年下男子と年上男子~二美子シリーズ~

なかばの

第1話

事件がひと段落つこうとしている頃、雅人マサトの近況が伝わってきた。

もう、私に近付かないという約束をして、他県へ引っ越したそうだ。謝罪の手紙が届いたとのことだが、私の手元にはない。たぶん、裕太ユウタ兄のところで止まっていることだろう。もちろん、この内容についても私、二美子ニミコは知らないことになっている。

伝えてくれたのは、裕太兄の同期で2課に所属しているタケルさんだ。

担当ではないし、彼が逮捕したたわけではない。けれど、裕太兄が変な気を起こす前に尊さんが動いてくれたようだった。


「忘れることはできないかもしれない。けど、次には進みやすくなるだろ?」

「ありがとうございました。けど、正直どう向き合ったらいいのかが…分からないんです」

裕太兄がいない時にわざわざ家まで来てくれた。

尊さんは裕太兄が警察学校時代のライバルだそうだ。卒業してからも事あるごとに会っている同期で、私にとっても第二の兄のような人だ。

「…ミコちゃん変わったね」

「え?」

「ちゃんと、分からないって言えてる。今までは頑張ってた感じが強かったけど。いいと思うよ。強くなった」

「尊さん…」

「コーヒーも上手にいれるようになった。すごいな、成長速度が」

「誉めてる?からかってる?」

「誉めてる」

「ほんとに?」

「ほんとに」

「……病院へはもう少し通ってみようと思ってます。納得したいので、自分の気持ちとか症状とか、いろいろ」

「うん。心臓の方は?」

「あー……、もちろん、定期的に通いますよ。弱っている度合いとか、これからの過ごし方とか…」

視線が手元に落ちてしまう私……。

「ミコちゃん、ゆっくりやってこう」

「……はい」



尊さんは、責めることも、こうしなさい、とも言わない。ただ聞いてくれて、認めてくれる。カウンセリングをしてくれる先生に近い感じ。ゆっくりやっていこう、って言葉は、自分でも思っていたよりほっとする言葉だった。

「二美子さん」

診察室の扉が開き、いつもの先生が顔を覗かせる。

梨緖リオ先生」

「さあ、入って」

今日は心療内科の受診日だ。退院して1ヶ月半ほど経った。入院していた病棟は循環器内科であったが、梨緖先生は毎日のように来てくれた。そして、退院する日、受診予約をいれたのだ。

診察室にはいると、いつもいる助手の方はいなかった。

「今日はあの事件から初めての受診だからね。私だけよ」

「そうなんですね」

いつものようにソファに座り、先生が目の前に座るのを待つ。

「どう、調子は?」

「うーん、よく分かんないです」

「そうなの?」

何だかごちゃーっとした感じがあるような…、気のせいのような…。

「最近、お兄さんはどうよ」

「ああ……」

「彼氏と散歩しただけで説教したお兄さん」


先生、言い方にトゲ…………


「相変わらず心配してくれてます。必ず帰ってきてくれるんです。遅くなっても、必ず……」

「……そう。二美子さんはどう思ってるの?」


私は……


「安心します。兄がいてくれると、大丈夫って無条件に思えるんです」

「そう。お兄さんは二美子さんを大切に思っているのね」

「そうですね。何もきかないので…」

「きかない?」

「以前何があったのかを。私が辛いと思うことは、きかないので」

「そっか…」

「はい…」

甘えてるよね。私、裕太兄に甘えてる。

しっかりしなくちゃと思うのに、やっぱり兄に頼ってる。

「ねえ、二美子さん」

「いつでもいいからさ、あなたの今の状況を一緒に考えてくれたり、助けてくれたりする人と一緒に来てくれないかな」

「え…」

「いつか、でいいんだけどね」

「兄とですか?」

「……お兄さんでも、他の人でも。一緒にあなたのことを考えてくれる人」

私は少し混乱しかけた。

自分の事なのに、自分以外の人に負担をかけることになるかもしれない。

「じゃあ、二美子さん、気持ちをまとめていこうか」

「は、はい……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る