奇妙なショートショート

ナマコ

母子家庭

アランの家は母子家庭だ。

父親は彼が物心つく前から亡くなってしまった。

家にはアランと母親の二人だけだが、幸せに暮らしていた。

そんなアランも5歳になり、家には母親と二人だけのお誕生日会が開かれた。

テーブルには1日では到底食べきれないような大きなケーキが置かれ、5本のロウソクが刺されていた。

「アラン。5歳の誕生日おめでとう。さぁ。思いっきりロウソクの火を消すのよ。」

かわいい我が子の誕生日に母親は満面の笑みを浮かべていたが、アランはなんだか不思議そうだった。

「ねぇ。ママ。」

アランはロウソクの火を吹き消せずにいた。

「近所の子達はパパがいても貧乏な子はたくさんいるのに、なんでうちはパパがいないのにこんなにお金があるの?」

確かにアランは母子家庭だというのに、いつもほかの子より綺麗な服を着て、欲しいおもちゃもすぐに買ってもらえたり、いつも食卓には豪勢な食事が用意される。

そんなことに疑問を覚えられる年齢になったのだ。

母親は一瞬表情を曇らせた後真面目な顔になった

「アラン。あなたにも話さなきゃいけない日が来たようね。ちょっとこっちへいらっしゃい。」

母親はロウソクを手にして、息子の手を引いた。

ロウソクの明かりを頼りに、暗がりの廊下を歩き

ある鍵のついた柵の前に立った。

ポケットから鍵をだして、柵の扉を開けた。

「いい?今から見ることは誰にも言っちゃあだめよ?ママと約束できる?」

「うん」

「じゃあ行きましょう」

母親はロウソクを前にかざすと、柵の向こう側は古びた階段になっていた。

ギシギシと階段をのぼる。

上りきると前方の廊下の向こうに扉があった。

その扉は古びた頑丈そうな鉄でできていた。

「あの扉の部屋の中には神様が住んでいるの。」

「神様?」

「ええ」

母親は続ける。

「この家にはね、神様を住まわせているの。神様が住む家はお金持ちになるの。だからパパがいなくなってしまっても、神様のおかげでお金には困らなくなるの。」

「神様のおかげ?」

「やっぱりアランにはまだ難しかったわね。アランがもう少し大きくなったら教えてあげるわ。

さぁ。ケーキの火まだ吹き消してないでしょう?それからケーキ食べましょう。」

「うん!」

二人はそそくさと下へ降りた。

アランはまだ気づいてなかった。

鉄の扉の出し入れ口の手を出して助けを求める人柱を。









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奇妙なショートショート ナマコ @yominokoe08

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