第5話 戦場を統べるもの


「はあ!」


2つの武器がぶつかり合う。

ハルバードを突き出し、振り上げるラフム。


「……ッ!!」


『破壌無月』の出力を更に上昇させる。

全身の神経が赤く染まる。

先端が槍のように鋭いそれが、緋色の髪を切り裂く。


(早い!)


振り上げたハルバードの側面、斧を模した刃が、音速を超えて迫る。


「ぐッ……」


脳天に刃が触れる寸前、右手で持ったナイフで、受け止める。

力だけで言えば、拮抗していた。

けれど、このこう着状態は思いもよらぬ形で終わった。


「紅蓮よ」


ラフムが呟く。

小競り合っている刃で、爆発が起きた。

それは、小さな爆発。

火の粉がぼっ、と燃えたような。ダメージは無い。

けれど、俺の意識を逸らすには十分すぎた。

目にも止まらぬ速さで、距離を取るラフム。


(……!)


ラフムの背後を照らす、無数の火球。

一つ一つが太陽のように熱く、煌めいていた。


「爆炎」


ラフムの言葉でそれは動き出す。

迎撃をしようとナイフを構える。


『まって!壊しちゃダメ!』

「!」


刃が触れる直前で、リリスの抑制が入る。

ナイフの軌道をずらし、火球の弾道から外した。


「なに!?」


躱された火球は勢いそのまま地面に衝突し、爆発した。


爆炎マインフロア。追尾型爆弾。下手に迎撃でもしようものなら爆発して死ぬ。初見殺しに特化した技。炎神あいつの加護だから、油断しないで』


性質は分かった。

けれど、ラフムの背後には無数の火球。

捌けるかは別の話だ。

やれて4.5発だろう。

なら、大元を叩くしかない。

『破壌無月』の出力を限界まで上昇させる。

網場に緋色が展開する。

死が飛びかかる。

温度の上昇。溶けそうなぐらい暑く、燃え盛る。


「さぁ、燃え盛れ。燃え盛れ。其は戦場を総べるもの。其は生命を支配するもの。

呼び起こそう、星の怒りを。

思い出させよう、白昼の祈りを」


ラフムは空を見上げ、更に火球を作り出す。

10、20、数えるだけでも億劫になってくる。

紙一重で火球を避け、ラフムとの距離を縮める。


ハルバードの射程に入った。

後数歩で、ナイフの射程圏内に入る。


「はあ!」


ハルバードが迫る。

肩を斬られた。足は動く、関係ない。

ハルバードの当たらぬ距離。

もはや、ラフムに防ぐ術なんてない。


「な……ッ」


首元の甲冑がナイフを弾く。

鈍い金属音が滲み出る。


「なんだ……お前……」


さっきまで、ラフムは鎧を着ていなかった。たった一瞬で一部だけとは言え、虚無から鉄壁を生み出した。


「ああ、旅人よ。これが俺の本当の能力だ」


ラフムは俺の身体を掴む。

極炎の爆発が起きた。

それはラフムすらも巻き込む、死の爆弾。

身体が焼かれる。

肉が燃え盛る。

炎が残った肉を喰らう。


「ああ、虚しいな。勝利というものは」


隣には骸となった侵略者。

心臓は止まり、臓器は粉々に砕け散った。


「盃に灰は要らない。必要なのは血だけだ、さて」


ラフムは俺の身体に拳を突き刺した。

中身を漁り始めた。

アレフはどこからか黄金の盃を出し、俺の血膜を注ぐ。


「!これは……まさか……」


最初に声を上げたのはラフム。


「貴様、まさか……。◼️◼️神の……!」


骸へと怒鳴り声をあげる。

だが、それがラフムの敗因となった。


「!」


それは、小さな割れ目。

けれど、何か物についているのではなかった。

パリン。それは、空間。

パリン。それは、空虚。


気になって、ラフムは割れ目を確認する。


「!」


小さな割れ目から、黒い鎌らしきものが飛び出した。

それが、空間を抉り取る。

時空が切り裂かれ、神が降臨した。

巨大な鎌を持った、金髪の少女。リリス。


「炎神の契約者よ。貴様はやり過ぎた。お前は私の怒りを買った」


瞬きの一瞬でラフムの首を切断した。

それと同時に、地響きがなった。

至る所の火山が噴火した。

星がなった。

命がなった。

死がなった。


「お前、ッ!くそッ、よりにもよってお前が」

「さ、どうする?ヴェルサイユ。やるって言うのなら私はとことん戦うけど」


ウィロの動揺。隣には骸となった契約者。

この動揺は、契約者を失ったものからか、それとも……。


「……ッ!」

「人の秘密を勝手に話そうとするものは死に値する。そして、そんなものを生み出したこの星も」


大鎌を振り抜き、また時空を切り裂く。

ウィロはリリスと同じように虚空を切り裂き、どこかに行ってしまった。

リリスが俺の手を引っ張る。


お前の負けgame overだよ、ヴェルサイユ。私の怒りを買って、この星もろごと消えてなくなれ」


それだけ言って、俺たちはもといた世界に帰ってきた。





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