彼の初カノ

彼方希弓

第1話 彼との出会い

 田嶋美優 23歳

彼氏いない歴 4年半


 彼氏と呼べる人は、高校生の時に2年半付き合っていた秀ちゃんだけだ。

ヤンキーな人だった。

ヤンキーだけど、優しかった。

ヤンキー仲間たちも、私には優しく接してくれた。

なんだか、守られているような気がしていた。

高校を卒業しても、交際は続くだろうと私は思っていた。

が、違った。

遠距離恋愛になり、あっけなく終わった。

高校生同士の恋愛なんて、まぁ そんなものか、と思った。



 私は短大生になり、アルバイトを始めた。

そこで出会った人に恋をした。

かっこいい!!

こんなかっこいい人が、この世にいたなんて!!

大げさではなく、本当にそう思った。

まず近づけなかったし、話しをすることはなかったけど、バイト中その人を見れるだけで、ウキウキした気分だった。

1ヶ月が経って、やっとその人の名前を知ることが出来た。


『敬志くん』


それからまた何ヶ月か経った冬、その日は突然 訪れた。


「ね~、バイト終わったら、飲みに行かない?」


突然、敬志くんに誘われた。


「行きます!」

私は、なんの躊躇もなく、前のめり気味に言って笑われた。


駅前の居酒屋で、2人で飲んで食べて、

「俺、今日金ないんだけど、おごってくれる?」 と、聞かれた。

「うん、大丈夫」


恋い焦がれていた敬志くんと2人でいられてることが、夢のようで、終電間際まで飲んでいた。


「帰したくないんだけど。ホテル行かない?」

そう言われて、うんと頷いた。


そんなことが、数ヶ月に1度くらいのペースで3回。


敬志くんとつきあうことにはならず、毎回私がすべて支払った。

おごってくれる都合のいい女の子と思われていたのだろう。

それでも、敬志くんに誘われたら、シッポを振ってついて行く。

自分自身 バカだなと思っていた。

思っていたけど、敬志くんはそれを凌駕するくらい かっこよくて、ズルズルとしていた。


 私は短大を卒業して、バイトは辞めて、就職した。

物理的に、敬志くんとは顔を合わせることがなくなった。

バイト先で誘われるだけで、連絡先の交換もしていなかったから、私がバイトを辞めたことで、完全に切れた。

敬志くんに未練はあったけど、何も進展しない関係は、終わりにした方がいいだろうと思った。

たぶん、敬志くんは、私の名前すら知らなかったと思う。



 就職して2年目。

私は仕事でいろいろと失敗をして落ちこんでいた。

同僚の先輩の池田さんが、飯食いに行かないか?と誘ってくれた。

落ちこんでる時は、ガッツリ肉でも食って、元気だそうぜ!!

なんて言って、連れて行ってくれたのは、目の前の鉄板でシェフが分厚いステーキを焼いてくれるような高級なお店だった。

いくらだったのか、池田さんがサラッと会計を済ませたからわからなかった。

あとあと調べたら、そのお店は1人12,000円~

みたいな感じだった。

親や親戚とかじゃなく、他人にそんな高いものをおごってもらったの初めてだ。

何回か食事に行き、何回目かでホテルへ行った。

自然な流れだった。


「池田さんのことが好きです。

私とおつきあいして下さい!!」

勇気を出して、私から告白した。


池田さんは困った顔をして

「俺さ、婚約者がいるんだよね。

30までには結婚するって先延ばしにしてるんだけどさ。

その彼女とは別れられないから。

結婚するまでのあと数年は、いろいろと喰いたいな~って感じなんだ。

俺のおごりで、うまいもん食わせてやるからさ、その代わりと言っちゃなんだけど、カラダの関係になってほしいんだ」


正直な人なんだなと思った。


つまり、そこに愛はない。

これから先も、愛に変わることはない。

そして、何年後かに期限切れになる関係。

婚約者という本命の彼女がいて、私はただの浮気相手。


敬志くんの時は、私がすべてお金を払っての関係だったけど、池田さんはすべてお金を払ってくれる。

そこに愛がないのは一緒だったけど、まだマシか、なんて思ってしまった。


週1ペースで食事に行き、ホテルに行った。

そんな関係が1年続き、ある日池田さんが私にこう言った。


「田嶋さ~、俺に本気になってない?

俺は、田嶋の彼氏にはなれないからさ~。

彼氏つくってみれば?」


なんて酷いことを言うのだろう……

池田さんの前で初めて泣いた。

もう、終わりにしよう。

そもそも、こんな関係は間違っているのだから。



 短大時代の友だちの春美に連絡を取った。

「春美の彼氏の宮元君の友だちか誰か、紹介してくれないかな~?」

「あっ!!マジですごいタイミング!!

彼の友だちに誰かフリーのいい子いないかな?って言われてたところ!!

あたしは、その人に会ったことないんだけどね。

みやちゃんにセッティングしてもらうね!

とりあえず、会ってみなよ」


すごいスピード感で、電話したその週の金曜日に、4人で飲みに行くことになった。


紹介されたのは、石中忠弘さん、同い年の23歳だった。

会ってみた第一印象は、マジメそうな人だなと思った。

でも、飲んで話すと、話しやすい人だった。

自分のことも話すし、私にもいろいろと聞いてくれる。

優しい人だなと思った。

飲んでカラオケに行って、その後ミスドでお茶して、別れ際に、


「また、会いたいんだけど、連絡先教えてくれない?」


と、聞かれた。







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