移動屋台わことん

ムディフ

一人目 中年のおっさん

カラスが一羽看板に止まった 

「本当に寒いな」

 今日もまた小言をいいながらいろいろ準備する。

思い出したかのように自分の故郷で夢だった屋台を開く···

いつもならこの場所は避けている、ここが嫌いだからだ。

嫌いという感情には理由がつきまとう、特段話すに足らないので割愛する。

 「しっかし、ここも変わったなー。」

 いつからか、ここを懐かしむような年になっていた。

その感情を変わり果てた町がより加速させる、昨日までは青々とした

自然が覆うこの場所も今では安っぽい光が覆ってしまった。

 「そろそろ、始めますかー。」

 あくびをしながら、自分に喝を入れた。

寒い風が肌を撫でてきた、すると寒気はたちまち全身に広がる。

 こんな、日だから客足は期待してはいなかった

というよりは客が来ないことをどこか願っていた、確かに生活は苦しい

それは事実だが。

 出汁を温めていると

 「大将、やってるかい?」

よくいる、中年のおっさんがのれんを開ける

 「久しぶりにこれを言ったなー」

それを言う、おっさんはどこか嬉しそうだった。

 「おう」 

ぎこちない返事をした。

 「おっと、こりゃあ驚いたな!」

おっさんは続けた

 「若い兄ちゃんが切り盛りしてる屋台があるなんてなー」

 「まあ、それとしてまずは酒をくれないか!」

まだ、酒を呑んでいない筈なのにどこか酔っているように聞こえる

 「わかりました、それにしても楽しそうですね、なんか有ったんです?」

ついさっきまで、尽きていたやる気が再燃したように僕は話しかけた、

 「そりゃ、久しぶりに見つけた屋台だからな!」

その話聞きながらお酒を注いだ、

 「兄さんこそ今どき屋台なんて、珍しいな、大丈夫か?」

注いだばかりのお酒とサービスのつまみをおっさんの前に置いた後に言った

 「ええ、こうやって人と話すのに生き甲斐を見いだしたからでしょうかね、むしろ今の方が自分は楽しいですよ」

 思ってもないことを口にしてしまった。

もちろん人と話すのは好きだが、いろんな人と関わるに連れて自分のやる気は下がっている、こんな世の中だからか吉報っを嬉しそうに話す人はいない

その、せいなのかもしれない。

 「夢を追えるなんて幸せなことじゃないか、自信を持ちな!」

気持ちが顔に出てしまったのか、おっさんは顔を下に向けていた。

おっさんは顔を下に向けていたが、そこにはたしかに優しい表情をした

大人がいた。

 「じゃあ、昆布でも頂こうかな!」

つまみを片手に持った箸で挟みながらおっさんは言った。

 「あいよー」

そう言いながら僕はおっさんの方を見た。

胸元のポケットから有名なキャラクターのキーホルダーがはみ出ている、

そのキャラは有名な特撮ヒーローだ。

 やっぱり特撮はいろんな人が見るんだな。

そんなことを考えながら周りを見渡していると別のカラスが来た

 僕はおっさんに聞いた

「特撮、好きなんですか?」

「おぉ、すごいな兄さんなんでわかったんだ?

でも好きと言える程は見てないな、子供がファンだったんだ、毎晩一緒に見てたんだよ!」

 おっさんはすごく楽しそうに話してた。

「そのヒーロいいですよね。まさか、ヒーローに変身する人が

変わってくんですからね、みんなから怪物だって怖がられるヒーローも珍しいですよね」

 おっさんはすこしためらいながら話した。

「そうなんだよ、でも怖がられてもみんなを助けるってのがいいんだよ俺も

みんなをまもるんだーっていつもテレビの前で叫んでるのがまた聞きたいよ」

「子供の成長は早いですからね」

僕はそう、相づちを打ったが多分間違いだったのかもしれない。

そんなことを考えながら周りを見渡すと、またカラスが来た。

今日はよく来るなと思いながらその後も、おっさんとは他愛もない話をした。

____________________________________________________________________________

「そう思いますよね!やっぱカマキリが一番かっこいいんですよ!」

いつの間にか虫で何が一番かっこいいのかという話になっていた、

 「兄さんは話がわかるな!それでこそ屋台の店主だよ」

僕が続けた

 「昔、捕まえたカマキリがいたんですけどね、どうやら寄生虫に犯されてたみたいで、僕が友達に見せようとしたら死んでたんですよ、

最初はそれがわからなくって、家に帰ってからわかったんですけどね、

もうその日は一晩中泣きましたよ」

「そりゃあ、悲しいな· · · 」

おっさんが続きを話そうとしたら、携帯がなった。

 「ちょっとごめんな。」

 そう言いながら胸元のポケットからスマホを取り出したそしてっおっさんは携帯をパカッと開き電話に出た

笑顔だったおっさんはいつの間にか少し寂しそうに話していた

おじいさんは静かに携帯をたたみ胸元のポケットにしまった。

さっきまでいたカラスはどこかへ飛びたった

「昔はさあ、虫にだって一晩中泣けてたもんだ。」

そしてもう一匹のカラスも後を追うように飛んだ

「でも、大人になったら身近な人の死でさえ時間はやれなくなった」

「すまん急用が出来た、これでうまいもんでも食ってくれ」

そういうと、おっさんは3万をおいて足早にのれんをくぐった。

僕が何か言う隙さえなかった。 

 後にはグツグツという音しか聞こえなくなった。

人の生き方に口出しするつもりもないが、どんなに頼りがいのある人になっても人は常に寂しがりやだ。だからこそ、その側には誰かがいる。

いくら距離が有ってもいることにはかわりないのだ。

「次はどんな人が来るかな···」

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