第2話廃城②
焚火があることで思いの外、直ぐに少女の元へと戻ることができた。そういう意図はなかったが、煙が目印となった。
助けを求めて走っていた時に遠く感じたのは不安に苛まれていたからかもしれない。ブナの木の根元に体を寄りかからせたのはアデリーだったが、少女はその格好のまま頭を垂れていた。
「こ、呼吸していますか」
少女に駆け寄る男に問うと「まだわからん。お前は焚火に土を被せて消しておけ」と命じた。
本当は一緒に少女の元に行きたかったが、言われた通り火を消しに行った。火の近くに行くとしっかりした枝を拾い上げて湿った土を掘り返して被せていく。
「生きてたぞ。おい、眼を開けてみろ」
男の声に振り返るが、遠目で見ても少女はいまだ項垂れたままだ。
「駄目か。熱が高いな。とにかく連れて帰ろう」
男は難なく少女を腕に抱き上げた。それからブナの木に立て掛けてある少女の荷物を見下ろす。アデリーの上半身ほどある大きなカゴだ。
「これはお前のか? ああ、お前、名前は? 俺はダグマだ」
アデリーは手についた泥を叩きながら男の元へ駆けて行った。
「ダグマさん、私はアデリーです。それは私のではありません」
「とにかくアデリーが荷を担いでくれ」
もちろん承知して手に取ったが、それは想像より遥かに重かった。アデリーが生まれてこの方抱え上げた何よりも重いのだ。グッと引き上げたつもりが、荷物に引っ張れて前のめりに倒れそうになった。
「おいおい、それしき持てんのか? この子を背負って、俺がそっちにするか?」
呆れたように言われ、恥ずかしさで顔が熱くなっていく。
「いいか、腰を落とせ。背負ってから立ち上がるんだ」
言われた通り先にカゴについている綱を肩に通し、ブナの木にしがみつくようにして立ち上がった。肩に綱が食い込んで痛いが、それは口にせず歯を食いしばる。
「んで、アデリー。お前の持ち物はどこだ?」
アデリーが荷物を背負って立ち上がるのを眺めながらダグマが辺りを見渡した。
「あり……ません」
少しでも力を緩めたら膝が抜けてしまいそうだ。それを感じ取ったようでダグマはもと来た道を引き返しだす。
「生まれたての子鹿だな。その赤毛も相まって」
ダグマの腕の中にいる少女のようなブロンドであったら、どんなに素敵だろうと夢見たこともあるが、今はそうは思わない。髪と翡翠色の目はアデリーの誇りだ。
「私はこの……赤毛……が好きで……す」
ダグマは背を向けたまま肩を上げてみせた。
「俺も嫌いじゃないがな。赤毛の女は情熱的なのが多いし」
そんな話はいいから、早く先程の廃城に辿り着いて貰わないと腰が砕けてしまいそうだった。このカゴの中身が全部岩だと言われてもアデリーは驚かない。せめて塩漬けの肉だったら、辛くても運ぶのが苦にならないのにと思っていた。もしかしたら、お礼に少しだけ分けてもらえるかもしれないのだから。
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