任務

「遊園地での雑誌・YouTubeの撮影の流れはそんな感じ。四人とも何か質問はある?」

「あの・・・・」

「はい、新太君どうぞ。」


麻里がそう言って俺に視線を向けると、隣に座る西宮とその前に座るキヨと志乃も俺に注目した。


「どうして僕もここに・・・?」


今日はキヨではなく、麻里に呼ばれて西宮の所属する事務所にやって来た。何か手伝いかと思っていたのだが席に着くなり西宮とキヨと共に例の遊園地の撮影についての説明を受けることとなったのである。


「新太君にも一緒に来てもらうからよ。」

そんな当たり前のように言うけれど、俺は部外者では無いのか?良いのだろうか?


「その、僕にできることがあれば勿論、お手伝いさせていただきますが今までこのような場に呼ばれることは無かったので、今回はいつもと違うのでしょうか?」


「今回は新太君に非常に重要な任務をお願いしたいの!」

「非常に重要な任務?」

麻里はその長い髪を手でサラリと靡かせると、俺に視線を戻して言う。

「前野新太君、貴方をカメラマンに任命します。」

「え?え?!カメラマンってどう言うことですか?!僕にそんな写真の技術なんてありませんよ!」


俺が慌てて情けない声を出すと案の定、麻里とキヨの二人が嬉しそうにニヤニヤし始める。


「雑誌の撮影は流石にプロに任せるわよ。」

「え?じゃあカメラマンっていうのは?」

「YouTubeの撮影だよ。楽しみだなあ、伊織!!」

キヨがそう言って後ろに座っている西宮の頭をポンポンと撫でる。すると志乃がその手を掴んで自分の頭の上に乗せた。


「こら、志乃。」

キヨが志乃の頭から手を離すと、志乃は珍しくむすっとした表情を見せる。

「キヨ君のケチ。」

「ケチ?この俺がケチだと・・・?」

「そうだよ。キヨ君、ケチ通り越して大ケチだから!」

志乃はそう言ってキヨからぷいっと顔を背ける。


「俺はケチじゃない!そうだろ?伊織!」

「さあ、どうだろう。」

「そんな・・・。」


キヨはケチと言われたことがショックだったようで明らかにしゅんとしていた。

西宮はそれを見て少し楽しそうだ。日頃揶揄われているお返しといったところだろうか。


麻里に関してはあらあらと楽しそうに笑っていた。


「話を戻すけど、うちは小さい事務所でスタッフも多く無いわ。さっき説明した通り、その日は志乃も遊園地で同じ撮影があって、YouTubeも撮る事になってるからそっちを私が担当するの。


他のスタッフは違う現場に行くから手が空いていなくて。それで新太君にお願いしたいの。」


皆が俺に視線を移す。

「まあ、一番の理由は他にあるけどね。そうよね、伊織。」

麻里がニヤニヤしながらそう言うと西宮は顔を赤く染めた。

西宮の方に視線をやると、ぱちっと目があった。


彼女はハッとした表情をした後、少し恥ずかしそうに目線を落としたが、すぐにまた目があった。

「新太君、来てくれる?」

小さな声で俺に問う彼女の顔は更に赤くなってた。

「僕がお役に立てるのなら、是非協力させてください。」


俺がそう答えると、彼女は目を細めて笑った。



翌日、バイトの為西宮を迎えに行くと、彼女はるんるんで家から出てきた。

天使である。


「おはようございます。」

「おはよう!」

西宮が今にもスキップしそうな勢いで歩き始めるので、俺も慌てて隣を歩く。

「楽しそうですね。」

「うん!来週には遊園地の撮影があるでしょ?その次の週はねキヨのお誕生日なの!」

西宮はそれはそれは嬉しそうだ。


「こんな事言ったら良く無いかもだけど、こんなに楽しみな撮影は初めて!早く来週にならないかなあ。」

「大好きなお兄さんとデートですもんね。」

「揶揄わないでよお・・・。」

西宮はそう言って少し顔を赤くした。


「お二人は本当に素敵な兄妹だと思います。」

「え?」

「本当に心からそう思います。」

西宮は目をぱちぱちとさせて驚いた後、微笑んで言う。

「だって、キヨがお兄ちゃんだから。」


「確かにSSランクのシスコンですねって言ったら、それ以上だ!って言われました。」

「ええ!何それ!」

西宮は照れたように笑っていた。



そして一週間後。撮影の日がやって来た。

キヨの車に乗せてもらったのだが、車内はカオス状態だった。


運転席にはるんるんのキヨ。

助手席には灰色のオーラを纏う志乃。


俺と西宮は対極な二人の様子を後部座席から静かに見守っていた。


「いやー!!楽しみだな!伊織!」

「え?あ、うん・・そうだね。」


信号で車が止まると、窓の外を眺めていた志乃が勢いよくキヨの方を見る。


「キヨ君!」

「ん?」

「私がデートしたいのはキヨ君なんだからね。キヨ君だけなんだからね。」

「え?」


志乃はそう言うとキヨから顔を背けて再び窓の外を眺めた。

キヨは少し不安そうに志乃を見つめたが、信号が青になったので車を走らせた。

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