乗ってる事だし、歌でも考えながら過ごそうかな。
「横須賀行きは乗換と〜♪」
「あら、鐘倉さんご機嫌ね。それにまた随分と古い歌を……。意外ね。」
声に出てた……。
局長は知ってるのか。流石。
隣のふたりは……。
「ねぇねぇ何歌ってたの?」
「鐘倉さん、作戦待機中とは言えなかなかの度胸だな……。歌うか普通。」
ですよね。知らないですよね。
その通り、輸送中に浮かれていたのは私です。
そこで指摘が入る。
「所で鐘倉さん。その歌、東海道新幹線では無く、“東海道本線“の歌よね?横濱だって新横浜じゃないし、横須賀通らないし。次名古屋だし。」
ばれてるう。
詳しすぎるでしょ局長。
しかもこれ発令所はもとい、今同乗してる地上員の方々も聞こえてるんだよね?
恥ずかしい!
「局長詳しすぎませんか!?私より少し年上位ですよね!?この歌相当古い上に鉄道事情に詳しすぎて……。」
「ハイパーサイメシア。私は覚えたことを忘れないのよ。過去に局で打ち上げしてね、それを歌った“副長“が居るんですよ。歌はそのせい。終点まで付き合ったわ。66番まで。鉄道に関しては我が機関は鉄道輸送を主としますから、最低限の知識ってところでしょうか。」
な、なるほど。
副長鉄道好きなのかな。
赤らめた頬を隠すように窓の外を眺める。
珍しく薄霞む新横浜を横目に新幹線は進む。
そういえば自衛隊ではなく局として現地派遣になった。
「あの、局長。局解体は無くなったのでしょうか?」
「ああ、その事ね。BPOは今回の感の結果次第で局として対処を続けるか、陸自合併かを判断するらしいわ。それまで保留。」
そうか。
黄泉比良坂で発された感。これが
坂を登り
ほんと……未来には会いたい。奴らには会いたくない。
けど味方してくれた個体もいるから全部が全部じゃない。
それに、敵として戦ったのも毒された女王の命令。末端に悪意は無いかもしれない。
女王が蘇る。黄泉返る。それだけは避けたい。
急げ、直ぐに確認するんだ。
――――――――――――――――――――
島根県松江市東出雲町。
揖屋駅を降り、用意された陸上自衛隊輸送防護車に分乗した。私はすぐさま汎用機を起動し並走。
錦糸町を出てから7時間、電車に揺られここまで来た。
初めて東京の外に出たかもしれない。
家族旅行の記憶は無い。
ましてやこんな西の方まで。
電波は近くの基地局を経由し拾っているので充電もバッチリ。
特別仕様の陸自輸送防護車が電波の中継を行い、山中でもバッチリ
緊急事態宣言を出てないから車道を普通に車が走っていた。
自衛隊車が走るのはまぁ珍しくはあるだろうが無くはない。
報道制限をかけてるけど個人のSNSまでは手が回らない。
表向きには自衛隊の災害派遣機として公表してるから汎用機は問題ないが、今まで
技術も向上した。路駐も踏まない。電線もくぐれる。走行車にも気を配れる。
なんのトラブルもなく黄泉比良坂まで走っていた。
「鐘倉3曹。上手くなったな。1年半位か?素晴らしい上達だ。」
「義肢が……なんてボクらも言ってられないね。災害派遣出来るくらいには訓練するよ〜。」
「おふたりの訓練の賜物ですよ。最初私はハッチすら閉めずに錦糸町に繰り出して、未来を追いかけて。走るので精一杯。路駐や看板はなぎ倒し。成長しました。」
元整備課である。歩行や腕部稼働は出来ても細かい操縦は出来ない。ましてや人の癖の付いた
あの時はガムシャラだった。
それに比べて今は慎重だ。
黄泉比良坂にて待つものは何か。
程なく道を進み、石の門が見えてきた。
あれがそうだ。
顕界と黄泉を繋ぐ門。
汎用機を即時待機状態で降りる。
手帳は残したまま、乗り込めばすぐ動く。
20式小銃を抱え輸送防護車に急ぐ。
車の後方扉から餘目曹長、噛崎1曹。そして6人の地上員が出てくる。
車は転換し、門に背を向けすぐ起てる状態。
現場指揮を執るのは餘目曹長。
「門が狭いな……門をくぐり向こう側で円形に陣取るぞ!」
2本の石柱そしてそれを結ぶ注連縄。
若干の上り坂になっている門の先。
「誰から行きますか?」
「こう言う時の先遣隊は決めてある。……すまんな頼む。」
了解と地上員が返事をする。
1人の局員が小銃を構え門をくぐる。
……………………。
なんと言うことだろうか。
局員が門の先へ出ずに消えたのだ。
すぐさま局に確認する。
「発令所!見えているか?局員が消えた!指示を乞う!」
ドローンカメラで映ってはいる。
すぐさま様々な角度で解析が始まる。
サーモ……熱反応は門をくぐった瞬間に消失。
暗視……くぐる直前までは観察。同様に門から先消失。
目視……間違いなく消失。見える範囲に転移は見られない。
無線……不通。返答無し。
「だめね、遥。観測不可能。犠牲を増やさない為に門をくぐるのは中止。現場待機、案を考えます。」
「了解……ん?」
その時である。門の向こうから消えた局員が戻ってきた。
目に見える外傷無し。
「お前!無事だったか!」
「餘目曹長。門をくぐった後周囲が真っ暗になりました。門と私とくだりの階段が光ってるのみ。無線で何度も呼びかけましたが反応がなかったので戻ってきた……と言うわけです。再度くぐれて本当によかった。」
周囲が暗転。やや上りに見える門の先がくだりになる。無線は不通。
「あ、あのドローンは入れますか?」
「試しましょう、1台出して。」
20式小銃を装備した観測ドローンが門をくぐる。
消えた。
現象は同じだ。
無線が通じないと言うことは、
「ドローンからの反応消失。操作信号一切受信せず。映像も途絶。だめです。」
墜落したか。
危険判定も十分に出来ないが、確認が必要だろう。
「すまない、もう一度くぐってもらえるか?ドローンを拾ってきてほしい。」
「局の意志ですからね。魂魄を賭して必ず。では。」
そういい、彼は再び門をくぐり消えていった。
今度は早かった。拾ってくるだけだから。
すぐに門から顔を出した。
戻ってきたその瞬間からドローンのスイッチが入る。
「映像回復、信号受信。」
「みんな、聞いての通り、門の向こうはドローン含め無線が一切使用不可。こちらからのモニターも出来ない。小隊長遥の指示で進んで頂戴。本当はこんな危険分子行かせたくないんだけど、上からの圧が強くてね。申し訳ない。車両運転手と助手は現場待機。即時発進出来る様に。」
「聞いたな?いくぞ。全員門をくぐり向こう側で円陣だ。突入!」
次々と門をくぐっていく。
「鐘倉、噛崎、いくぞ。」
私達は黄泉の門をくぐった。
全天周囲が暗くなる。
元いた場所も見えない。ただ門がある。
そして下り坂の階段。
足元に注意しつつ円形に陣取る。
「慎重に降りるぞ。」
命令と共にゆっくりと階段を下っていく。
螺旋状の階段。
ふと下を見る、川が流れている。河原には積まれた石。
賽の河原だ。親より先に死んでしまった子供が積み上げた石。
ともなればあれは三途の川か。
まさに冥界、黄泉、あの世、幽世、天国、地獄、六道輪廻の果ての坂。
さらに階段を下る。
そこで局員が異常に気づく。
後方を警戒している局員である。
「小隊長。
え?どういうこと?
立ち止まり後ろを向く。
門に入った場所。階段を数段降りた場所であった。
確かに歩いた。階段を下った。
でも現実が嘘をつく。
実際は
そこで鳴り響く鐘の音。
いや違う錫杖だ。
餘目曹長が声を荒げる。
「接敵!正面!構え!」
すぐさま正面に向かい小銃を構える。
ここはもう現実世界の理の通用しない世界なのだろう。
着物の女性が宙に浮いていた。
顔色は……伺えない。異様に影が濃い。
口元が見えるかどうかだ。
それを取り巻く錫杖持ちの子供達。
敵か?それとも味方か?
驚くことに向こうから声をかけてきた。
否、声が頭に響いてきた。
「ここは黄泉比良坂。顕界と黄泉を繋ぐ場所。死人ではないお前達がなんの様か?疾く顕界に帰るがいい。」
ごもっともだ。こんな武装集団がやってくるなんてことはまずないだろう。
餘目曹長が答える。
「私達は対電波放送局トロイメライという組織の者だ。ここにはある反応を確かめに来た。
小銃はそのまま。失礼かと思うが脅威判定未確定。
「なるほど。彼奴等か。確かに黄泉の国に渡った、が十王の判決に不服……と申すか、暴れまわる巨大な個体がいた。今黄泉ではその相手で一杯の状態だ。しかも手下を増やしている。黄泉軍が対応しているがしきれない。」
女王だ。間違いない。完全に仕留めたと思ったが。仕留めた先でまだ暴れるか。
であれば彼女等が放っておくわけじゃない。
「曹長、具申します。」
「良いだろう。」
「女王が健在とあれば未来とZuluが放置しないはずです。聞いてみるのも良いかもしれません。」
なるほど、と曹長。
そうだ、未来とZulu。その願いは女王、全
黙って見ているわけがない。
「なんと呼べば良いだろう。私は餘目遥曹長。今回の調査隊の責任者だ。して聞きたい。その巨大な個体。我々のいう女王、それに反する個体は居なかったか?最後に見た時は人型と猫だった。どうだろうか?」
「私は
そういうと何もない空間に障子が現れた。黄泉神の背後に突然。
そして障子が開いていく。
無限とも思える障子が開き続ける。
空間の概念も無いか。あの距離にあの密度の障子はあり得ない。
しばらくして最後の障子が開く。
そこに在ったのはふたつの影。
見覚えのある制服。首で束ねた長い髪。
そして黒い猫。
あれは間違いない。
「未来!Zulu!」
その影は振り返る。
「美空!」
駆け寄ってくる。障子の間を駆け抜けて。
「やっぱりそうだ。女王に反対する勢力。沈静化を目指していたのは未来達だったんだね。」
「貴女達……揃いも揃ってここは黄泉よ?生きているなら来るべきじゃ無いわ。」
それも正論。さっきも言われた。
女王再沈静の為に彼女等の力が、参式が必要だ。
「私達と一緒に顕界に戻れないかな?参式が未来を呼んでいるんだけど。」
「……本来は無理ね。死んで居るもの。一応黄泉神に聞いてみる。振り返らずに坂の外で待っていてほしい。絶対に見ないでほしい。」
これは古事記と同じ。振り返ればそこには腐った未来が居る。
それはだめだ。
なんとしてもその力を持ち帰らないと。
「餘目曹長行きましょう。絶対振り向かない様に。」
「そうだな、総員転進。門の外に出る。」
私達は黄泉神に頭を下げ踵を返す。
が、その時である。
黄泉神が叫んだ。
「いけない!溢れる!逃げなさい!」
障子の間が砕けた。溢れ出す
巨大な触手が砕けた空間から顔を出す。
「鐘倉!急ぎ戻り汎用機に乗り込め!門は超えられないから溢れ出た個体を相手どれ!その他は小銃用対電弾で撃ち落とすぞ!難しいが決して振り向くな!通過して行く敵を撃つ!」
「わ、わかりました!すぐ向かいます!どうかご無事で!」
私は駆け出す。門をくぐり顕界へと戻る。
すぐさま汎用機に乗り込みハッチを閉める。
ドローンにて“私だけ”が帰ってきたのを見て無線が入る。
「鐘倉さん?みんなはどうしたの?何があったの?」
「ごめんなさい!詳細は後で!
門に揺らぎが起こる。
来る!飛び出してくる!
まず1体!浸蝕対電弾……ファイア!
撃ち込む弾は確実に命中、炸裂を起こし事象を抉りとる。
……が、そこに
「コアがない!これじゃ消滅させられない!」
頭部を抉られた個体は勢いそのまま突っ込んでくる。
弱りもしない。
「……くっ!高周波ナイフ使います!車両の地上員耳を塞いで口開けて!」
鼓膜なんて簡単に破り去る。
とりあえず耳を塞いで振動を逃がす為に口を開けてもらう。
キィィィィィイイイイイン!
ナイフが震え始める。
それをそのまま突き立てる。
振動で断ち切る。半分に。
でもダメ、それでも動く。
その間に1体、また1体と溢れ出てくる。
きっと中でも射撃効果なしのはずだ。
「局長!汎用機ではダメです!浸蝕対電弾が効果なし!どうしましょう。」
「……BPOに確認します。効果はなくても撃ち続けてください。肉片が細かくなるまで。どう見ても動かなくなるまで。すぐ確認します。それと遥達に撤退命令を、島根県全域に緊急事態宣言を発令しますので。」
「りょ、了解です!……あ、ごめんなさい私門をくぐれません。未来とZuluに会ったんです。黄泉神の計らいで。そして黄泉で戦ってました。女王と戦いの為顕界への一時帰還を願い出たら振り返らずに待っていて欲しいと言われました。古事記のアレです!」
細かく説明する。
黄泉での出来事。未来との再邂逅。日輪と月輪は再び出会った。
黄泉神と未来は話し合ってる。
きっと女王をどうするか。
現在の兵器では到底相手に出来ない。
急いで局長。
――――――――――――――――――――
錦糸町発令所。
局長席コンソール。
鍵を差し込み回す。
固定されたスマホのロックが外れ、台座から浮き上がる。
BPO直通電話。
「御園生です。逐一報告をあげている通りですが、黄泉から溢れ出た個体に汎用機の浸蝕対電弾は効果なし。現場では何も対応出来ません。如何しましょうか。」
指示を仰ぐ。そして返ってくる予想外の回答。
「は……。しかし、アレは既に人間が乗れるものでは。昇華し過ぎています。副長でも……違う?しかしそれでは見捨てる様な物!……はい……はい。くっ……了解しました。大至急空輸します。」
スマホをホルダーに戻す。
局長は席に深く腰掛け、大きなため息を吐き出す。
聞いていた副長も流石に納得できない答えだったと理解できた。
「して局長、上はなんと?」
瞑っていた目を開け副長を見る。
「非人道的です。参式を使います。
コンソールを強く殴りつける。副長の怒り。
それは副長だけではない。局長も同じこと。
「じゃあ何か!上は鐘倉を事態収拾の捨て駒にしろと!?」
「言い方を変えればそういう事です。全館へ通達。BPO指示により現時刻を持って新造参式人型装機の凍結を解除。
各所慌ただしくなる。発令所では輸送に関するシークエンス準備。
格納庫では整備課により封印された参式が磔から取り外される。
ロックボルト、安全装置解除。ホイストと整備用人型装機にて輸送車両に固定が急がれる。
「現場に変化あり!餘目曹長以下各員が黄泉比良坂から出てきました!」
ちょうど良い。苦虫を噛みつぶした様なひどい表情だと思うが聞いてもらおう。
「発令所!こちら餘目。黄泉神、黄泉軍の援護の元黄泉比良坂より撤退。輸送防護車に乗り込んだ!以降の指示を!」
「お疲れ様でした。女王の再顕現、
いまなんて?私が参式?
でもアレは起動方法が無い。
どうやって使うんだ。
それに、禁忌だ。乗り込むことは禁止されていた。それを私に乗れと?
「局長、それは鐘倉を使い捨てにするというか?」
「………………そうよ。」
「それは違うだろ!」
「いいんです餘目曹長。それで事態が収拾するなら、この命喜んで差し出しますから。どうか怒らないで。」
そうじゃ無いのはわかっている。
今いい言葉が浮かばなかった。
どうしようもないのかもしれないと思い込んでしまっていた。
が、変化も起こる。
「黄泉比良坂に揺らぎ観測。何者かがゲートアウトしてきます。」
現れたのは、未来とZulu!
私はすぐに汎用機を降りた。
「未来!待ってた。どうだった?」
「黄泉神に言うだけ言ったけど結果は一時的な黄泉返り。考えがあってそれを伝えた。それは許可された。局長に伝えたい。話せる?」
なにか案がある?
参式以外の案だろうか。
それが
話そう。
「局長。未来からの伝言です。参式を私が起動させる。アレにはヒトラーに囚われた私の魂の半分が残っている。1つになりたくてきっと動き出している筈だから。私の魂を参式の座に戻し肉体は黄泉へと帰る。完全な魂になった参式は問題なく起動する筈。起動キーはきっと美空が持っている。ヒトラーに取り込まれない様に私とZuluが防壁となる。安心して乗ってほしい。……です。」
「割り込みます!」
突然発令所局員が割り込んできた。
「門に最大級の揺らぎ!おそらくこれは女王が黄泉がえります!」
そのとおりだった、門から狭そうに触手が這い出る。
門を押し倒し、女王が顕界へ姿を現した。
吼える。咆哮する。
東京事変でも吼えたが、慣れる物ではない。
この世に産まれ落ちた女王は空高く飛び上がり西へ向かいゆっくりと飛行を始めた。
「ありがとう鐘倉さん。時間はかかりますが参式は確実にそちらに向かっています。貴女が犠牲にならない方法があって本当によかった。女王の飛来は観測し続けますので安心を。では皆さんは揖屋まで後退願います。聞こえてるかな未来。ありがとう。システムを復旧したあと君たちは黄泉に帰るのだろう。それまでよろしく頼むよ。」
「……ですって。」
私はそのままを未来に伝えた。
未来はふふっと笑い
輸送防護車は定員オーバー、仕方ない。
私もコックピットに乗り込みハッチを閉める。
オープン回線で破壊された門に呼びかける。
「未来とZulu。お借りします。本当はこのままで居て欲しいですが。理。再びあいまみえたことに感謝します。じゃあ行ってきます。」
聞こえたかはわからない。黄泉神への伝言。
私達はきた道を帰る。
揖屋駅まで走り続ける。
「未来、久しぶり。元気……は可笑しいけど、大丈夫だった?」
機体のマイクで音を拾う。
「久しぶりね。大丈夫よ、ただ、急に暴れ出すんだもの女王。」
「ふふ、笑い事じゃないのにね、言えてる。やーっと静かになったと思ったら東京飛び出してこんな所まで、更には西に飛び去って。もー最悪。」
これは全部みんな聞こえてる。きっと輸送防護車の中では懐かしがってる事だろう。
手に入れては失って。
また取り戻しては失って。
私の日常は普通では居てれくれないみたいだ。
とにかく走る。
緊急事態宣言が出されたせいか、車も少なく走りやすい。
未来を落とさないように優しく。でも可能な限り急いで。
「飛来した女王は関門海峡を通過。九州地方へ突入。」
「直ぐに被害を出す……とは考えられないでしょう。私の憶測ですが、一度死んでるのです。死体は活動エネルギーを必要としない。望むことは黄泉がえりでしょう。私ならばまずどこかに落ち着き小型を産み、情報を集める。」
情報収集に異論は無い。
まず間違いないだろう。
局長はいつでも鋭いな。
でもあの頭が局を幾度も救っている。
そうこうしているうちに、私達は揖屋駅に辿り着く。
夕方……。あとはここで参式を待つだけ。
「あのさ、美空。ちょっといいかな。一つだけあなた達に渡すように託された物があるの。これなんだけど。」
未来は手を伸ばしこちらにそれを見せてくる。
メインカメラで捉える。
……?USBメモリ?
コックピットから降り未来と向き合う。
はいこれ、と渡される。
見たところ普通のUSBメモリ。特別変わったところは無い。
「それを汎用機を通して発令所でダウンロードして欲しいの。」
「だそうですが局長……どうしましょう?」
僅かな間のあとに答えが来る。
「それは黄泉神から手渡されたのですね?」
オープンにしてある無線。未来にも聞こえる。
そうです。との返答。
無線の間に入るのってこんなに大変なの……。
「では、信じましょう。アクタガワ防壁展開。少しのウイルスも許してはいけませんよ。鐘倉さん。USBを汎用機に。遠隔でダウンロードします。」
言われるがままコックピットに戻りUSBを差し込む。
本来は手帳が認識されない場合の予備のインターフェース。
メインモニターに黄に〇が付いた炭文字が描き出される。
「局長、差しました。」
「了解、ダウンロード開始。異変を見逃す事なきよう。」
画面が切り替わる。
発令所と同じ画面。ダウンロードが開始される。
が、やはり普通とは違かった。
「局長!容量が半端じゃありません!3.8
「大丈夫、余裕があります。続けましょう。同時進行で解凍データの解析を。」
現在基地局最優先でデータ転送中。
周辺では間違いなく電波異常、スマホは繋がりにくくなってるだろうな。
ふと、機体に差し込んだ手帳を見る。
電波は1。電波状況悪い。無線にもノイズが入る。
異常は他にもあった。
「これは……解凍スピードが早すぎます。この容量に対してこれは、既に50%が完了。転送速度も高速です!」
まだ2〜3分。ペタバイトなんて聞きなれない容量更には遠隔転送。なのにもう50%完了。一体何が。
「解析結果出始めます……これは、黄泉内の状況が見える?黄泉軍マーキング可能!
遂にはあの世まで観測可能なシステムに成り代わったか。
「解析完了100%。通信入ってます!」
「繋いで。」
本当に早い。まさにこの世のものとは思えない。
そしてこのタイミングでの通信。
内容は聞こえるだろう。通信内容は全て聞こえているから。
「ダウンロード感謝します。私は黄泉神。現在黄泉は始まって以来の災厄に見舞われています。それを十王判決中の城未来とZuluに聞き、あなた方を頼ることにしました。どうか再度あの巨大な生命体を楽にしてあげてはくれませんか?」
「私は対電波放送局トロイメライ局長、御園生詩葉。こちらこそ重要なファクターの一時譲渡感謝します。現在先の大戦で使用不可となった決戦兵器をそちらに向け輸送中。城未来がいれば起動するでしょう。その後は出来うる限りの戦力を駆使し、まずは島根県の非常事態を解除します。その後女王に向かい再度戦いを仕掛けます。」
局長があの世の代表と話をしている。
驚きしかない。だって死者の国、黄泉の国の代表。黄泉神。
神と対等に話し合う。いくらなんでも度胸が桁違い。私だったら怯え震え畏怖し何も話せないと思う。
それに出来うる限りの戦力での殲滅。
参式の凍結解除と使用。BPOと局長は倒し方に何か案があると言うのだろうか?
そしてファクターは私と未来とZulu。そして英霊アドルフ・ヒトラー。
再び始まった脅威の侵攻。
終わりはしなかった悪夢の日々。
私達は来るべき参式を待つ。
そしてまずは島根を解放する。非常事態宣言の解除が急務だ。
そして九州地方へ飛び立った女王の解放。
待っててね日本のみんな。私達は戦ってみせるから。
――――――――――――――――――――
黄泉比良坂を発端にした第2次電波体戦が開幕する。
BPOにより安否に関係なく事態を収拾する為参式の凍結解除、事変への投入がなされる。
繋がる顕界と黄泉。共同戦線が提案される。
ここにファクターは揃った。参式の到着を待つばかり。
次回、《私の未来、私と未来》
私の半分、貴女に預ける。
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