【第9回カクヨム中間選考突破!】働け!僕らのスーパーロボット!
タダカタル
プロローグ 「ぼくの一歩」
スーパーロボットのパイロットになりたい。
そう思うようになったきっかけは今でも鮮明に覚えている。あれは僕が小学一年生の頃、車椅子の僕と親友のキオちゃんとで東京の国立ロボット博物館に二人で遊びに行った時のことだった。
「ねぇ、ねぇ。キオちゃん。昨日のこと覚えてる?」
「ああ、覚えてるけど。お前、あれ本気だったのかよ」
「もちろん、本気。起動用のソフトはもう作ってあるから、あとはインストールするだけだよ」
「でも、引率のお姉さんがいるだろ、直ぐにバレるって」
「一生のお願い! 作戦は考えてあるから大丈夫!」
「分かったよ。一度、言い出したら聞かないもんなピノは」
キオちゃんは乗り気ではなかったが、どうしてもロボットに乗りたいという僕のワガママに渋々付き合ってくれた。
もしキオちゃんに断られていたら、その場で地団駄を踏んでいただろう。それくらいに僕はロボットに乗りたかったのだ。
「お姉さん。すみません」
「なにかしら。良平くん?」
「おトイレに行きたいんですけど」
僕は見ての通り体が不自由だ。誰かに連れられてもらわないとトイレですら、まともに行けない。
「分かったわ。私が付いていくから。この階のトイレどこにあったかしら?」
「そのことなんですけど」
僕はもじもじしながらお姉さんに話した。
「おねえさんに連れて行ってもらうより、キオちゃんに一緒に来てもらいたくて。その初めての人だと恥ずかしくて」
僕の場合、トイレはただついて行くだけではない。用を足すのにも手伝いが必要だ。一応、引率のお姉さんも僕の体のことは知っているが、どうもトイレについて行ってもらうのは気が引ける。そんな感じの演技をした。
「分かったわ。きょうじくん。悪いのだけど、りょうへいくんのトイレ、お願いできる?」
「いいよ、別に。コイツのチン○ンは百回くらい見てるし」
「じゃあ、お願い。でも、なにかあったら直ぐにお姉さんを呼んでね」
「お姉さんって年齢じゃないだろ。おばさん」
引率の女性は眉間にしわが寄ったが、笑顔は崩さなかった。キオちゃんはどうも一言多いところがある。さっきまで自分でもお姉さんと言っていたのに、何かあると直ぐに悪口をいう。
僕たちはトイレに行くふりをしながら、目当てのロボットがいるエリアまで移動した。
「マジで、これ動かすのかよ」
「そう。日本でスーパーロボットが導入される前まで配備されていた、警邏用ロボット。パーツは基本金属メインだし、ソフトさえあれば、誰でも動かせるよ」
「でも、どうやってコックピットまで行くんだよ。俺はともかく、お前はムリだろ」
「そのための秘密道具を持ってきたよ。ほら、これ」
僕は抱えていたバックから、頑丈そうな布と縄を取り出した。
「まさか、それ使ってお前を担ぐのか」
「大丈夫、布も縄も土木作業用の丈夫なやつだから。縛り方も勉強してきた」
キオちゃんは僕が事前に準備した布と縄を使って、僕の背中に巻き付けて、肩掛けポーチのような状態で、僕を背負った。
そのまま周りの人に気づかれないように、抜き足差し足でロボットに近づいた。忍者ごっこをしているようにで、僕はワクワクが止まらなかった。
ロボットの足元まで近づいたら、近くにあった梯子を使って、直立しているロボットの腰部分まで移動した。そこから先はロボットを背中についてある足場ボルトを使ってコックピットまで登った。
僕には左腕しかついていないから、コックピットに着くまでキオちゃんの背中にギュっとしがみ付いていた。キオちゃんは細い体付きをしているのに、僕を背負って登れる筋力があることに僕は驚いていた。
「やっと着いたぞ。はぁ~ピノお前やっぱおめぇよ」
そう言いながら、キオちゃんはゆっくりと僕を降ろした。幸いコックピットのハッチは最初から開いていたので、すんなり中に入ることができた。
「ありがとうキオちゃん。あとはぼくに任せて」
自慢ではないけれど、僕は小さい頃からロボットに詳しかった。これは多分じいちゃんの影響だ。
じいちゃんは基本いい人ではあったけど、今で言うマッドサイエンティストみたいなところがあった。後学の為にと言われながら、僕はじいちゃんのロボット開発の実験台にされることがよくあった。
そのせいか、ロボットのハードウェア、ソフトウェアどちらの知識も当時からそれなりに持っていて、こっそりロボットを起動させるくらいは僕にとって朝飯前だった。
その時はそう思い込んでいた。
僕は自分に付いているたった一本の腕と五本の指を使って、持ってきた起動用のディスクを差し込んで、ロボットを起動させようとした。
“これでうまくいく!みんなをおどろかせてやるんだ!”
心の中でそう叫びながら、起動のスイッチを押した。
でも上手くはいかなかった。
ロボットは突如暴走した。エンジン部分から轟音が鳴り響き、僕とキオちゃんはあまりの音の大きさに耳を塞いだ。
制御不能になったロボットは右へ左へグラグラと揺れながら、周りにある展示物や他のロボットを破壊していった。
片耳しか塞ぐことができなかった僕は右耳の耳鳴りがひどく、頭がフラフラしていた。
キオちゃんはフラフラな僕を抱えながら、開いているハッチから外に出ようとした。開いたコックピットのハッチから見える外に広がる光景は僕にとって地獄そのものだった。
僕の大好きなロボットが、他のロボットを破壊している。
周りに響き渡る人々の悲鳴を聞きながら、僕は茫然としていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!」
気づいたら、僕はその言葉を繰り返し呪文のように唱えていた。罪悪感で心が押しつぶされそうだった。
「しっかりしろ。ピノ! 今は助かることだけを考えろ!」
キオちゃんがそう怒鳴った。怖さで震える体で、僕を必死で抱きしめながらコックピットに引き戻した。
でも、今の僕には何も考えられない。僕はまだ子供で、後悔と恐怖で頭の中が真っ白になっていた。
「もうダメだよ。みんな壊れちゃうんだ。みんなぼくのせいだ」
小声で僕は言った。そんな僕を見て、キオちゃんはこう言ってくれた。
「バカ言ってんじゃねぇよ。バカ野郎!ここまでお前を連れてきたのはおれだ。半分はおれが悪い。だから、あきらめんな!」
今だから言えるけど、こういうピンチな時に人を励ますことができるのは、本当にすごいと思う。
六歳の頃からこれだけしっかりしているのだから、キオちゃんは立派な大人になるのだろうと僕は思った。
その時だった。ゴオオォォというけたたましい音ともに一機のロボットが博物館の壁を壊して、館内に入ってきた。
「うおぉぉ!みんな待たせたな!正義のスーパーロボットの登場だ!」
これまた大きな音でスピーカーから流れる男の声が聞こえた。
若い男性の声で、自信に満ちたその声を聴いた途端、僕のもうダメだという不安は助かるという希望に代わっていた。どうしてだか、今でも不思議に思うが、その時は強くそう感じた。
そして、何よりも銀色に輝く、そのスーパーロボットのカッコよさに僕は息を呑んだ。
「ところで、そこのロボット。博物館内で暴れるとはいい度胸しているな。これからこの俺が成敗してくれよう!」
歌舞伎めいた口調の声を聞いた後、僕は咄嗟にロボットのスピーカーをオンにした。
「ごめんなさい! 実はぼくがこのロボット動かしました。ロボットは悪くありません。悪いのは僕です」
馬鹿正直に僕はそう答えた。突然ロボットから子供の声が聞こえたので、むこうもかなり驚いていたのだろう。少し間があってから向こうのスーパーロボットから声がした。
「あはは。そうかぁ。正直で実に良い。君が動かしたのか。それはすごいな! ところで今君年いくつ?」
「今年で六歳になりました」
「六歳! これはまた。君はいつか大物になるよ」
僕を安心させようとしたのだろうか。先程とは違うやさしい話し方で声を掛けてくれた。
「待ってくれよ。今からそのロボットを止めるけど、かなり揺れるかもしれないから、辛抱してくれ」
「分かりました!」
そう返事をすると僕はキオちゃんにロボットのハッチを閉めるように指示した。
「なんでハッチ閉めんだよ。出られなくなるだろ。」
そう言うキオちゃんに、僕はコックピットの中央に来るように招いた。
「大丈夫。こういう大きなロボットは強い衝撃を受けると搭乗者を守るためにエアバックが膨らむようになってる。開いたハッチから外に投げ出されるよりこっちの方が安全だよ」
僕たち二人はコックピットの中央で支え合いながら、無理やり操縦席に付いているベルトを自分たち装着した。一人の席に小さい二人でベルトを締めたものだから、僕の頭に海賊の眼帯のような形でベルトが締まってしまった。
「準備はできたかい?それじゃ行くぞ。いち、に、さん。うおりゃ!」
コックピットが激しく揺れた。体の下に感じていた重力が背中の方に移動した。後で聞いた話だと、この時に銀色のスーパーロボットは僕たちの乗っていたロボットを思いっきり蹴り飛ばしたらしい。
ロボットの背中が地面とぶつかった瞬間、コックピットのエアバックが四方八方から開いた。開いたというか押しつぶさたというのが正解な気がする。
「うぎゃ!」「ぐわぁ!」
エアバックの衝撃で鼻血が出たのは今でも忘れない。エアバックって思っている以上に強烈な勢いで膨らむので、場合によっては鼻の骨が砕けることがあるらしい。
蹴られた衝撃で、ロボットの緊急停止機能が作動した。少しずつエアバックが萎んでいくのが分かった。
「もう大丈夫。君たちの乗っているロボットは完全に止まった。もう出てきても大丈夫。というか出てこれる?」
銀色のスーパーロボットが僕たちの乗っているロボットに近づき、ロボットの背中だけを起こして、ロボットの後ろについているハッチをこじ開けた。
そして、開いたハッチを見て、キオちゃんが僕を抱えながら外に出た。
「二人も乗ってたのか。仲いいね。俺のダイギンジョーの手に乗ってくれ。下に降ろしてあげるから」
僕たちが手に乗り移ると、スーパーロボットは背中だけ起きているロボットを離れて、ゆっくりと僕たちを下に降ろしてくれた。
「そうだ。せっかくだから今日のスーパーヒーローが挨拶をしてあげよう。えぇ~とコックピットのハッチを開くスイッチは…。うぉ!」
素っ頓狂な声が聞こえたかと思うと、スーパーロボットはバランスを崩し、片足手で立ちながら、まるで阿波おどりでも踊っているかのようにグラついた。
ハッチを開けようとして、操作ミスをしてしまったのだろう。でも、すぐに態勢を立て直して、今度は仁王立ちをしてこちらの方を向いた。
「あぁ!もぅメンドクサイ。このままでいいや」
パイロットは開き直って、僕たちに話しかけた。
「二人と共、今日は諦めずによく頑張った。それは誇っていいことだ。だけど、二度とこんなことするんじゃないぞ。今日は人的被害がなかったからいいもの…。いや良くはないか。展示物はぶっ壊れてるし…。とにかく博物館の人達にすっごく迷惑を掛けた。」
そして、スーパーロボットの指で僕たちを指しながら、
「バツとして今日迷惑を掛けて人たち全員に謝罪すること。そして、涙が出るまで目一杯𠮟られてこい!それが終わったら原稿用紙十枚分の反省文を書く。以上!」
そう言うと、スーパーロボットはクルっと僕たちに背中を向けて、自分で破壊した博物館の穴の方に体を向けた。
少しずつ歩きながら右手を伸ばし手でグッドポーズをしながら、穴を抜けていった。
離れていくスーパーロボットの背中を見ながら、僕はこう思った。
“いつか誰かを助けることができるスーパーロボットのパイロットになりたいと!”
==それから月日が流れて==
“早く!早く!急がないとバスが来ちゃう! ”
彼はケーブルで繋がっているスマートフォンを見ながら、ソワソワとSNSの返事を待っていた。ぼさぼさの髪の毛。くりくりとした瞳。
童顔で人を疑うことができなさそうな顔をしている。身長からして中学生くらいだろうか。自信のない挙動不審な態度がそう感じさせる。
“スマートフォンは外に持ち運べるのだから、ケーブルに繋いでなくても、外でも連絡が取れれば良いのに!”
彼は心の中で、悪態をついた。それは多分、スマートフォンを持っている人間なら誰もが一度は思うことだろう。そんな当たり前なことを考えずにはいられないくらいに、彼は焦っていた。
ピコン!彼の携帯が鳴った。
【ピノ。ごめん!返事遅れた。今日予備隊の面接日だっけ?】
彼はスマートフォンに浮かんだ文章を読むなり、左の手の指ですぐに返事を打ち込んだ。
【そう今日が面接日!お腹が痛いよ。途中で漏らしちゃったらどうしよう】
返事は素早く返ってきた。
【バカ言ってんじゃねぇよ。バカ野郎!面接、頑張って来いよ。応援してる】
その文章を見て、彼はホッとした表情を画面の前に浮かべた。親友からの月並みな応援ではあったが、彼を勇気づけるには十分だった。そして、最後の返事を打ち込んだ。
【ありがとう!じゃあ、行ってくるね!】
彼は自分の腕時計に目をやった。面接会場に向かうバスが、あと三分でバス停に到着する。
手元にあった冷めたミルクティーを一気に飲み干し、底の方に溶け残った砂糖が付いているカップを置いて、彼は席を立った。
そして、彼はリュックサックを体の前に背負い、お店のマスターにごちそうさまでしたと挨拶をして、喫茶店を後にした。挨拶をされたマスターはニッコリと笑顔を浮かべて、彼を見送った。
これから新しい一歩を踏み出す彼の後ろ姿を見ながらマスターはこう思った。
まるで、童話に出てくるピノッキオのような少年だと。
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