始まり
次のニュースです。今日午前、都内の高校に通う男子生徒を殺害した容疑で、都内に住む二十三歳の無職である高橋圭吾容疑者を逮捕しました。高橋容疑者は警察の調べに対して、「俺はやっていない」と容疑を否認しているとのことです。
あぁ、そうだな。こいつはやってない。僕を殺したのはこの高橋圭吾というやつではない。
さて今、「僕を殺した」ってどういうことだと思ったそこの君。君のために状況を説明しててやろう。
僕の名前は、城川優輝。つい一週間前の七月二十六日に登校中刺されて死んだ。気づいたら幽霊となって現世に戻っていた。そこの仕組みはよくわからない。生前は、勉強はそこそこで運動は全くできず、教室の端で小説を読んで静かに過ごしているというような面白みのない人間だった。まぁつまり誰かに突然刺されるような恨みは買っていないはずだ。そんな僕がなぜ刺されたのか。その真相を探るために今犯人の家にいる。君は今、犯人が誰なのか気になっていることだろうから紹介しておこう。
「お母さん、今日学校休む。」
「はいはい、今日も休むのね。早く行けるようになりなさいよ。」
「分かってる!」
バン!と大きな音がしてドアが閉まる。
さて、今大きな音を立ててドアを閉めたこいつが僕を殺した犯人だ。
こいつの名前は、橘夕夏。僕と同じ高校に通う同級生だ。なぜ橘が犯人であることを知っているかというと、刺されるときにばっちり顔が見えたからだ。橘は高校一年の冬突然学校に来なくなった。あぁ、言い忘れていたが、僕たちは高校二年生だ。つまり、橘はもう半年近く学校に来ていない。同じクラスだった僕が見る限りいじめはなかった。仲のいい友達も二人ほどいていつも一緒にいるのをよく見た。不登校になった理由はわからない。僕自身橘と特別仲がいいわけではなかったので知ろうとも思わなかったが。そんな薄い関係だった僕を殺した理由はなんだろうか。ちなみになんで薄い関係だった僕が橘の家を知っているかというと、幽霊になったときに橘の部屋にいたからである。突然目が覚めたら知り合いの女子の部屋にいた。ここだけ聞くと僕がやばいやつみたいだ。安心してほしい。着替えなど誰もが見られたくないところは一度も見ていない。なんなら気づいた瞬間に部屋を出たし、それ以降入っていない。ただ、僕はこの家から出られないようになっている。一度出ようとしたが、バリアのようなものに阻まれて出られなかった。憶測でしかないが、橘が僕を殺した理由を知るまで出られないのではないかと思う。ただ、死人に口なしとはよくいったもので、
橘からは僕が見えないので、直接聞くこともできない。自分から勝手に何もない空間に話してくれれば楽なのだが、そんなことするわけもない。しかも、橘は自分の部屋に引きこもっているので、まず橘を見る時間も少ない。つまり、手詰まりということだ。となると、もう橘の部屋に入るしかないのだが、やはり気が引ける。これが男子の部屋なら何も気にせず入って調べるのだが、女子の部屋となるとそうともいかない。リビングや洗面所など橘の部屋以外はもうすべて調べ上げた。どういう理屈なのかは分からないが、夜十二時から朝四時まではものに触ることができる。そのわけのわからない能力を使って橘家の隅々まで調べ上げたのだが、関係のありそうなものは何もなかった。つまり、もう橘夕夏の部屋を調べるほかないのだ。罪悪感はあるが、こちらとしても早く成仏してしまいたいし、何といっても殺されて死んでいるので許してほしいところだ。ということで、今夜皆が寝静まった後に、部屋にお邪魔して調べさせてもらおうと思う。
さて、時間の巡りというのは早いもので、さっきまで午前だったのだが、今は夜中の二時半だ。なぜ二時半まで待ったのかというと、ただ僕が寝過ごしたからである。幽霊なのに寝ることができるのだ。しかも一度寝ると、十二時間は目覚めないという特典付き。本当に必要のない特典だ。さてと、時間も押していることだし、さっさと調べてしまおう。この十二時から四時までは幽霊なのに、通り抜けができないというこれまた意味の分からない体になるので、おとなしく階段を上り、部屋の前まで行く。できるだけ音をたてないようにドアを開けて閉める。よかった、橘は寝ているようだ。今のうちにさっさと調べてしまおうと部屋を見た瞬間僕は絶望した。部屋が汚すぎる。足の踏み場がない。そこら中に服や香水、メイク道具、教科書などが散らばっている。中には明らかに大事そうな書類もある。
その中で、僕は手掛かりになりそうな日記と書かれたノートを見つけた。だが、そのノートはそれだけ抜き取ると明らかに大量のものが崩れそうなところにある。さっさと調べてしまいたいのにこれは時間がかかりそうだ。とりあえず、ばれない程度にものをずらして日記を救出しよう。そう思って足を進めた瞬間、入り口付近に積みあがっていた服の山が崩れ落ちた。その瞬間、
「なに?」
橘が起きてしまった。まずいと思ったのは一瞬のことで、僕は僕自身が死んでいることを思い出した。そう僕は幽霊なのだ。普通の人に見えるわけがない。そう思って、足を進めようとした瞬間のことだった。
「は?なんで?なんであんたがここにいるのよ。あんた死んだはずでしょ。」
橘がひどく動揺した顔で僕に向かって声を発した。
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