カノジョにDVされている俺を小悪魔後輩がNTRしようとしていますが、BSSしていたタワマン人妻のヒモになったのでもう遅い。手遅れだ。

園業公起

第1話 DV&NTR&BSS 混ぜるな危険!

 今でも欠落を埋めてくれる他人を探してる。

 だけど自分の欠落を埋めてくれるあの人は。






 自分以外の誰かのもの。
















 ぱぁんと僕の頬が叩かれた音が生徒会室に響く。


「愚図。私言ったわよね?この書類は今すぐにやれって」


 僕を叩いた揚羽はきっと目を細めて睨んでくる。綺麗な顔をしている分、怒った顔は他の人よりもずっとずっと怖い。


「ご、ごめん。でも締め切りはまだ来週だし大丈夫かなって思って」


「口答えしないでよ!!」


 また頬を叩かれた。今度はこめかみに近くって、痛み以外にもずきっとした嫌な響きも感じた。


「ごめん…」


「…わかればいいわ」


 揚羽は不機嫌そうに会長席に戻る。僕も席に戻って仕事を始める。


「すみませーん!部活でちょっと遅れましたー筒香つつごう会長さーせん!」


 入ってきた書記くんはふざけた感じで頭を下げる。だけど揚羽ふっと笑ってそれを許した。


「まあサッカー部は今が一番忙しいものね。どう?勝てそう?」


 僕だったらきっと絶対に殴られているのに、彼女は他の人のことは簡単に許してしまう。


「大丈夫っすよ!いけそうっす!ぜひ会長も試合見に来てください!」


「そう?かっこいいところを見せてくれるなら考えてもいいかな?」


 書記君はその返事に片手でガッツポーズを取る。好感度が稼げたと思ってるんだろうな。無駄なのに。彼女にすごくすごくすごく好かれてもどうせ叩かれるだけなのに。












 揚羽は学校近くの高級マンションにたった一人で住んでいる。それにはとてもとても可哀そうな事情があるのだけど、僕には同情さえ許されていない。


「ねぇ綾久。なんであなたって女の下着を脱がすの上手いの?」


 事が終わって裸で僕の隣に寝る揚羽は不機嫌そうにそういった。


「え…それは…練習したから」


「はぁ?練習?嘘つき!」


 揚羽は僕の上に跨って僕の胸にぐーで何度も突いてくる。痛みよりも息苦しさが勝る。


「信じらんない。小さいころ約束したよね?わたしたち結婚するって。なのにあなたは私以外の女と寝たことあるんでしょ?なんどもなんどもなんども!!!」


「ごめん」


「謝るくらいならなんでそんなことしたのよ!ふざけないで!!」


 髪の毛を引っ張られながら頬を引っぱたかれた。そうは言っても仕方がなかった。一応幼馴染だけど、中学校から離れてたし、高校で再会した時僕は誰とも付き合っていなかったんだからそれでいいんじゃないの?でもそう言ったらきっとまた殴られるから黙っておく。


「あなたなんて最低!付き合う前に浮気してたなんて許せない!わたしは一途にあなたのことを思ってたのに!どうせ他の女とわたしの穴とかおっぱいとか比較してるんでしょ!」


「そんなことないよ。揚羽はとっても美人でかわいいから誰とも比較なんてできないよ」


 付き合う前から浮気したなんて言われても困る。過去はどうしようもできない。だからいい加減僕は揚羽を許してあげたい・・・・・・・


「ねぇいい加減私のことだけ見てよ…。あなたはフラフラしてるから私は殴らなきゃいけなくなっちゃったんだよ?ああなたが痛がってるのみるの私だって辛いんだよ?」


 人は他人と痛みを共感できる素敵な生き物だ。だから揚羽は僕を殴って、僕の痛みを感じて苦しんでいる。可哀そうだなって思ったんだ。












 昼休み。殴られたほっぺを水飲み場で冷やしていた時に、頭の後ろに柔らかさを感じた。


須和すわか?やめてくれないか?」


「だって酒々井せんぱい痛そうにしてるからつい」


 須和は僕から離れて舌をペロッと出す。可愛らしい笑顔だ。実際校内でも人気が高い美少女だ。それだけじゃない。最近はアイドルとして駆けだしながらテレビにも出るようになった。


「せんぱい。今日はちょっと赤いですね」


「なんか機嫌悪かったみたいだね」


 いつもはあとが残らないように殴るのに、今日はいつもよりも力が強かった。


「そんなのおかしいですよ!ねぇせんぱい。いい加減先生とかに相談した方がいいですよ」


「世の中、男が女に殴られても笑い話にしかならないんだよ。警察だって相手しないんだから」


「でもぉ…わたし悔しいよぅ。せんぱいの綺麗な顔を叩けるなんてあの人絶対におかしいよ…」


 須和は泣きそうな顔をしている。


「せんぱい。あの人と別れてください!わたしならせんぱいに絶対に優しくします!」


「悪いけど。別れるつもりは今のところないんだ。それに君だってアイドルとしてキャリア積み始めたばかりだよ。俺に邪魔なんてできない」


 僕はそれだけ言って須和に背中を向けて校舎に戻ろうとした。だけど俺の背中に須和が抱き着いてきた。こんなところを揚羽に見られるのはまずい。


栗花落つゆり!」


 俺は須和の方に振り向いた。


「せめて下の名前で呼んでくれたらしばらくは諦めます」


「わかったよ。栗花落」


 下の名前で呼ぶと、栗花落は嬉しそうな顔をして、ぱっと離れてくれた。


「えへへ。なんか恥ずかしいなぁ…じゃあね。綾久せんぱい」


 僕を助けようとする人はいる。だけど上手くいく保証はないし、何より踏ん切りがつかない。それに揚羽を放っておくこともできない。どうすればいいのかよくわからない。










 タワマン文学って言葉があるらしい。タワマンにまつわる現代人的な様々な物語のことらしい。今僕はそのタワマンの上層階にやってきた。僕が目的階でエレベーターから降りると、一人の妙齢の美しい女性がいた。


「待ってたわ」


「わざわざエレベーターホールで?誰かに見られたらどうするの?」


「そんなことないわ。だってこの階はうちの部屋しかないもの」


 確かに言われた通り、この階には部屋は一つしかない。表札には香月 かづきとかいてある。きっと一階層丸々一部屋のタワマンは上等なタワマン文学の匂いがするはずだ。そこには幸せしかなくって、きっと楽しい日々を過ごせるんだ。


「お茶がいい?それともコーヒー?」


 部屋に入るとそんなことを言われた。


「それよりもまず先に久遠さんがしたいことあるんじゃない?」


「…そうね。そうよね」


 久遠さんは僕の首に絡みついてきた。そしてほっぺにキスをしてきた。そして僕たちは腕を絡めながら部屋の奥へと向かう。


「今日も旦那はいないんだね」


「ええ、出張なの。ほら見てよ。大阪名物のタコ焼きだって。うふふおかしいわよね」


 久遠さんがスマホの画面を僕に見せてくる。そこには旦那さんがタコ焼き定食を食べている姿が映っていた。イケメンじゃないし体格もよくないオタク臭そうな人だけど優しそうでとてもいい人なんだろうと写真だけでわかる。


「そういうところがかわいい?」


 いるよね。女に今日自分は何々しましたって内容のメールとかメッセージ送ってくる奴。ブログかよ。


「そうね。人畜無害でかわいいでしょ」


「へぇ。最低だねこのビッチ」


 僕は久遠さんの高そうな服を掴んで引っ張ってびりびりと破る。豊満な胸を包むブラが晒された。


「ひどい。これ高かったのよ」


「それを買ったのはお前の金じゃなくて旦那の金だろうがくそビッチ」


 久遠さんは僕のことを睨んでいる。だけどちっとも怖くない。だってこの女はしょうもないビッチだ。卑しい女だ。だから怖くない。僕は彼女の顎を掴んで思い切り唇を奪う。


「ん?!ちゅ…ちょっと…もう…れぉ…はぁはぁ…ごうーいんすぎだわ」

 

 久遠さんは息を荒くしている。僕は彼女の手を引っ張って、ベットの方に連れて行こうとする。


「ちょっと待ってシャワー浴びましょう。それにベットは駄目」


「ベットが駄目?じゃあどこでヤんだよ」


「ソファーでいいじゃない」


 この女はビッチのくせにベットだけは使わせてくれない。そこは越えてはいけない一線らしい。あほくさい。超えちゃいけない一線ならとうに超えてるくせに。些末なジンクス作って免罪符にしてる。本当に卑しい。昔は本当に優しい女だったのに。結局シャワーを一緒に浴びてせめてもの嫌がらせでベランダで抱いてやった。


「本当にひどい…いつもここだと乱暴にしか抱かないよね」


「ベットでなら優しくしてるだろ?ベットを使わせてくれない久遠さんが悪い」


 外で会う時ラブホなんかでやるときは優しくやっているつもりだ。本当は優しくしたいのに、ベットでやらせてくれないから、だから乱暴で強引にするしかないんだ。


「旦那と俺とどっちが気持ちよくしてるんだよ?」


「それは…。綾久君の方がずっときもちいいけど」


「けどなに?」


「綾久君昔はとっても優しかったのにね。どうして私たちこうなっちゃたんだろうね?」


 久遠さんも昔は俺にとっても優しいひとだった。でも旦那さんと結婚してから俺に優しくしてくれなくなった。俺は裸の久遠さんから目を反らしてベットの方を睨む。僕が先に好きだったのに。どうせ久遠さんの顔と体と若さだけしか好きじゃないくせに。僕はいっぱいいっぱいいいところを知っていたのに。そして俺たちは朝まで二人でソファーで抱き合って寝た。朝起きて部屋を出るときに札束の入った封筒を久遠さんが僕に渡した。これも免罪符なんだ。僕を金で買って罪の意識を誤魔化してるんだ。そんなに旦那さん相手に後ろめたいって思うのか。そんな風に思ってもらえるのか。羨ましさに悔しさを覚える。そして部屋を出た。













 僕はどこにでもあるようなワンルームのアパートに住んでいる。親はいない。兄弟も。親戚はいるけど、付き合いはない。実に現代的な一人っ子だと自嘲している。この部屋だけが僕に安らぎをくれる。この部屋には誰も来ない。一度だけ揚羽が来たけど、『ここで他の女とセックスしたのね』と言ってトイレでゲロ吐いて以来こなくなった。誰も来ない部屋は寂しい。でも誰かといると絶対にいつも痛い目に合う。痛くない人と一緒に痛いのに。どうしてそんな簡単な夢が叶わないんだろう。










****作者のひとり言****



本作はラブコメですよ。


面白いと感じていただけたら★★★をいただけると嬉しいです。






あと筆者は現在

MF10周年コンテストに

『嫁に逃げられたおっさんの冒険』


嫁コンに

『草原の花嫁』


を出しております。よろしかったら読んでくだっさったら嬉しいです。



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