第33話 底辺配信者さん、部位破壊【脳】を決められる
信じて送り出した幼馴染のエモ―キン(スライム)。
そのエモ―キンに故郷へ帰ることを拒絶された。
そんなエモリスの胸中やいかに。
もしかして、時の流れがエモ―キンを不良にしてしまったの?
あんなに青く光るなんて、まるで輩みたい……! ゲーミング輩……!
昔はいつもわたしの後をついて回っていた、いい子だったのに……。
ダンジョンの悪い仲間と付き合って道を踏み外してしまったんじゃ……?
てことは、このままではいずれ勇者や冒険者に悪い魔物として狙われて……経験値にされて……エモ―キンが死んじゃう!
そんなのやだ!
ここはわたしがなんとしてもダンジョンからエモ―キンを連れ出さなきゃ。
そして、村に帰るの……!
そんな決意を新たにするエモリス。
実際のところ、別にエモ―キンは信じて送り出されたわけではなく、エモリスになにも告げずに姿を消している。
納得しての別れや旅立ちだったわけではない。
だが、エモリスの中でエモ―キンは小さい頃のまま。
柔らかく赤い光を発しながらエモリスの後をついて回っていた、かわいいエモ―キンのままだった。
だから、エモリスにとって今回のエモ―キンの拒絶は唐突で、飲み込めない。
自分の言うことを聞かないわけがないのだ。
ちなみに柔らかく赤い光は好意や肯定を意味するとともに、食欲を意味することもある。
「……ええっと、エモ―キン? よく聞いて? なにがあなたを変えたの? どうして?」
エモ―キンは濃い緑色に輝いた。
緑色の光は疑問や驚きを意味する。あと食欲。
「わたしはエモ―キンが怖い目に遭ってるんじゃないかとか、お腹を空かせているんじゃないかとか、ずっと心配してたんだよ?」
スライムは柔らかな赤色に輝いた。お腹が空いているようだ。
「ね? もうそんな心配かけさせないで? ダンジョンでの生活も大変でしょ? そんな辛いことわざわざしないで、村に帰ろう? エモ―キンはそんな危ないことしなくていいんだから。ビッグになるとか、そんな夢みたいなこと考えないで。今もエモ―キンは小さいまま、わたしのかわいい弟だよ」
そして、さあ、行こう? と両手を広げるエモリス。
それに対して、エモ―キンはどぎつい赤からオレンジ、そして深い青へと光の色を変化させた。
強い赤やオレンジの光は怒りや興奮を、深い青は悲しみを意味する。そしてそれらに加えて、強い食欲の意思表示でもあった。
『なるほど、わからん』
『なんて?』
『これは意思疎通できてる』
『エモリスちゃん、ぷにょちゃん図鑑で枠とって配信してるだけあるな』
リスナー達ではエモ―キンの意志を光から読み取ることができず、戸惑うコメントばかりが流れる。
だが、クモの女神の神官にとってはそれは意味不明な発光ではなかった。
「……なんとなくだが、こいつの言いたいことが私にはわかるぞ」
メリッサはどこか沈んだ目になって呟く。
「お前が言うようなこと、このスライムは望んでいない」
「え、えっと、メリッサさん? そんなことないですよ。わたしが一番、エモ―キンのことはよくわかってるんです」
「じゃあ、今、こいつはなんて言ってるんだ? お前の言葉に嫌々をしているように見えるんだが?」
「い、今はちょっと、わたしとの久しぶりの再会でびっくりして照れちゃってるだけで……」
そんなエモリスに、メリッサは首を振る。
「いいや。このスライムにはこのスライムなりの望みがあって、そのためなら犠牲を払う覚悟がある。だから、このダンジョンにいる。……そして、その望みが叶うまで決してここを離れないだろう」
エモ―キンの身体がうっすらと赤く光った。
それを見て、メリッサは頷く。
「肯定のようだな」
「あれ? エモ―キン……?」
「このスライム、私の言葉も聞こえていて理解もできてる。このスライムと意思疎通できるのはお前だけじゃないようだぞ」
『あれ? これって……』
『寝取られ感でてきたな』
『
『仲良しの幼馴染が後から出てきた神官に取られた!』
『エッチなマンガでよくある展開……!』
一部の性癖のリスナー達がざわついたが、大半は無視したという。
メリッサはエモ―キンをしげしげと見つめて言った。
「……こいつが音の振動を捉えられる疑似耳を持っているのは間違いない……どこまでの能力を有しているのか、実に興味深いな」
エモ―キンが今度は黄色に輝き始める。
黄色は喜びや幸福感の発露だ。それと当然、食欲。
それを見て、エモリスはあわあわと落ち着かない。
「あっ、あの、なんで……なんでその子のこと、わかっちゃうんですか、メリッサさん? わたしは幼馴染で……その子のこと一番わかってあげられる、それはわたしなのに……」
「幼馴染として近くにいたからこそ見えなくなってるんだろうよ、お前は」
メリッサはエモリスに言い放つ。
「こいつはお前に護ってほしいとも安全なところで保護してほしいとも思っていない。そうじゃなくて、力が欲しい。大きな力が。……そうじゃないか?」
問われてエモ―キンが柔らかな赤に光る。
「……なら……さっき私をデーモンに齧らせたことはムカつくが……それは置いておいて私が力を与えてやろう。……私もそのために来たんだ。私と共に来い」
「メリッサさん!? まだその子を研究用に連れていくつもりなんですか!?」
「違う。私の研究用とか、そういう話じゃない」
メリッサはエモ―キンを崇めるように頭を下げる。
「スライムよ、魔王軍に来るんだ。私は……私達はお前をこのダンジョンの王にしてやれる」
その誘いは厳かで、神との誓約のように辺りに響いた。
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