十五夜の夜に

のぶっちぃ

第1話 スナック「ななし」

ここは南関東の地方都市にあるスナック「ななし」である。


スナックママは店の名前と同じ「ななし」今夜もまた彼女に会いに夜の帳の中から世捨て人が一人。


「いらっしゃい、あら珍しいわね、こんな夜に外で歩いてるなんて」


『今日は月が紅くて綺麗だからさ』


男は誰もいないカウンターの一番奥に陣取る。


「確かあんたはいつもトマト割りだったわね?」


『あぁ、よく覚えてたね、ななしママ』


「何年ぶり?」


『二十年ぶり』


「もう二十年も経つっけ?」


『あぁ二十年、最後に来たのもこんな月の綺麗な夜だったよ、その頃はまだ月が黄色く見えていたけどね。』


「まだあの事引きずってるの?」


『終わる事は無いさ』


「ゆっくりしてってね」


『相変わらずママは優しいね、懐かしい、、、ここに来れて良かった』


「ホント珍しいわ、貴方が長く話すなんて、、あら?」


誰もいないカウンターに飲みかけのグラスと二十年前の一万円紙幣と赤錆た手

斧だけが遺っていた。


「あの人もまた私を置いて逝ってしまったのね。」


一人の男が極刑によりこの世から消えた。

二十年前の十五夜の夜、一人の社畜が妻と浮気相手の上司を斧で斬殺した事件があった。

妻と上司の不倫等よくある話、ただ男は訴える事よりも全てを壊す方を選んだという。ただ不思議な事に凶器の斧だけは未だ見つかってはいない。


血塗れた手で最後に向かったのは場末のスナック「ななし」、破滅を迎えた人にだけ視える不思議なスナック。

そこには世捨て人達の最後の心の拠り所となる「ななしママ」こと唯乃ななしが居るという。




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十五夜の夜に のぶっちぃ @shino2020

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