『賢き人との対話』より
富永正男
1、死と生についての最も重要な対話
―賢い人よ、人はなぜ死ぬのでしょうか。
人が死ぬのは、浄めを終えた神子のかけらを真の世界にお返しするためである。
―お返ししたらどうなるのですか。
あなた方の言う魂は、御使いの列に加えられ、永遠の浄福を手に入れるであろう。
―それでは、死ねば御使いになれるのでしょうか。
死ぬ時に強い欲望を抱いていれば、真の世界には辿り着けず、神子のかけらは再び地に堕ちて、魂は影となって、叶えられぬ欲望のままに地を彷徨う。これが神々からの罰である。影は形を求め、地を這うものや空翔けるものらに宿って魔物となる。その王が魔王であり、魔王の内で僭称者の悪しき想いの虜となったのが、かの忌まれし者である。
―どうすれば罰を逃れられるのでしょうか。
己が身を土くれと自覚して、神子のかけらによって清められたもの、すなわち、魂を欲望のままにせず、絶えず真の世界での生を願って、神々に祈ることを忘れずに生きることが大切である。
―これまで沢山の人間が生まれては死にましたが、どうして神のかけらはすべて回収されないのでしょうか。
すべての人間が御使いとされるのに相応しいわけではなかったからである。また、土くれのゆえに男と女が互いを求めて、そのゆえに互いの内なる神子のかけらが砕かれて交わり、それが子に分かたれるからである。
―では、禁欲して独身のまま死ねば良いのでしょうか。
汝土の民よ、傲ってはならない。魂の力は弱い。禁欲しようとしてできる者は少ない。独身者であっても欲望を残して死ねば、神子のかけらは再び地に堕ちるのである。
―そもそも、どうして私たちは生きているのでしょうか。
神子のかけらを真の世界に送り届け、神の復活を実現するためである。神子は大いなる御方を讃美するために、この僭称者の身体である偽りの地を浄め、滅ぼさんとして地に自らを分かち与えられた。大いなる御方は滅びるべき偽りの地より神のかけらを救い出し、神子を復活させるために、神子のかけらの器として土の民、すなわち人間と、木の民、石の民、水の民、火の民、風の民を創造されたのである。ゆえに、あなた方の生きる意味とは、神子のかけらを無事に真の世界に届けることにある。
―私たちの日々の暮らしは全く無意味ということでしょうか。
あなた方の日々の暮らしはすべて地に由来するものである。真の世界とは関係がない。
―自殺すれば良いのでしょうか。
使命によって人は生き、そして死ぬるのである。これに背いて自らを殺めるものは罰を受け、永遠に自らを殺め続ける哀れな影となる。
―神子が復活すると世界はどうなるのでしょうか。
その世界が偽りの世界を言うのであれば、悪しき想いは浄め終えられて滅びるであろう。悪しき想いが偽りの世界を在らしめる力だからである。
―なぜ偽りの世界は存在するのでしょうか。
大いなる御方になろうとした僭称者が新たに世界を創造しようとして、神々に討ち取られ、その亡骸が真の世界から打ち捨てられた。しかし、悪しき想いを僅かに残した亡骸から偽りの世界が生まれたのである。偽りの世界は僭称者の欲望が生み出したものであり、僭称者の亡骸である。
―僭称者とは何者ですか。
かつて神々の長であったものである。大いなる御方の知恵と力を分け与えられたものである。自らも大いなる御方となるべく新たに世界を創造せんとしたものである。神子を嫉むものである。
―神子は神々の一柱ですか。
神子は神々ではない。神々は大いなる御方の徳と力であるが、神子は大いなる御方の心である。恐れながら例えるとすれば、神子は王子であり、神々は貴族である。
―賢い人よ、あなたはどなたですか。
私は生まれながらの御使いである。神々から遣わされたものである。
―この世が滅びるべき偽りの世界であれば、救世王は何を救済したというのでしょうか。
忘恩の徒よ、言葉を慎むがよい。かの病みて逝きし者、神々の真の下僕、そして、我が最愛の友は、忌まれし者とその忌むべき眷属たる魔王たちによって神子のかけらの器が毀たれ、永遠に神子が囚われの身となることから、この偽りの世界を救ったのであり、すなわち、神子を救ったのである。そして、あなた方を永遠に真の世界との関係が絶たれることから救ったのである。その代償として、彼の者は悪しき想いの呪いを受け、影のようになり、呻き苦しみながら息絶えることとなった。
―救世王の魂は真の世界にあるのですか。
否。大いなる御方は彼の者の臨終の願いを受け入れ、その魂を永遠に滅ぼされた。彼の者は余りに疲れ果ててしまい、いかなる意味でも生きることを望まなかったからである。これは真に我ら御使いの過ちであり、それゆえに我らは滅びの日まで偽りの世界に留まるのである。これが我らの償いである。
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