新人がテンセイシャ?らしい
@shobooonn
導入
ボウケンシャになりたい少年
―ドンっ!
勢いよくドアが開かれる。
ズカズカと侵入してきた若者たちがロビー内の注目を集めた。
「ここが冒険者ギルドかぁ。」
「……ユート、はしゃぎすぎ。」
「受付はあちらですね。行きましょう。」
期待を孕んだ声で会話をしている三人組は、視線をもろともせず受付へ進んで行く。
ユートと呼ばれた少年は、周りに比べ違和感があった。
少し幼さが残る容姿は中庸であるが、この地―リテリアでは珍しい黒目黒髪だった。遠方から来るにしては装備が少なく、街近くの集落から来るにしては身なりも小奇麗。また、冒険者がどうのスキルがこうのといった会話がより違和感を引き立たせていた。
「いらっしゃいませ。便利屋組合リテリア西部へようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか。」
美人で有名な受付嬢、シルは笑顔で対応しつつ依頼の受付準備を始めていた。
リテリアにおいて剣や弓といった武器を所持するには、国の軍や私兵団といった戦闘に携わる組織―いわゆる戦闘職に属する必要がある。ここ便利屋組合も所持が認められているため、ロビー内の多くの者が武器を携えていた。
しかし、この三人組は武器を持っておらず、また、便利屋組合への依頼が貼られている掲示板も見ずに受付へまっすぐやってきた。受付嬢としてそれなりの経験があるシルはその様子から依頼の受付かと行動を読んでいたのだが、
「冒険者登録に来ました!」
「ボウケンシャ?あぁ、採用の方ですか?少々お待ちください。」
予想外の申し出に一瞬戸惑うも、笑顔で対応。シルは確認するといい奥へ。
「……ユート、やっぱりボウケンシャは通じない。ボクの言った通りだ。」
「これ一度言ってみたかったセリフなんだよね。ロマンだよロマン。転生者イコール冒険者登録!自分でこのセリフを言えるとは思ってなかったからね!」
「……ユート、うるさい。」
リティアと呼ばれた少女は、先ほどからテンションの高いユートに対し冷静に返している。リティアは手入れをすれば美しいであろう銀色の髪で、いや、髪だけでなく全体的に美容に無頓着なのか、何日か遭難したかのような印象を受ける。冷静な性格、というよりはものぐさなのだろうか。さらにこの少女は、肌が褐色がかっており耳が少しとがっている。人と似て非なるもの、亜人。その外見より亜人とうかがえる。
「ボウケンシャ登録を済ませましたら、浴場へ行きましょう。せっかくのかわいいリティアちゃんがこんなにボロボロでは台無しです」
「確かに。ずっと歩きっぱなしだったからな。てか、浴場行ってからのほうが良かったか?」
「……マルチア、リティアは浴場に興味ない。」
「だめですよ。身だしなみはきっちりと、ですよ。」
「マルチアの言う通りだ。お風呂は気持ちいぞ!」
「……ふたりとも、しつこい。」
マルチアは修道服を身にまとっており、腰までかかるような艶のある黒髪と首にかかる本をかたどったロザリオがより神聖さをかもしていた。おっとりした雰囲気のマルチアはリティアを人形のように可愛がる。その姿は慈悲深き聖女に見えないこともない。
そうこうやりとりをしているうちにシルが奥から戻ってきた。
「おまたせしました。本日、採用試験の枠を午後に抑えることができますので、こちらの
「これ、タブレット端末みたいだな。あれ?触っても反応しない」
シルが魔石板に不具合がないか確認しているなか、マルチアはそういえばとユートに確認する。
「ユートさん。こちらは魔力を利用するのですが…」
「あー、魔力とか全然わからないんだよねぇ」
「試験の申込でしたら、代筆も可能です。」
「それでしたら、私が代わりに行いますね。えーと、名前はユート、出身地方は…」
「気が付いたら、森の石碑の前だったからなぁ」
「……ユート、リティアたちの住んでる森にいた」
悩む一行に、シルが助け舟を出す。
「ここ近辺で石碑のある森ですと、
「え?亜人も登録できるの?」
「はい。便利屋組合では、意思の疎通が可能で身元の保証ができれば、組員の登録ができます。極端な例でいれば、ヒトでも亜人でもない魔獣なども条件を満たせば登録できます。」
「私が第三教会の所属ですから身元の保証も大丈夫ということですね?」
マルチアはロザリオを見せながらシルに問い、シルはうなずいて肯定を返す。
「記入は終わりました。こちらでよろしいですか?」
「はい。確認いたしました。ありがとうございます。それでは、ユート様、リティア様の採用試験を午後に行いますので、お時間に合わせてお越しくださいませ。」
「あれ?マルチアは?一緒に受けないの?」
「私は教会所属なので、ほかの団体に所属できないのです。ただ、衛生兵の派遣のような形で同行はできますので、3人で一緒に依頼を受けることはできますよ。」
ユート、リティアは安堵の表情を浮かべた。
そのふたりの反応を見て少し照れながら、
「私も…みなさんとは一緒に居たいですし。ほ、ほら!早くお風呂行きますよ!お風呂!」
「……ユート、照れたマルチア可愛い」
「完全に同意。略して、感動」
こうして、嵐のような一行はロビーから去っていった。
人はほどほどにいるがしんとしたロビーはまるで、
午後からの波乱を予感しているようだった。
ロビーの誰かがぼそりとつぶやいた。
―どうやら便利屋組合の新人はテンセイシャ?らしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます